2話
何かに惹きつけられるように鬱蒼とした森の中に足を踏み入れる。
雑多に生える草木が背の丈を優に越して視界を遮り、雨を吸い込んだ土に幾度も足をとられる。
そんな劣悪な環境の唯一の救いは、木々によって直接雨に打たれないことだけだ。
「さむい……」
濡れた長袖の服が寒さに拍車をかける。
家族で旅行に出かけたのが10月の下旬。まだ本格的な冬季ではないにしても充分な寒さを感じる。
事故に遭った後、崖下に転落してしまった車内で気絶してしまった私がどうしてあんな場所に居たのかは分からない。しかし、きっとこの森のどこかに姉と母がいるはずだ。
今はそれだけの希望を胸に森の奥へと進んで行くしかない。
慣れない地面の凹凸とぬかるみに体力を消耗する。足に疲労が溜まり、骨が軋む。
気付けば、辺りは一層暗さを増していた。じきに何も見えなくなってしまう。
その前にどこか休憩できる場所を見つけなければ。
雑多な木々をわけて進むと行き止まった。
小高い崖が前方をさえぎる。そこまで高くないので、端はそう遠くはないかもしれない。
崖は、丁度今の辺りで最大の高さをむかえていて、人が入れる程の洞穴を有していた。
洞穴の入り口は縦に半楕円を綺麗に描いており、自然が作り出したものとは到底思えなかった。
人工物であろうその洞穴を見て少し安心し、同時に期待が高まる。
もしかしたら私以外の人がいるかもしれない。
そう思い、洞穴に近付けば、嫌な臭いが鼻をつく。
雨のせいで入り口まで接近しないと分からなかったが、これは獣の臭いだ。
相当に生臭く、人が発するような臭いではない。
葉を激しく打つ雨音が、洞穴の奥の暗闇から何かが出てくるように錯覚させる。
そしてはそれはすぐに現実のものとなる。
「イノシシ?」
洞窟から姿を現したのは豚のような顔の両側に下から上に向かって逞しく牙を伸ばすイノシシのような獣が二頭だった。
一頭の牙はもう一頭よりもかなり控えめだが、二頭ともかなり興奮しているように見える。
鼻息荒く、今にも突進して来そうな雰囲気のイノシシを前に立ち尽くすことしかできない。
二頭としばらく無言の対峙が続き、先に仕掛けてきたのは牙を大きく生やしたイノシシだった。
「ブギィィ!」
と高い鳴き声を上げて猛然と突進してきた。




