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精霊使いと異邦人  作者: 武瀬 霜
本編
3/47

3話 フレンドシップ

 「はぁ〜。」

 二時間に及ぶ座学が終わり、そんな溜め息とともに机に突っ伏す。

 「ティアには悪いことしたな…。」

 朝の一件以来、授業中にもそのことで頭がいっぱいだった。

 フレンの村では、バルト・イグナスによる統治のおかげか人間とエルフがそれぞれ侮蔑されることはほとんどなかった。そんな村で今まで育ってきたからか、特に人間だのエルフだのと気にしたことはなかったのだが…。

 「ここは違うんだな。」

 いや。ここだけでなくフレンの村が例外だったのだろう。他にも同様な街や村があるかもしれないが、往々にしてこのセントペルムと一緒だろう。人種によって区別されるのは嫌な話だ。

 ティアはどう思っているんだろうか。

 そう思い、何度ととなく視線を向けた前席右側、廊下側の席を視界にいれる。

 ちょうど、戦闘ウェアが入ったカバンを持ったティアが席を立ったところだった。

 俺も慌てて支度をする。

 「ミキ。いこ。」

 「あ、ああ…。」

 そうティアに笑顔で言われ、朝の一件を気にしているのではないかと考えていた俺は少々腰を抜かす。

 俺も席を立ち、いつの間にか生徒もまばらとなっていた教室を後にする。

 「次はいよいよ実践授業ですね!楽しみです。」

 「そうだな。座学も大事だけど、体を動かさないと鍛えられないもんな。」

 そう返すミキにティアは少し不満顔になる。

 「私が言いたいのはそういうことではなくて…やっとミキと一緒に授業を受けることができるからで…。」

 言いながら、声がしりすぼみになっていきほとんど聞き取ることができなかった。

 「ごめん。最後の方、声が小さくて分からなかったんだけど何だって?」

 「何でもないです!」

 「そっか…。」

 少し赤面となったティアにそう言われ、深入りはしないでおく。

 やっぱり朝のことを気にしているのだろうか。そんな憂慮(ゆうりょ)を抱きつつ次の授業場所である体育館に向かう。



 「今から実践授業を始める。」

 生徒の前に並んだ四人の教師のうち、がっしりとした肉付きと百九十近く身長がある巨漢の教師が名簿を手に持ち、言う。

 「一年生は大体百人だな。では、予め教室に掲示しておいた通り、パートナーとともに各班に分かれてもらう。この人数だと少し狭くなってるが、初回のみ合同で行う。次回からは体育館とグラウンドで分けて行うため間違えないように。」

 以上。と教師が簡単に説明を終えると、すでに戦闘ウェアに着替えた教師と生徒達が決められた場所へと散開する。

 木造の体育館には十メートル四方の土壌でできた闘技場が4隅に1つずつ存在する。闘技場の周囲一メートルには囲いが掘られ水が満たされ、中に入るための板が一つ架けられている。体育館の天井も陽光が差し込む造りになっていて春のほのぼのとした日差しに心地よさを感じる。

 俺とティアは4つフィールドがあるうちの決められた場所に行き教師の指示を待つ。

 「よし、これで全員ですね。」

 名簿を持ち生徒の数が正しいことを確認する教師は先程とは違い、エルフ特有の細身な教師だった。

 「私は、この実践授業を受け持つレイニル・ジークです。この班はすでに精霊を扱える者ですね。他の生徒はまだ扱うことができないので、基礎からの訓練ということになりますが、この班は早速実践を積んで行きましょう。」

 穏やかな口調でそう説明するレイニルは生徒の顔を眺めながら呟く。

 「やはりほとんどエルフのようですね。おや?君は…。」

 とレイニルの顔がちょうど俺のあたりで止まる。しかし、すぐ得心がいったのか頷く。

 「君が校長の言っていた精霊の扱えない方ですね。えっと確か…。」

 そう言って名簿に顔を落とすレイニルに答える。

 「ミキ・イグナスです。」

 その言葉に少なからず、他の生徒がこちらを見てくる。

 何かまずいこと言ったのだろうか?考え込むミキに反してレイニルは話を続ける。

 「そうでしたそうでした。では、今日から一年間この班は固定となりますのでみんな仲良くしましょう。」

 その言葉に生徒が多少ざわつく。

 「え、ずっとこのままなの?」「いいんじゃね?人間いないし」「でも一人だけいるよ。」そんな話声が聞こえ、俺の耳には少々痛い話だ。

 「私はミキと一緒で嬉しいですからね。」

 不意にティアが耳元で小さくそう告げてきた。

 「ありがとう。」

 俺のことを気遣ってくれたのだろうティアに感謝の言葉を返すと、にこにこと笑顔になる。

 「静かに。今日はみなさんの実力を知りたいのでペアで力試しをしてもらいましょう。」

 教師の言葉にざわついていた一同が静まり返る。

 「それでは早速やりたいペアはいますか?」

 「はい。」

 教師の問いにいち早く挙手をする男子生徒がいた。

 端正な顔立ちに吊り目が印象的な生徒。赤色の髪をオールバックにしていてその快活さに拍車をかけている。

 「君は…。ガウス君だね。えっとペアは…。」

 と覚えきれていないのだろうまた名簿に顔を落とすが、ガウスと言われた男子生徒は口を吊り上げるようにして笑みを浮かべながらこちらに指差してくる。

 「あいつとやらせください!」

 「お、俺!?」

 思わぬ指名に驚く。

 「ミキ君とですか?ふむ…別に構いませんが、ミキ君はどうしますか?」

 教師もあっさりと承諾してしまい俺は困り顔となる。

 「え、えっと…。」

 するとガウスがこちらに歩いてくるなり肩を叩いてくる。

 「なっ!いいだろ。俺と力試ししようぜ。」

 「ああ、分かった。」

 その勢いに押され思わず了承してしまう。

 「よし、そうと決まったら早速やろう。」

 生徒全員が唖然としてこちらを見てくるがガウスはお構いなしに俺を押す。

 「先生。この闘技場でやればいいですよね!?」

 「は、はいそうです。」

 あまりの快活さに教師もたじろぐ。

 半ば無理矢理、闘技場に立たされた、ミキは何でこんなことになってしまったんだろうかとでるはずもない答えを呆然と考えていた。

 位置に着いた二人を見てレイニルが告げる。

 「終了の合図は私がします。それでははじめてください。」

 「よっしゃ!気合い入れていくぜ。」

 そう言うと今までとは打って違い真剣な表情になる。俺もそれに触発されるかのように構える。

 「俺に力を貸してくれ、火の精霊、リアナ。」

 そうガウスが発するのと同時に精霊が両手に凝集され、緋色の炎となって燃え盛る。それは実際に燃えているわけではなく、凝った精霊によって生み出されるオーラのようなものだ。

 火の精霊は熱や炎を操ることに長けている。今は体育館に差し込む太陽光を源にしているのだろう。

 「まずはこっちから行くぜ。集え。汝の炎。」

 ガウスはそう言うと両手に炎を生成する。それをまるで個体ででもあるかのように投げつけてくる。

 炎の玉は勢いが速いが直線的故、(かわ)しやすい。

 一つ二つと炎の玉を受け流すと、すでにガウスは新たな炎の玉を生成していた。

 「それじゃこれはどうかな?」

 まるで俺を試すかのような口調で、今度は小さくも十本の指に生成した玉を時間差をつけて打ってくる。

 俺は負けん気で回避に徹するが最後の一玉に遅れを取ってしまう。顔面に迫りくる炎の玉に目を見開くが目前の空気をわずかに操作して軌道をずらす。自らも限界まで首を傾けぎりぎりのところで炎の玉が後ろに通り過ぎてゆく。

 「へぇ。固有の精霊を扱えなくても周りに存在する自然精霊には干渉できるのか。」

 そう感嘆を漏らすガウスに今度は俺から接近する。

 新たに生成しては投げてくる炎の玉を空気を操作することで回避に多少のゆとりを生み出し肉薄する。

 「ッ…!」

 無音の裂帛(れっぱく)とともに正拳突きを一発二発と見舞う。

 空気抵抗を軽減した素早い一撃は、しかし簡単に避けられてしまう。

 「それだけか?」

 余裕を見せながら避けるガウスに反発するように言い返す。

 「そんなわけないだろ。」

 直後左腕をガウスの目と重なるように右斜めに降る。何事もなく空を切る左腕だがガウスの目の前には少量の水が発生し、目にかかる。

 前に校長がカップにお湯を入れるために使ったものだが、精霊を扱うことのできないミキにはこの程度が限界だ。しかしそれは充分な威力を発揮し、ガウスの動きを一時的に止めた。

 「まじかよ。うお!?」

 水を拭ぐうガウスに下段蹴りを放つ。足を取られたガウスはそのまま地面に倒れ込み、俺はとどめをささんと拳を振り上げる。

 しかし、ガウスは口に笑みを浮かべると、すでに水を拭き取ったはずの目を閉じる。両手を胸のあたりに(かざ)すと言った。

 「汝の炎で照らし出せ!」

 すると、熱を伴わない炎が光だけを強く発し俺の目を眩ませる。

 「うっ…。」

 あまりの眩しさに左腕で両目を覆い隠す。光はすぐに収まるが未だ戻らない視力に今度はガウスが反撃する。

 俺の足を取り、入れ替わるようにして立ち上がる。体勢を崩された俺は逆に倒れ込み形勢逆転される。

 「終わりだな。」

 そう言い放つガウスを視力が戻ってきた目で見据える。

 右手の人差し指をこちらに向けて延ばし、親指を立てて、他の指を握り込んでいる。人差し指からは炎の球体がゆらゆらと揺れている。

 「そこまで!」

 闘技場の外で見ていたレイニルがそう言うと。周りの生徒は「おお!」と歓声をあげ拍手する。

 「ありがとな。」

 一瞬俺に言ったのかと思うがそうではなかった。ガウスの手が纏っていた炎の玉とオーラがそれに呼応するかのように消える。

 「お前もありがとな。楽しかったぜ。」

 そう言うと、右手を開き俺に手を差し伸べる。

 寝転びながら一息つき、手を握る。

 「よっと。」

 そんなかけ声とともに起こされる。

 「こちらこそいい勝負ができたよ。」

 相互に健闘を称え握手する。そしてガウスは唐突に言った。

 「俺と親友になろうぜ!きっと仲良くなれる!」

 そう言う彼の顔は特有の快活な笑顔で、見ているこっちまでも元気になるものだった。

 「ああ。これからよろしくな。」

 そんな言葉が俺の口から自然と漏れていた。

おかしなストーリー展開ですね。いっそのこと2話を1話にするべきでしょうか。と言いつつも何もしない私です。

今回も読みにくい文を最後まで読んで頂いた方には感謝の気持ちで一杯です!どうもありがとうございます。

次巻も見て頂けると幸いです。

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