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精霊使いと異邦人  作者: 武瀬 霜
本編
27/47

26話 無事

 ガタガタと夜道を走る荷馬車は少しペースが早い。

 俺達学生は荷台に乗り、出来る限りスピードを出して鉱山村へと向かっていた。

 その理由は道中、遭遇した野獣が原因だ。野獣の姿を見ていない商人達も被害に遭った現場を目の当たりにしたことで、手綱(たづな)を握る手が幾分か固い。

 護衛を付けて速度を落とすよりも早々に村へと到着することにしたようだ。

 荷台には俺とカズミ、憲兵学校の生徒二人に商人が一人乗っている。御者台には残りの商人一人と会長だ。

 積荷が多く窮屈な荷台の端に生徒二人がそれぞれ座り、その両者の間に居心地が悪そうな商人が座っている。

 一人だけ浮いてしまう立場の商人は可哀想(かわいそう)だが、会長と二人きりの御者台もかなり辛い目に遭っていることだろう。

 野獣によって殺された馬や破壊された馬車の片付けを終えて今に至るが、その間も会長の機嫌はすこぶる悪かった。今は(ほろ)を張った荷台越しのため、会長の顔を見ることはできないが、好転しているとは思えない。

 それもそのはずで、会長としては商売をしに来ているのに借りた馬車を丸々一つ潰してしまったという状況だ。当然その弁償をしなくてはならず、その損失は痛手だ。会長が気を揉むのは分かるし、そんな会長と至近で肩を並べると思うと俺達と一緒にいるこの商人の方がまだマシと言えるかもしれない。

 「あー。そうだ。そう言えば君達の方は村にちゃんと着けたのかい?」

 気まずい雰囲気を少しでも払拭(ふっしょく)しようと商会の男がこちらに話しかけてくる。

 「まぁ…はい。」

 時間が経ち、落ち着きを取り戻した俺は何とも言えない返事をする。

 「今ここにいんだからそうに決まってんだろ。」

 と、憲兵学校の一人、ゴリが呟く。

 「あはは…そうだよね…」

 バッチリ聞き取れた辛辣(しんらつ)な言葉に、考え無しに話を振ってしまった商人は頭を()く。そして、再び沈黙が続いてしまう直前、憲兵学校のもう一人が思い出したように口をひらく。

 「そう言えばあなた、誰なんですか?」

 その言葉に荷台にいる全員の視線が一人の女の子に注がれる。

 「えーっと…これには色々と理由が…」

 遅まきながら、カズミの存在を指摘される。存在を隠していたことに何かやましいことがある訳ではないのだがなぜか慌ててしまう。

 「あなたには聞いてないです。」

 「はい…。」

 言い訳でも始めるところだった俺を男はぴしゃりと遮る。

 「それで、あなた誰ですか?街では見なかった気がしますが。」

 街で今回のクエストの説明をしている時にも自己紹介の時にも姿を見せなかったカズミに対して、男が問い質す。

 どう答えるものか、俺の心配の視線にカズミが(うなず)く。

 「私はカズミ。この子のお姉ちゃん兼、精霊です。」

 「は?」

 唖然(あぜん)とした声を出したのは誰か。この場のカズミを除く全員だったかもしれない。

 「カズミさん…ですか。身分はまあ、百歩譲って理解しました。ですが精霊とはどういう意味ですか?」

 「そのままの意味なんだけど…私はこれと同じってこと。」

 言葉の意味が通じず、(いぶか)しむ三人にカズミはそう言って手を火精霊によって(とも)す。

 暗い荷台の中に突然明かりが生まれて全員が目を細くする。

 「火?なるほど、つまるところあなたは人間ではないと?」

 理解の早い男はそう結論づける。

 「そこまで言っちゃうの!?いや、そうなんだけど…その言い方は寂しいよぅ。」

 「っけ。エルフときたら次は人の真似した精霊かよ。随分と愉快な連中が揃ってんなあ。」

 気落ちするカズミにゴリが皮肉で追撃する。

 「まさか、てめぇがその野獣とやらを呼んだんじゃねぇのか?」

 「…っ!そんなわけ…」

 「まぁまぁ落ち着いて。」

 全く見当違いなことを言い出すゴリに腰を上げて講義しようとする俺を商人が割って止める。

 「例えそうだとしても、今は修練学校の人達が足止めをしてくれているんですから…」

 「なんですかそれ!」

 まるで野獣が現れたのは俺達が全て悪いような、そしてそれを俺達が…先輩が体を張って守っているのが当然であるかのように商人が言っているように聞こえていきり立つ。

 「あ、いやすいません。そんなつもりではなかったんですが。」

 一方的に怒鳴りつけてしまった俺に対して怒り返すこともなく物腰を柔らかくする商人に一瞬で毒気を抜かれる。

 「いえ、こちらこそすいません。」

 「でも、あなた方にも少し難がありますよ。」

 「はい。すいません。」

 「どうして彼女のことを黙っていたんですか?」

 「それは…」

 どうして黙っていたのか。それこそ、その理由は今のような状況を忌避してのものだったからだ。それに修練学校でだす依頼に関しては、クエストに派遣される定員が決まっていることから、カズミのことを説明するのも面倒だったからというのも少なからずある。現に先輩もポチを紹介していない。

 「ごめんなさい。皆に私みたいのが一緒にいるって不安に思ってほしくなかったから隠してました。」

 どう説明したものかと口(ごも)る俺を置いてカズミが毅然(きぜん)と告げる。

 その内容には自分を卑下(ひげ)する言葉が混じっていた。

 「でも、今回のことについては私は関係ありません。信じてください。」

 「はい。信じますよ。」

 いっそ清々しい程に隠し事を認めたカズミに対して、これもまた商人は素直に受け止める。

 「それにしても凄いですね、精霊というのは。初めて見ました。」

 商人はカズミに対してではなく、未だ手に灯る火精霊の輝きに目を奪われながら感嘆の声を漏らす。

 「どんな原理で火を灯しているんですか?いつでも火を灯せるんですかね?もしそうならとても便利じゃないですか!」

 そして商人の声には熱が帯び始める。

 「街ではインフラが進んでいて精霊使いといえば騎士団ですが、他にも色んな使い道が…とても金儲けの匂いがしますよ!私も才能なくて商人なんてやってますが、精霊って魔法みたいで一度は使ってみたいですよね。」

 「なんだこいつ。」

 商人としての血が騒ぐのか、男としてのロマンに掻き立てられたのか、とにかく急に熱く語り始めた商人を止めることは誰にもできない。

 ゴリとその相方はどうでもよくなったようにそっぽを向く。

 カズミは商人に詰め寄られ、説明に難儀しているようだ。

 どうやら責任追及は(まぬか)れられたようだが、俺はきつく口を閉ざして下を向く。

 今もまた、俺は何も出来ずにただカズミに解決を(ゆだ)ねてしまい、そしてカズミに自分を(おとし)めるようなことまで言わせてしまった。

 一度ならず二度までも繰り返す自分の不甲斐なさに心底嫌になった。



 「おかえりなさい。」

 その後は何事もなく村に戻った俺とカズミを出迎えてくれたのはティアとリゼ、それにアリスだった。

 「ただいま…ってアリス先輩、どうしてここに?」

 「やっほー。随分と遅かったね、心配したよ?」

 「リゼさんとティアちゃん、ずっと待っててくれたの?」

 「商会の人が宿屋で待ってるように薦めてくれたけど、ティアちゃんがミキくんのことどうしてもここで待ってるって言ったから。」

 「はぃ…。」

 リゼに理由を述べられて、少し恥ずかしげにティアが頷く。ティアもそうだが、アリス先輩の無事な顔を見れたことで、頭の中でずっと抱えていた心配事が幾分か晴れた。

 「よかったです。ほんとうによかった…」

 「ミキ、大丈夫ですか?服、かなり汚れてます。怪我はないですか?」

 「大丈夫大丈夫、怪我はないよ。」

 服には付着した血が赤黒く固まり、その上に馬車の撤去作業でついた土などが被さってとても酷い有様だが、幸い怪我はない。そのことを両手を広げてティアにアピールする。

 「よかった。アリスさんから事情を話してもらって、とっても心配しました。」

 「心配かけちゃってごめん。」

 「想像したよりも酷い格好だね。もう夜も遅いし、早く宿屋にいこっか。」

 「…はい。」

 俺が足を引っ張ったせいでアリス先輩にはかなり迷惑を掛けてしまった。あの後どうなってしまったのかも気になるし、話したいことは山ほどあるがとりあえずは気を休めることが先決だ。

 商会の人達は全員で集まり何かしら話し合っているようなので、挨拶も早々に宿屋へと向かう。宿屋にはすでに憲兵学校の二人がいて、鉢合わせしてしまった。

 二人ともそれなりに疲れているのか、商会が手配してくれた部屋の鍵を亭主から受け取ると何もなく部屋へと入って行く。

 「あんたらも同じかい?うちは二人部屋までしかないから二人部屋二つと一人部屋だな。」

 「いえ、二人部屋二つで結構です。」

 カズミも入れて五人になってしまったことで三部屋あてがわれたが、カズミがすぐに断りをいれる。

 「カズミちゃんどうして?」

 女子四人、男子一人と区切りよく割れるところだったのに部屋割りを辞退したことにリゼが首を傾げる。

 「本来四人がクエスト受諾者ですし、今の会長を見るとあまり贅沢はできないです。」

 「あ、そうだね。」

 会長の顔色の悪さは村に戻ってきて良くなるどころかさらに悪くなっていた。理由は当然、借りていた馬車を潰した弁償をしなくてはならないからで、村で待機していた組にもそのことは伝わっている。それを思い出して気遣わし気にリゼが納得する。

 本来のクエストの受諾者の件に関しては、村に戻って来る際に商人の一人と話したが会長にも話しておく必要があるだろう。会長の手が空き次第話し合うつもりだが今はとにかく休みたい。

 「つかぬ事をお聞きしますが、お風呂ははいれますか?」

 亭主からは鍵を二つだけ受け取り、アリスが尋ねる。

 「水はもう抜いちまったから自分達でやるんならどうぞ。」

 「分かりました。ありがとうございます。」

 最後に大きな欠伸(あくび)をして亭主は眠さを伝えてくる。

 すでに深夜を過ぎて俺達も眠いが、汚れたまま布団に入りたくはない。

 眠そうな亭主を後にして風呂場に向かう。

 そこには脱衣所が一つしかなく、当然のように風呂場も一つしかなかった。

 「よし、みんなで入ろう!」

 「わぅん!」

 アリスがその一言を発し、突然現れたポチが賛同する。

 「ポチはダメに決まってるでしょ!」

 「なんだと!?」

 「いや、真面目に驚かれても困るんだけど…。」

 「おい、ミキ。お前からも抗議の声を!差別反対!」

 「は?どうして俺が…」

 「ミキくんはいいよ。一緒に入ろうか!」

 「え!?」

 「きゃぅん!?」

 「私もいいよ。」

 「ミキも一緒に…久しぶりですね。」

 「久しぶりなんだ…私は遠慮しておこうかな。」

 みんな夜でテンションがおかしくなっているのだろう。きっとそうだ。

 この中ではリゼ先輩だけが正しいことを言っているはずなのに、どうしてか言葉がぐさりと心に刺さった。そんなことを思うのもきっと色々あったせいでネガティブな思考になったからだ。精神的に不安定なためだ。そう言い聞かせて、今の気持ちは心の奥底へとしまっておく。

 「とにかく、俺は一緒に入りませんから!どうぞごゆっくり!」

 そう言ってポチを抱き抱えた上で脱衣所を後にする。

 「おい、坊主汚いだろ。汚れる汚れる!」

 脱衣所の扉を背にへたれこみ、暴れるポチを離す。

 「全く情けない限りだぞ。もっと押して行かんか!」

 ここにきてなお、抗議するポチに嫌そうな顔を向ける。

 「俺はお前のその積極性が分からない。」

 どっちかというと消極的な行動を好む俺からすると、こうやってぐいぐいと行動するタイプはあまり理解できない。

 「それはお前、俺は動物だ。」

 「だから?」

 「人とは違って下心のない動物だ。」

 「どの口が言うんだよ…。」

 この前、風呂に入った時は持ち前の嗅覚で匂いがどうとか言っていた気がする。

 他の純正な動物に下心があるかないかは別にして、こいつだけは絶対にないなんてことはない。

 「人を罰する法律はあれど、動物を罰する法律など存在しない!」

 「法律が許してもアリス先輩が許さないだろ。」

 「ぐぬぬ。だが安心しろ、アリスは根に持つタイプではないからな。」

 「なら、行ってこればいいんじゃないのか。」

 「ふん。今日は随分と素っ気ないな。」

 「今日はって言ってもあんまりしゃべったことないだろ。」

 「まあ、そうなんだが…」

 そう言うと、後ろ足で体を掻きだす。

 「痒いな。」

 「おい、やめてくれよ害虫か?俺にも付いたんじゃ…」

 「坊主のせいに決まってる。そんな汚い服で触りおって。」

 「俺のせいなのか?」

 「あの馬にでも抱きついたんじゃあるまいな。」

 「…」

 ふとポチの発言で馬の最期が思い出される。

 「まさか本当なのか…?」

 「そんなわけないよ!」

 そもそもポチと別れたのは野獣が馬を殺した後だったはずだ。さすがに死して抱く程の愛着を生むにはあの短時間では無理だ。

 「何にしてもお前は悪くない。そう落ち込むな。」

 「そう言われても…。」

 やっと核心をついてきたポチに苦虫を噛み潰した顔になる。

 「化け物と出会ったのは初めてなんだろ?それなら仕方ない。」

 「?」

 「なんだ、それすらも気付いてなかったのか。」

 呆れを少し含んでポチが話す。

 「そんなんじゃ精霊使いとしてはダメだが、まぁ化け物にはその内慣れる。」

 あれが化け物であったことには驚きだが、野獣でも化け物でもそれに恐怖し、足が(すく)んで動けなかったことは事実だ。それが原因でアリス先輩の足を引っ張ってしまったし、カズミにも迷惑をかけて嫌な思いまでさせてしまった。

 いくらフォローしても立ち直れない俺にポチがとっておきの切り札とばかりに語り始める。

 「アリスも今ではいいが最初の頃はお前のように狼狽(うろた)えていたもんだ。」

 「そうなのか?」

 「ああ。俺に抱きついて泣き出したぐらいだ。」

 「おい。完全に脚色はいってるだろ…」

 「なんだ。聞きたくないのか?」

 「うっ…」

 したり顔でこちらの顔を覗いてくるポチを全力で殴りたくなるが抑える。

 「聞きたいです…。」

 「そうだろ。よし、聞かせてやる。」

 そうして始まったアリスの九分九厘(くぶくりん)脚色されているであろう昔話は当人が戻って来るまで続いた。

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