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精霊使いと異邦人  作者: 武瀬 霜
本編
13/47

12話 クエスト

 「どんな依頼にしよっか?」

 「やっぱり最初は街中の簡単な依頼がいいんじゃないの?」

 「そうだねー。んっと……じゃあこれなんかは?」

 「うん、いいと思う。」

 「それじゃ決定!窓口行ってくるね。」

 掲示板に無造作に貼られた数枚の紙きれの一つを取って、アリスがすぐ横にあるクエスト受付窓口へと向かっていく。

 「これお願いします。二年生、三十二班のアリスです。」

 「はい。」

 係員の人が用紙を受け取り、手元の名簿を確認する。

 「アリスさんリーゼリットさんティアさんミキさんの四人ですね。受理します。」

 ぽん。と紙に三十二班と記された印を押す。

 「それでは、これが依頼内容の用紙となります。」

 「ありがとうございます。」

 用が済み、後方の一角に待機していた俺たちの元へとアリスが駆けてくる。

 「おっまたせー。」

 「アリス先輩、これって?」

 「あれ?まだ聞いてなかった?クエストだよ。こなした分だけ成績に反映されるし、お金も学校側からちょっともらえるよ。」

 「それは座学の時間で聞いたんですが…。」

 「ん?じゃあどうしたの?」

 「今からやるんですか?」

 「当然じゃん。昨日やるって言わなかったっけ?」

 「いえ…言われはしましたけど…。」

 昨日、先輩との初サバイバルゲームが終わった後、一年生寮で昼風呂に入った。

 その後は、お互いの自己紹介も含め、夜遅くまで談笑した。

 先輩二人は幼馴染みであることや去年の話、俺達の出身やフレン村とこの街の違いなど些細なことを話し合った。

 その中に、確かにクエストを近々やっていくといった話も含まれていた。

 「ま、暇だしいいじゃん。」

 カズミが賛同の声を上げる。

 「カズミさんの言う通り暇ですし、この学園は成績評価が実践重視ですからクエストで稼いで行くのが一番手っ取り早いですよ。」

 「そうそう。それじゃあまずは依頼者のところまでいこっか。」

 リゼの的確な意見を盾にアリス先輩が元気に校門へと向かって行った。



 「こんにちは、猫の捜索依頼で来ましたセントペルム修練学校の生徒です。」

 木製の扉をコンコンと叩きながら、アリスが一軒家を尋ねる。しばらくすると、女性が姿を現す。

 「わざわざありがとうございます。先程も憲兵学校からも依頼を受けてくれた方々がいらっしゃったところなんです。」

 「そうだったんですか。憲兵学校にもご依頼されてたんですね。」

 「最初は憲兵学校に依頼したんです。けど、こんな依頼だれも受けてくれないかと思いまして、少しでも受諾者が増えてくれればと思ったんですが…まさか二つの学校から来てくださるなんて…」

 「落ち着いてください。まだ猫が見つかったわけではありませんから。」

 すでに嬉し泣きしそうな婦人を落ち着かせる。

 「それで、いつ頃から居なくなったとか詳細は分かりますか?」

 「一週間ぐらい前になるかしら。いつもふらりと散歩に行っては、夕ご飯までには帰ってくるリリちゃんが帰って来なかったんです。」

 「それで心配になって依頼したんですね。」

 アリスが確認すると女性は首肯した。

 「ちゃんとご飯が食べられているか、心配で…。」

 「それは一大事ですね。他に猫の特徴はありますか?」

 「そうですね…全身真っ白のこれぐらいの大きさで赤い首輪を付けてます。」

 女性は両手で猫の大きさを表現する。

 「分かりました。一先ず、この周辺を探してみます。逐一報告に来たいと思いますので、もし何か気になることがあれば教えてください。手掛かりになるかもしれないので。」

 「はい。それではお願いします。」

 頭を下げた女性はしばらくすると家の中に戻っていく。

 「…。」

 滞りなく会話を終えたアリスは肩を揺らす。前に立っているせいでその表情は分からないが、どうやら笑っているようだ。

 「もう!」

 アリスの左隣で話しを聞いていたリゼがそんなアリスの反応に頬を膨らませる。

 「だ、だってリリちゃんって…」

 どうやらリゼのもう一つのあだ名としてアリスが紹介した名前とペットの名前が同じだったことに笑ったらしい。

 「そんなことだと思った。早く見つけに行くよ。捜索は時間と根気との闘いだからね。」

 「うんうん、そうだね…ぷっ」

 「アリス!…私はティアさんと一緒に探すからミキくんはアリスとお願いね。」

 「はい。」

 「正午になったら一旦食事にしましょう。集合場所は大通りの噴水前って言ったら場所分かる?」

 「分かります。」

 「よし。私達は西側を探すからアリスは東ね。…もう、いつまで笑ってるの!ちゃんと探してよね?」

 「うん分かってる。リリちゃんは迷子にならないように気をつけてね。」

 「ふん。」

 顔を逸らしたリゼはそのまま道を歩き始める。その後をティアがついていく。

 「ミキ、カズミさんまた後で。」

 「おう。」

 「またね。」

 お互い手を振って別れる。

 ようやく落ち着いたアリスも右を向くと歩き出す。

 俺とカズミはその後についていくが、しばらく歩いたところでアリスがこちらを振り向く。

 「まずはお茶にしよっか。あっ、あそこいいんじゃない?」

 そう有無を言わさず歩いていく先輩に連れられるがままに一つのお店に入る。

 カズミを超える自由奔放さだ。さっきまで大いに笑っていかと思ったら次はティーブレイクときた。

 ふと俺の後ろを歩くカズミの顔を伺う。

 「さすがに私でもこんなにひどくないよ。」

 すかさず苦笑いが返ってくる。

 「そっか…。」

 一瞬で自分の思惑が看破されたことに俺も苦笑を返す。

 木造建てのクラシックな雰囲気のお店の一角に座り、先輩に倣って飲み物を注文する。

 しばらくして、テーブルには三つのグラスが置かれた。

 「ん、ん、ん、ぷはあ。」

 アリスが豪快にアイスティーをあおる。

 「いやー笑い過ぎて喉が渇いちゃったよ。」

 笑顔に屈託なく言う先輩に少し心配になってしまう。

 「先輩、猫探しはしないんですか?」

 「ミキはお固いねーリゼみたいだよ?もう少しゆとりを…心配しなくてもちゃんと探すって。」

 俺の表情に不安が浮かんでいたのをアリスも読み取ったのか最後に真面目な言葉がついた。

 「それなら計画を立てるんですか?」

 「その通り!カズミは分かってるねー。」

 自分がここに来た真意が理解されたことに満足した顔を見せる。

 アリスはその快活な容姿、言動とは真逆で事前の談義や企画など下地はしっかり作った上で行動するタイプだ。そしてリゼは落ち着いた言動に反して無計画。よく言えば、当意即妙なタイプだ。

 人は見かけによらないというが、この先輩二人はまさしくそれを体現していた。

 「まずは今日の依頼について整理していこうか。」

 「赤い首輪を付けた白猫探しです。」

 「カズミの言う通りだね。あといなくなってから一週間も経っちゃってるから早く見つけてあげないとね。それじゃあ見つけ方は?」

 「現地調査と聞き込みですか?」

 「ミキも合ってるよ。よしよし、どうやら後輩は良い子ばっかりみたいだね。」

 二人の頭を撫でながら嬉しそうに笑う。

 「ない者探しは根気が要るんだよね。現地調査にしても一カ所ずつ地道に、聞き込みだって何人も聞いていかないといけない。そのくせ成績評価としては一番低い部類に入るからあんまりやる人がいないんだよ。だけど私達はやるよ!どんな依頼でも困ってる人がいるからね。」

 途中まで寂しそうな顔をしていたアリスだが最後には活き活きとした表情に変わる。一喜一憂の激しい先輩は似合わず計画派だがけっして合理性だけを求めているわけではない。情動には忠実だし、それに応じて非合理なこともする。

 休憩とやるべきことを確認し終えた俺達は早くもお店を後にした。

 「アリス先輩、まずは聞き込みからですか?」

 「そうだね。でも今日は憲兵学校の生徒に先を取られてるからずるしちゃうよ!」

 「依頼者も言っていたんですが、憲兵学校ってなんですか?」

 「そう言えば、ミキ達は村落出身だったね。このセントペルムには私達の学校と憲兵学校の二大学校に加えて少しの教養学校があるの。憲兵学校は、私達の学校が精霊使いの育成を目指しているのに対して、この国の各地に排出するための憲兵を育成してるんだよ。」

 「それと今回の依頼がどう関係するんですか?」

 「きっと依頼の取り合いが起きるんじゃないの?」

 「そうなんだよ。実はこのクエストによる成績評価は二大学校とも行っていて、各校に受諾者がいた場合は最初に依頼を完遂した方に評価がいっちゃうの!」

 「それでずるするわけなんですね。それでどんなことをするんですか?」

 アリスは長い説明にも疲れた様子を見せず嬉々として次々に説明していく。

 「よく聞いてくれた!実は聞き込みは聞き込みでも人からじゃなくて、犬・猫ちゃんから直接聞くよ!!」

 「え!?精霊を使ってそんなこともできるんですか?」

 猫探し。人伝に情報を得るよりも同じ動物の方が知っていることが多いかもしれない。しかし、精霊を使って動物の心を読めるなんて…恐るべし年の功。そんなことを本気で考えていると、当の精霊であるカズミから少し呆れた声が出る。

 「さすがにそんなことはできないよ…。ポチがいるでしょ?」

 「あ…。」

 「まあ、ポチも精霊だからあながち間違っちゃいないね…。」

 アリスがフォローをいれる。

 「そんな感じでポチ、見つかった?」

 その言葉で今まで消えていた。否、今まで猫探しに奔走していたであろう狼が現れる。

 「アリスは犬使いが荒いな。昔はもっと…」

 「それはいいから。見つかったの?」

 「ふむ…。どうやら最近、野良犬の縄張りに入っている猫がおるらしい。」

 「それじゃあ…」

 猫を心配するアリスにポチは即座に付け加える。

 「心配はいらん。その犬共も手が出せないような状態だ。」

 「よかった…でもそれってどんな状態?」

 「まずは、現地に行ってみるのがよかろう。」

 そう言うと、先頭に立って歩き出す。

 相変わらず狼の姿をしたままだが、どうしてか道行く者が驚くことはない。

 「みんな慣れてるんだよ。」

 不思議に思っていた俺にアリスは補足する。

 「生物精霊って意外に多いんだ。私の学年にも他に三人がそうだし、毎年数名はいるものなんだ。」

 アリスの説明に納得しながら、ポチが裏通りに入って行くのをついていく。

 道が狭く、建物が乱立し、朝の十時であっても光量が少なくなる。

 陰湿な細道を右に左にどんどん進んでいくとしだいに方向感覚が狂い、もう自分では路地を抜け出せないと考えたところで少し空いた場所にでる。

 路地にひっそりと佇む空き地の左隅には野良犬が唸り声を上げて反対側を睨んでいる。

 その周りの塀やら用水路の溝には野良猫が数匹、犬の縄張りを侵さないように集まっていた。

 そんな獣が集う空き地に場違いな制服姿の男が二人、犬が唸る先にいた。

 「ここなの?」

 「ああ。」

 アリスが確認する。

 まだ両者とは充分な距離があるため、犬も男子生徒もこちらに気付いてはいない。

 そんな中、一匹の狼が男に襲いかかる。

 「来るんじゃねえ。」

 男子生徒一人が木刀を振り回し、犬を拒む。

 一歩前に出て、犬を牽制する男の背後には同じ制服をきた男一人と円形の籠を逆さに重りを載せた簡易的な檻に入った猫がいた。

 男は過剰に載せられた重りをどける。

 「おい、早くしてくれよ。」

 「ああわりぃわりぃ。」

 犬と対峙しながら催促の声をあげる男を背に檻から出した猫を抱え上げる。

 「よし、いいぞ。」

 「それじゃさっさと離れようぜ。」 

 用の済んだ二人は野良犬とは逆の方向から立ち去ろうとする。

 どうやら何事もなく終わりそうな様子に安堵する。

 「先輩、あの猫、赤い首輪してましたね。」

 なぜあんな所にいたのかは分からないが、見る限り探していた猫だろう。そして二人の男性は制服姿から恐らく憲兵学校の生徒だ。

 怪我もしてなさそうだし彼らが守っていたのかもしれない。依頼を完遂できなかったことは残念だが、猫が無事だったならそれでいい。

 先輩もそう思っているだろうと思ったが、違った。

 「あんた達待ちなさい!」

 声を張り上げると二人の元へと駆けていく。

 それでこちらの存在にも気付いたか野良犬が近場の得物に的を切り替えて襲ってくるが、すかさずポチが割って入る。

 野良犬による乱入をポチが牽制している間に俺たちも訳が分からないまま先輩についていく。

 「その猫をこっちに渡しなさい!」

 先に二人に対峙していたアリスが毅然と言い放つ。

 「あ?お前誰だよ。」

 「私は修練学校二年のアリス・エルベルト。あんた達、工作したわね?」

 迷いなく問い質してくるアリスに二人は後退る。

 「何を根拠に言ってるかわからねぇな。」

 「私たちは学校からの依頼を受けただけですよ?」

 がたいの良い男とそれに比べると見劣りするが決して細身なわけではない普通の男がそれぞれ否定を口にする。

 そんな二人にアリスが舌打ちする。

 「おお怖い怖い。精霊使い様は手柄を横取りしようと恐喝するんですか?」

 「私達も急いでますので、今回は大目に見ますがもし同じ事が続くようなら学校側に連絡しなければなりませんね?」

 そう釘を刺すと他に話す事はないと小走りに去っていく。

 「あいつら…!」

 煮え切らない表情でそう呟くと一呼吸。

 「はぁ。この依頼は失敗かな。」

 彼らが去った後を眺めながらぼやく。

 そんな一幕を見て未だ理解できない俺はアリスに尋ねる。

 「先輩、とうしたんですか?あの二人…工作ってなんのことですか?」

 「ん?ああ、単に猫が拘束されてたからってだけかな。彼らが成績欲しさに依頼を作る要因を作ったと…でも私の早とちりだったみたい。それに猫を寄越せだなんて私の方がよっぽど成績欲しさに悪いことしたね。」

 私なんか見習っちゃだめだよ。と苦笑いしながら言ってくる。

 確かに先輩は確証もないのに人を疑った。けどそれは成績ほしさのためなんかでは決してないと断言できる。

 そんなことをするような先輩ではないとまだ知り合って間もない関係だが、分かっている。

 しかし、真相の分からない俺には、そう思うことしかできなかった。



 「どうもありがとうございます。」

 「いえいえ。当然のことをしたまでですよ。」

 「本当に助かりました。この子は私のたった一人の家族なんですよ。」

 膝に白い猫を載せて皺の深い手で猫を撫でる。

 「ミーちゃんがこの子を産んで死んでしまってからは私がこの子の母親になったつもりで育てているんです。見てください、この目の細いところなんて母親にそっくりで。」

 年老いた婦人は聞いてもいないのに猫のことを話し出す。

 うるせえな。いいから紙書けよ。

 内心では怒声を上げる。そんな俺を余所に相方は恙無つつがなく会話を進める。

 「ご婦人、そのお話とても聞きたいのですが、私達はこの後も他の依頼がありますので。」

 「あら、そうでしたか。これはすみません。えっとこちらの紙に私の名前を書けばよかったんですよね?」

 「はい。あと捺印なついんもお願いします。」

 「……はい、どうもありがとうございました。」

 「どういたしまして。」

 差し出してくる紙を受け取り、挨拶も早々に家の玄関を目指す。

 「お邪魔しました。」

 一言告げて家を後にする。

 「まったく、年寄りは話しが長くて疲れるぜ。」

 「お前顔に出し過ぎ。俺が居なかったら今頃殺人者になってたぜ?」

 「それは言い過ぎだろ。それに顔にゃだしちゃいねぇ。」

 「はいはい、そうかもなっと、紙は一枚か…。」

 「ちっ、てことはもう一つのほうか。」

 相方が老婦から受け取った紙を確認する。そこには憲兵学校の徽章きしょうをあしらった紙があった。

 「大丈夫だとは思うが、早くした方がいいかもな。」

 「知ってらぁ。」

 動物に付けるような赤い首輪を右手で握りしめる。

 「あの女が次も来るようだったら一回痛い目にあわせてやる。」

 「好きにしなよ。」

 呆れた相方がそう零す。

 白猫探し。他の受諾者に依頼を完遂させないためにわざわざ二匹の白猫を攫った。

 一匹目は邪魔者が入ったが完了。あとはもう一匹、西側の森林公園に放置した猫を回収しに行くだけだ。

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