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精霊使いと異邦人  作者: 武瀬 霜
本編
10/47

9話 素直

 カズミ達と合流した後、服に付いた泥や焦げ跡を取るために一年生寮の近くにある池に移動した。

 池の水はお世辞にも綺麗とは言い難いが、泥を全身に被っているよりはましだ。

 幸いシズネが洗い、ティアが乾かすと要領よくでき、その後も号令がかかるまで何度かゲームを行い、結果は二勝二敗。

 三対二なのにこちらが負けたのは一重に俺のせいだ。

 ティアは風精霊を使っての全面支援。

 カズミは火精霊での攻撃主体。

 そんな二人に比べ、精霊も剣術も使いこなせない俺は二人の足を引っ張ってばかりだった。

 対するガウスとシズネは、二人ともそれなりに精霊を使いこなせる上に剣術も段違いだった。

 後で聞いた話だが、この学校に来る生徒のほとんどは剣術の手解きを受けているものばかりだそうだ。

 日もすっかり暮れ、今は就寝時。

 今日の敗戦の理由を考えながら暗い部屋の天井を眺める。

 二人とも強かった。味方も相手も。

 カズミは俺の精霊だ。それを考えれば、カズミの戦果は俺の物であるかもしれないが、そう思うことはできない。

 そうなると自身が強くならなくてはいけないのだが、現状、武術は並の人よりは少し出来る程度。剣術はからきし。どちらかを伸ばすにしても地道な鍛練こそが物を言うことは当然で、一朝一夕には身に付けれない。

 ティア達に迷惑を掛けている今をどうにか打開したい俺にとっては先の長い話である。

 やっぱり俺にも固有精霊がいればなぁ。と無い物ねだりをしたところでふとシズネのことで気になる。

 彼女はどうして精霊を扱えるんだろうか。才能と言ってしまえばそれまでだが、そうでもない気がする。

 「あなたの父親なんかと再婚しなければ。」

 彼女のそんな言葉が脳裏をよぎる。

 同時に俺を助けようとしたのか、突然現れて間に割って入った彼女。

 はっきりと顔を見ることは出来なかったが、彼女の口ぶりからして全くの無関係ではないだろう。

 「あんまり考えてても仕方ないな。」

 いつの間にか的の変わった思考を打ち止め、寝返りを打つ。

 「どうしてここにいるんだ?」

 その俺の疑問に答えたのは、他でもないカズミだ。

 「ここにいたかったから?」

 「そうか。それじゃあしょうがないな。」

 「あれ?どうしたの?」

 「俺は出ていく。」

 ベッドとの別れを悲しく思いながら迷いなく立ち上がる。

 暗がりの中、ドアに向かって歩くとその後をカズミもついてくる。

 「ねえ、怒ってるの?」

 「そんなんじゃないよ。ただ一緒には寝れないだろ。」

 「私は一緒でもいいのに。」

 「俺が落ち着かないから無理。」

 リビングに置いてある唯一の調度品であるテーブルの備え付けの椅子に腰を降ろすと、なぜか電気を付けてカズミが対面の椅子に座る。

 そう言えば落ち着いた場でこうしてカズミと二人きりになるのは今回が初めてだ。

 彼女には色々聞きたいことがある。

 彼女が生物精霊であることや、俺の姉であること、それにシズネのこと。

 昼間、シズネには思い出したと言ったが、実際に記憶にあるのは事故直前の記憶と直後の記憶だけだ。それさえもはっきりと思い出すことができない。

 でも彼女は違う。最初から俺の姉だと名乗っていた。もしかしなくても俺の知らないことを知っているだろう。

 「聞きたいことがあるんだけど。」

 「ん?」

 「カズミはシズネのこと知ってたのか?」

 「まあ…ね。」

 目を背けながら答えが返ってくる。

 ガウス達がこの部屋に来た時も今みたいに意識的に避けていたことを今更思い出す。

 「ミキは何も覚えてないの?」

 逆に問い返され、今度はこちらが言い淀んでしまう。

 「事故前後の記憶なら少しは…。」

 「そっか。」

 間を置いてカズミが話し始める。

 「一美()と静音は母さんに育てられたの。私が物心ついた時には父さんはいなかった。って言っても精霊になったおかげか物心つく前の記憶も鮮明に覚えてるんだけどね。」

 苦笑いを浮かべながらなるべく平生を保とうとする。

 「父さんはチャラい人でさ、元々母さんとは本気じゃなかったみたい…。離婚した後も母さんは朝から晩まで働きに出て一生懸命私たちを育ててくれた。」

 そこで区切りを付けて俺の顔をまじまじと見てくる。

 「ど、どうかしのか?」

 一気に視線が合わせ辛くなってしまう。

 そんな俺に笑いながら続ける。

 「それでもやっぱり母さんからしたらそんな生活は辛かったし、寂しかったんだと思う。私が幼稚園の年少だった頃に三樹のお父さん、圭一さんと知り合って、同じ境遇なのを知って二人ともすぐに付き合い始めたの。」

 同じ境遇?俺の父さんもカズミの母親と同じような理由で別れたことがあるのか?

 「二人の仲は良かったよ。一年後には結婚式をあげて、その秋には新婚旅行を兼ねた家族旅行をしたの。」

 そこからは俺もなんとなく覚えている。

 確かきれいに紅葉した山中だった。宿屋も自然に囲まれた風情のあるところだった。

 俺たちはそこで思いっきり楽しんだ。

 そして…

 「そして事故に遭ったの。」

 そこでカズミが一息つく。

 「ついてきて。」

 立ち上がり、玄関に向かう。

 「どこに行くんだ?」

 「いいから。」

 靴を履き、鍵を開けると構わず廊下に出て行く。

 すでに消灯時間を過ぎたため俺たちの他に廊下ですれ違う者はいなかった。

 「こんな時間にうろうろしてたら寮監に怒られるぞ?」

 「すぐ終わるよ。」

 小声で話し合いながら、寮の階段を昇っていく。

 この先は最上階である4階の各部屋と屋上に繋がる階段しかない。

 こんな夜更けに部屋を出た理由に見当もつかず、カズミの後を追うとそのまま屋上へと続く階段へと足を運ぶ。

 少し開いていた鉄扉を通れるだけ開けて、外に出る。

 春の夜風は昼間と同じく穏やかだった。

 昼間は暖かい風が一変して肌にさす夜気となっている。

 薄着の服には少し肌寒いが耐えられない程ではない。

 「一体どうしたんだ?」

 「あっち。」

 カズミに促されて前方に視線を移すと、その先には二人の少女が屋上の外縁部にもたれながら夜景を眺めていた。

 「あれは…シズネか。もう一人は…」

 「行こ。」

 俺を置いて再び歩きだすカズミに慌ててついていく。

 月光が夜の(とばり)を払いのけ、辺りには光量が充分ある。

 二人に近付いていくと、ライトブルーの髪を二つに結った女の子が、先にこちらに気付く。

 続いて、隣にいたシズネもこちらを向く。

 「どうしてシズネがこんなところに…」

 ようやくお互い話せる距離に達する。

 「改めて紹介するね。こっちが静音で、こっちが犀琴(さき)ちゃん。そしてこっちが三樹。」

 カズミが交互に紹介を終わらせる。

 いつもは俺を見ずにそっぽを向いているシズネだが、今日はこちらをしかと見ている。

 そしてその隣の彼女。確か昼に俺とシズネの仲裁に入った子供だ。

 彼女が仲裁に入らなければ、レイピアの切っ先が俺の喉を貫いていたかもしれないと思うと改めて背筋が凍る。

 ひとまずはそのお礼を言わなければいけない。

 「サキちゃんって言うんだね…昼間はありがとう。」

 「…。」

 「えっと…。」

 「…。」

 あまりの無表情に戸惑ってしまう。

 何か悪いことを言っただろうか。

 シズネの時のように前科がある身としては負の反応をされると怖い。

 まあ彼女は元々俺のことを知っていての反応だったが…。

 「心配しなくても平気。この子はいつもこんな感じだから。後、彼女はあなたの実の妹よ?」

 「そっか、いつもこんな感じなのか…って、え!?」

 寝耳に水な話だ。

 「お兄ちゃん。」

 「あ、え、うん?」

 精一杯取り乱し、彼女に向き直る。

 「元気そうだね。」

 「…うん。」

 「…よかった。」

 そういう彼女は相変わらず無表情だが、先程よりも心無しか笑みを浮かべているようにも見える。

 どうやらシズネのように俺に対して敵意があるわけではないようだ。

 それにしても俺の実の妹とは…。

 「何かの間違いじゃないのか?」

 彼女には申し訳ないが、俺は彼女のことを全く覚えていない。

 カズミに真偽を問うがやはり返ってくるのは同じ言葉だけだ。

 「犀琴ちゃんは正真正銘、三樹の妹だよ?」

 そこまで断言されてはもう何も言えなくなってしまう。

 ぐちゃぐちゃになった思考を整理する為に一度深呼吸する。

 「それで、もしかしてシズネの固有精霊って…」

 「サキちゃんだね。」

 「そうだよな…。」

 おおよそ予想通りの解に納得しつつ、これまでの関係をまとめる。

 今この場にいる、俺を含めた四人は家族だったということになる。

 その中でも母子家庭として育ったのは一美と静音で父子家庭で育ったのが俺…それと犀琴。

 そして俺の記憶にある限りでは、新婚旅行を兼ねた家族全員での旅行中に事故に遭い家族共々重傷を負うがなぜか俺たちだけはこうして生きている。

 いや、カズミやサキが生きているかと問われれば何とも言えないが…。

 「そう言えばどうして俺たちはこんな所にいるんだ?」

 「それはわかんない。」

 すぐにカズミが反応する。

 「そっか…。」

 普通に考えればここは俺たちの居た場所では全くないはずだ。

 まだ事故前後の断片的な記憶しか俺には残ってないが、それだけは分かる。

 俺たちのいた世界には決してないものがこの世界には常識として存在するし、逆も然りだ。

 だが、それで困ることは何もない。俺にはここでティア達と暮らした記憶があり、それは変えられようもない真実だ。

 だから、そんなことをいくら考えても詮無きこと。今はそれよりも、聞くべき大事な事がある。

 「どうして俺をここに連れて来たんだ?」

 「そりゃ家族同士親睦を深めるためというか…。」

 家族同士で親睦を深める。随分と変な言い回しだが、たしかにそれは合ってるかもしれない。

 他の三人はどうか知らないが、俺は彼女達のことをまったく知らない。

 もし本当に俺に以前の家族がいたとしたなら、その人たちと仲良くなりたいという気持ちもある。

 「私はこんな奴と家族だなんて思ってないけどね。」

 「またシズネはそんなこと言う。」

 反感するシズネにカズミが溜め息を漏らす。

 「ミキはどう?みんなと仲良くなりたい?」

 そう問われ、つい考え込んでしまう。

 正直言えば、こんな唐突な展開に戸惑っている。シズネには危うく喉を貫かれてしまうところだったわけだし…。

 というか何でシズネはそのことを悪怯れる様子もないんだ?少しぐらいは動揺してくれてもいいと思うんだが。

 そうでないと俺を仕留めることがさも当然だと思っているようではないか…。

 何にしろ、お互いの距離を縮めることで何か分かり合えることがあるかもしれない。

 改めてシズネに向き直ると視線がかち合う。

 それだけですぐに彼女が視線を逸らそうとしてしまう。

 「シズネ!」

 「!?」

 びっくりしたのか肩を揺らす。

 自分自身少し気合いが入ってしまったのを意識しながら、今度はなるべく抑える。

 「俺はシズネと仲良く…なりたい。」

 「どうして仲良くなりたいの?」

 俺に対抗するかのように語気を強めてくる。責めるようなシズネの言葉を頭の中で反芻する。

 どうして仲良くなりたいのか。覚えてもいない相手に関わろうとする理由は何なのか。

 言外にそう問われ、言葉が詰まる。

 誰だって他人を知りたいという気持ちを持っている。興味があり、関心があるからこそ、両者の間にはコミュニティが形成され、それは社会という大きな枠組みとなる。

 ましてやその相手が自分の元家族ともなればなおさらだ。

 「家族だから…。」

 その言葉は本音だ。それ以外に理由なんてない。しかし、自分の意思とは裏腹に、出た言葉は限りなく小さく弱々しいものだった。

 心の片隅では引け目を感じているのだ。苦しい過去を忘却することで逃避し、今まで見てみぬふりをしてきた。

 そして、当然その内心は彼女にも分かり易すぎる程に伝わってしまった。

 「何が家族よ。笑わせないで。」

 嘲るように鼻を鳴らして顔を背ける。

 彼女の言う通りだ。もし逆の立場だったとしても俺も簡単には許せない。

 それでも、ここで諦めるわけにはいかない。

 「俺はシズネと改めて友達になりたい。」

 「私は嫌。」

 「どうして?」

 「あなたが好きじゃないから。」

 「うっ…。」

 彼女の率直な感想に心が折れそうになる。

 どうして彼女は俺が嫌いなのだろうか。

 根本の理由を自問自答する。

 外見的に気に食わないのか?それとも性格?生来的に俺のことを受け付けないのか?だとしたら俺に打つ手はない。

 しかし、俺が覚えていないだけで彼女とはすでに面識がある。

 つまり、初対面で受けた印象から嫌いになった可能性だけでなく、因縁による嫌悪という可能性も大いにあるわけだ。

 事実、今日は俺に対して過去の清算をするような食い付きぶりだった。

 もし前者ではなく後者ならまだ望みはある。

 因縁を清算することで、彼女との関係を回復できるかもしれない。

 「ならどうしたら許してくれるんだ?」

 一縷の望みに賭けて発した言葉だったが、如何せんシズネの表情は一層険しくなる一方だった。

 「なんでそんな話になるの?」

 「だって、俺のこと憎んでるんだろう?」

 「…。」

 無言で歩き出して俺の横を通り過ぎてゆく。

 「って、ちょっと待ってよ。」

 俺の声には耳も傾けず、すたすたと歩いていく。すぐに鉄扉の前までつくと一度止まり、振り返る。

 「あんたなんて嫌い!」

 その表情は遠くからでも分かるほど怒っている。が、一度深呼吸をすると随分と声量の下がった声が続く。

 「あと、今日はごめん……謝ったから!」

 そう言うと、建物の中へと消えていく。

 「怒ってるのか…?」

 それとごめんって何のことだろう。もしかして昼間のことだろうか?

 どうすればよかったのか分からず零した言葉に今まで静観していたカズミが答える。

 「最後のは怒ってたね…もう、ミキはストレート過ぎるよ。」

 「ストレート過ぎるって…一体どこが?」

 「自分を憎んでいるかってところかな。」

 「?」

 カズミの言わんとしていることが上手く伝わってこない。

 「お兄ちゃんは昼間のことでシズネお姉ちゃんが憎んでるって思ったんだよね?」

 横からの急な声に多少驚いた。

 すっかり忘れていたが、シズネの固有精霊であるサキはまだここにいた。

 「昼間?何かあったの?」

 この場で唯一昼間の出来事を知らないカズミが首を傾げる。

 「ま、まあ色々と…。」

 あやふやな返事をしてサキの言葉には首肯する。

 「お姉ちゃんはお兄ちゃんを憎んでる訳じゃないの。ただ、他に思いの丈をぶつけることができなくて。」

 仲のよかったであろう実の姉とは離ればなれになってしまい、知らない土地で寂しかったであろう彼女。

 そんな状況に追い立てたのは誰なのか。いや誰でもない。

 そのせいで彼女の感情は行き場をなくした。結果、俺のような調度良い感情の捌け口を見つけたに過ぎない。そうサキは言っているのだ。

 「それじゃあ俺を憎んでる訳じゃないのか?」

 「根っこのところではそう。」

 「でもさっきはどうして怒って行っちゃったんだ?」

 「それはお兄ちゃんの言ったことが今のお姉ちゃんにとって一番気にしていることだからじゃないかな。」

 一番気にしていること?会ったときは気にしている風もなかったのに?

 「でも、そんな風には…。」

 「お姉ちゃんは素直じゃないから、お兄ちゃんとうまく向き合えないんだよ。」

 なるほど、そこに俺のデリカシーのない言葉が続き俺に反発するように去ってしまったのか。

 自らの配慮のない言葉に悔いつつ、安堵する。

 サキの話しを聞く限り、シズネは俺に対してそこまで憎んではいなかったということが分かった。それなら話し合いの余地は充分にあるし、仲良くなることも容易だ。

 あとはどこまでシズネの気持ちを理解できるかが問題となる。

 本人のいないところで良い方向に少し進展したように思える現状に一息つく。

 「サキちゃんはシズネと一緒にいなくていいのか?」

 一先ず切りのついた話題を置き、サキに尋ねる。

 「今日はせっかくお兄ちゃんに会えたので、お兄ちゃんに拒否されるか帰られるかするまでは一緒にいます。」

 「そのお兄ちゃんって呼び方はどうにかならないか?」

 呼ばれ慣れていない俺にとってはどこか面映(おもはゆ)さを感じさせるその言葉になぜかガウスとシズネを思い浮かべてしまう。

 慕ってくれているように感じるその言葉は、悪い気はしないのだが、初対面にも近い俺にはどうしてか痒いものがある。

 ガウスはよくこんな呼び方されても平気だな。

 「嫌…ですか?」

 いつも無表情な彼女の顔には寂しさがありありと浮かんでいた。

 「嫌ってことはないんだけど…。」

 「それじゃあこのままでもいいですか?」

 「いや、その…」

 断れない雰囲気になってしまった。曖昧に言葉を濁すと、それを是であると判断したのか、何も変えずにサキが尋ねてくる。

 「やっぱりお兄ちゃんは昔のことを覚えてないですか?」

 昔のこと。それが指す内容は、きっとティア達に会う以前の話しだ。

 辛い出来事を無理矢理押し込めて、見てみぬ振りをしてきた過去。

 今でさえ、思い出そうとしている自分を理性が邪魔するかのように想起するのを拒んでいる。

 「…うん。」

 長い沈黙の末の短い言葉に、サキは唇を噛み締めるが、平生を保って続ける。

 「そっか…。でも、こうしてまた会えて嬉しい。」

 遠い過去の情景を照らし合わせているような、郷愁に満ちた顔で告げる。その表情に胸を締め付けられるような気持ちがこみ上げる。

 彼女が今、何を思って、何を見ているのかは分からない。しかし、言い知れぬ感情が湧き上がり言葉に詰まってしまう。

 「…。」

 「まだ寒いね。風邪引いちゃうからもう戻ろ?」

 薄手のワンピース一枚だけ着たサキは、一つ身震いする。

 「あ、あぁ…。」

 そんな彼女の言葉につられて、今まで忘れていた寒気が一気に到来する。

 元からさほど寒いというわけではなかったが、意識すると一層寒くなった気がする。

 先に扉へと歩き出したサキから一度目を離し、今まで傍観していたカズミに声を掛ける。

 「帰るか。」

 「うん。」

 俺も扉にむかって歩き出したところで背筋に怖気のようなものが走り、つい身震してしまう。

 「…やっぱり本当なんだな。」

 ポツリと零した言葉の先、まだ扉へと辿り着くには充分な距離があるはずの道中を行く者の姿はなかった。

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