1話 エンプリット
はじめまして、武瀬 霜です。
ムセソウなんて読まないでくださいねッ!(ゴホゴホ…
なんて振りは置いといて、はじめての作品になります。文とか設定とかネーミング力、センスとかいろいろ無茶苦茶ですが、温かい目で見守ってください!!
コンコンコン。パキッ。
そんな小気味よい音を立て続けに二回。フライパンの上では、ハムと卵が二人分熱せられている。
火を調節し、次はつけ合わせのレタスを数枚ちぎる。トマトと一緒に均等に二枚の皿にのせ、コーンスープも用意する。最後に、良い焼き具合となった卵とハムを皿にのせる。
「よし。」
出来上がった朝食をリビングに置いてあるテーブルにのせ、一息つく。
二つ並んでいる扉のうち、開けられていない方の扉に向かいノックする。
「ティア。ご飯できたよ。」
ドア越しに呼びかけると、しばらくして物音がし始めたので、俺は朝食が用意してあるテーブルの椅子に座り、ティアを待つ。
しばらくするとドアが開き、制服に着替えた彼女が出てくる。見慣れた温和な表情に明るい緑色のロングヘアを左右に揺らしながら、朝食が用意されたテーブルへとゆっくりと歩み寄る。
「おはよう。」
「おはようございます。」
まだ寝起きでボーッとしているが、すぐに笑顔で返事が返ってくる。
俺と対面になるようにティアも椅子に座り、
「「いただきます。」」
手を合わせて二人揃ってそう言うと、その後は特に会話することもなく食事を口に運ぶ。
しばらくすると、不意にティアが手を止めて言った。
「ありがとうございます。」
唐突な感謝の言葉に驚きつつ俺も手を止め、尋ねる。
「どうしたんだ急に?」
「この学園に来てからはミキに頼りっぱなしなのでそのお礼です。」
「そうかな…特に何もしてないと思うけど。」
そう返す俺に、ティアはすぐに言葉を返してくる。
「そんなことないです!最近はミキにばかり食事を作ってもらってしまって。」
「そんなの気にすることじゃないよ。どれも簡単なものだし、父さんに比べたら出来もいまいちだしね…。」
その言葉にティアの顔が一瞬陰るが、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「お父さん意外と料理も上手でしたしね。」
「そ…そうだな。腕っ節も強かったし、家事でもなんでもできる人だったからな…。」
苦笑いして返す俺は内心、自分の軽率な発言に舌打ちしてしまう。
父さんが亡くなってまだ7日しか経っておらず、特に父を慕っていたティアは相当悲しかっただろう。一週間経ったことで、だいぶ気持ちも落ち着いてきたとはいえ、俺の言葉は不謹慎だったと自覚する。
そう内心、考えていると、苦笑いを別の意味で受け取ったティアが慌てて付け加える。
「で、でもミキの料理もとてもおいしいですよ!」
「ありがとう。」
そう言ってくれる彼女の言葉に素直に感謝する。
その後は、俺もティアも黙々と食事を口に運び、朝食を終える。
「「ごちそうさまでした。」」
最初と同じように、二人揃って手を合わせながら言う。
「俺は食器洗うからちょっと待っててね。」
「私も手伝いましょうか?」
ティアが気遣わし気に聞いてくるが、「ゆっくり休んでて。」とだけ言い、食器をキッチンへ持っていく。
洗い物を素早く済ませリビングに戻ると、すでに荷物を用意して椅子に座っていたティアをもう少し待たせて、自分の部屋から荷物を持ってくる。
「ごめん、待たせちゃって。」
「明日は私が料理しますね。」
にこやかにそう言うティアに俺もつい笑顔になる。
「今日の夕飯からでもいいんだよ?」
「今日は、まだミキの料理が食べたいです!」
「了解。」
そんな他愛ないやり取りに少しホッとしながら靴を履く。
部屋に鍵を掛け、二人一緒に廊下に出ると、まばらに通りすぎてゆく他の生徒と一緒に俺たちも歩きだす。
ここ、セントペルム修練学校では、怪物から国を守るための有望な戦士を育成している。
国を守ると言っても様々で、怪物からの襲撃を防ぐ衛兵や自国内の争いを解決する憲兵などがいる。そして、学校も役職ごとに存在し、この学校では特に、国外に存在する怪物を討伐し、国の安全を維持する精霊使いの育成をしている。
精霊使いとは、自然界に存在する精霊をその身に宿すことでその精霊の力を引き出すことができる者のことだ。
精霊には火、土、水、風といった基本的なエレメントを持つものから、光や闇などの特質したエレメントを持つものまで存在する。その多くは相容れない存在であり、当然精霊使いは複数の精霊を操ることができない。
他にも、精霊には意識が存在する。故に精霊にもそれぞれ微細な違いがあるし、精霊は一つ一つが違う存在である。しかし、その違いは極微細なものでしかなく、精霊使いはそうした精霊の発しているわずかな自然の感情を受け取ることで、意思疎通を行っている。
つまるところ、精霊使いになるためには精霊の機微を感じとることのできる相性が肝心であり、誰でも精霊使いになれると言う訳でない。特に人間は。
そう、人間は精霊の機微に疎く精霊使いとしての適正を持っていることがほとんどない。一方、人間ではない存在、エルフは真逆だ。古くから自然の営みに従い、共存してきたことで精霊を感じることのできる体質の者が多い。しかし、エルフの存在は少数であり、この学校にさえ三十人程度しかいない。
ふと顔をあげ周囲を見ると、すでに一年生の学生寮を出て、校舎に向かって伸びるレンガ敷の道を歩いていた。ティアは俺から少し距離を取って追随してくる。
それを怪訝に思い、立ち止まり振り返る。
「どうしました?」
うつむき加減だったティアは顔を上げ、首を傾げる。
「いや。どうして後ろを歩くのかなって…。」
「そ、それは…。」
素直に疑問に思ったことを問うた俺にティアは言い淀み、また顔を伏せてしまう。よく見ると周りを気にしているようだ。
「ん?」
俺もティアにつられ周りを気にしてみる。なぜか、過ぎ行く生徒は一様にこちらを見ながらコソコソと話し合っている。どれもあまり好意的な視線を感じるものがなく、 どちらかと言えば異物を見るような目だ。
その視線の意味を推し量り、すぐさま結論に行き着く。
「しまった!」そう遅まきながら気づいた。俺はしかし、すぐ行動にでることができない。
ティアはこの学校でも数少ないエルフだ。その証拠に髪の間から覗く耳は人間とは異なり尖っている。
エルフは少数の民族であるが故に孤立した存在である。その多くは農村地帯に暮らしているが、中にも街で暮らしている貴族のエルフが存在するらしい。その多くがこの学校にいるエルフだ。
人間たちにとってはエルフの存在が異質なものであるようでしばしば軽蔑される。無論、貴族のエルフに対してではなく、辺境の地からきたエルフに対してだ。
貴族エルフは往々にして、名誉を与えられ認められた者たちであり、あからさまな嫌悪はほとんどなく、そうでない辺境の地からきたエルフは異物としてみられる。
「え、えっと…ティア?」
どうしたらいいか咄嗟に思いつかずとりあえず距離を縮め、ティアの左手を握る。いまだ俯いていたティアが驚き、ビクンと体が反応する。
「とりあえず行こうか…。」
手を引っ張りそのまま駆け足気味に歩き出す。
ティアはまだ下を向いていて、表情は分からないが手を振りほどかず連いてきてくれるのでそのまま校舎に向かって歩き続ける。
まさかあれ程までにエルフが嫌悪されるとは考えていなかった。
自分の浅薄な考えに恨めしく思いながら、その場から逃げるようにしてレンガ敷きの道を二人で歩いていく。