〜An Episode〜 6
よろしくお願いします
レイラはヴァールが地面に倒れる前に、腕を出して支えた。
「私が力不足でーーごめんね」
「…………別に……大丈夫ですよ」
レイラが自責の念に苛まれていると、ヴァールが目を覚まし笑いかけてきた。
「ーー起きてるんなら言いなさいよ! 恥ずかしいじゃないのよ!」
レイラは衝動的になり、怪我人であるヴァールに罵声を飛ばす。
あっはは、と顔色悪そうに苦笑いをレイラに返す。
「あ、ごめんなさい! あ、あなたも悪いんだけどね。まあ、少し休んでて」
レイラは謝ってから、戦闘の終わりを察してか、店から出てきたオディールにヴァールを渡す。
ヴァールをオディールに預けてから、レイラは刀使いの女性に近寄っていった。
フードから覗いた顔の色は、文字通り灰色をしていた。顔自体はまだ幼く、戦闘時にも感じたように背は小さい。
フードの中をもっと注視すると、二本の角が額に生えていることが分かった。
「龍人の……純粋な血筋か」
レイラは背中を触ったり、額を調べたりして少しでも素性を確立していく。
人とのハーフであることを示す額の紋章もーー人とハーフになると、見分けがつくように額に小さな紋章を入れるーー、背中に手を回したとき悪魔だと分かる羽もない。
鬼である場合は角が三~四本になるが、先述したように角は二本。
よって、龍人の子だということは分かった。
「とにかく、この子に聞かなきゃならないこともあるし、運ぶかーー」
レイラが龍人族の少女を運ぼうと、自らの肩に手を回させたときだった。
ひやり、と背筋が凍る。
まだ、いる。それも、背後に。
レイラが後ろを振り返る。
そこにはーーこの少女と同じようなフード付きの外套を羽織った者が立っていた。
背が高く、体つきがしっかりしているのが感じ取れる。
この人は、男性だ。
外套姿のそれは、フードの下から、座って龍人の少女を調べているレイラを睨みつける。
そして、フードの下から低く、体の芯に響くような声を発した。やはり、レイラがにらんだ通り、男性だった。
「やっと……見つけた」
それだけ告げると、くるりと向きを変え全身を黒い羽に変えて風に乗り飛ばされていった。
これは知っている。悪魔七魔術の一つ、「変幻の黒羽」だ。
ヴァールも見せてくれたことがある魔術だ。
つまり、彼は悪魔の血を引いている。
やっと見つけた。
彼が述べた、その言葉。
フードの中に顔があったため、よく見えなかったが、うっすらとーー彼が口元に不敵な笑みを浮かべ、目を細めて睨んでいたのが見えた気がした。
レイラは依頼との関連性があると思い、まずは龍人の少女の手当に当たることにしたのだった。