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姫と指輪の従者  作者: 錫野邑
〜An Episode〜
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〜An Episode〜 5

よろしくお願いいたします

店の外に出ると、まだ人々が行き交う通りとしての賑わいを見せている。


だが、感じる。

王の指輪を持つ者とその従者は、王の指輪を持つ者、もしくは指輪の従者の気配を感じることができる。

特に従者は気配察知の能力が高い。


今は指輪を持つ姫、レイラでも従者の気配を強く感じられるので、相当近いのだろうと思う。


「ねえ、どこに潜んでるか分かーー」


レイラが痺れを切らしてヴァールに振り返った時だった。


振り返った先にヴァールはおらず、代わりにレイラのすぐ左隣で敵の刀の刃を羽で受け止めていた。

レイラはワンテンポ遅れて、敵の刃を受け止めるヴァールから数歩後ずさる。


敵はフードの付いた黒い外套で身を隠していた。

男性か女性か、種族は人間か、悪魔か、鬼か龍人か、分からないことが多過ぎる。

手に持つ刀は紅色に輝き、ジューとヴァールの羽が焼けるような音がする。


レイラは後ずさった先で、右手の人差し指にはめている指輪を指を折った状態で掲げ、従者と王を繋げる言葉を告げる。


「『従者よ、我の力を行使し殲滅せよ! 陰影の斧槍シェドゥ・エリゴ』」


レイラが言い終えると同時に、ヴァールはレイラの目の前まで後ろに跳び、右手を天に向けて掲揚する。

ヴァールが手を掲げていると、突如陽の光をも遮光する黒い斧槍が現れた。


陰影の斧槍シェドゥ・エリゴ」。「影」と「陰」を集め、黒き斧槍の姿に変化させた物である。

王は従者にいつでも守ってもらえるように、それぞれの指輪に武器を具現化する力が込められている。具現化された武器は「繋がりの輪器コネク・グロウ」と呼ばれ、王の指輪の謎の一つとなっている。

敵の持つ刀も「繋がりの輪器」の物なのだろう。


従者と従者の、互の王をかけた戦いが、始まった。




ヴァールは敵を睨みつけながら、漆黒の斧槍をくるりと一回転させるとーー斧槍を手から離した。


「ーーっ!」


今まで冷静に対処をしていた刀使いだが、さすがにヴァールの行動に驚いたのか、僅かにフードが揺れ動いた。

ヴァールから、静かな笑みが生まれる。


しかし刀使いが驚愕していたのもほんの束の間。

次の瞬間には地を思い切り蹴り、ヴァールに詰め寄ろうとした刀使いーーだったが、先ほどの一驚を遥かに上回るものを眼前にすることになった。


地面からヴァールが手放したばかりの槍の穂先が飛び出てきたのだ。

これには刀使いも距離を取りざるを得なかった。今度は刀使いがヴァールと同じように後ろに跳び離れる。


「ーー好機!」


ヴァールは叫びながら、蒼い瞳を見開き何も持たない状態で刀使いに疾風の如き走り寄る。


刀使いはヴァールの能力を知ってもなお動じず、ヴァールが詰め寄ってからどのような手を使うかを、視線を一点集中して反撃の機会を待っている。


ヴァールは刀使いと若干の距離をとったところで、右腕を伸ばし、右手を大きく開いた。

刹那、右手に地面に沈めた黒い斧槍が握られていた。


ヴァールは一直線上に刀使いを槍で突く。

刀使いはそれを紅き刀で流し、ヴァールの懐に入り込む。


「まずーー」


い、と言い切る前に肋から肩にかけて刀で振り上げ、斬られた。


「うぐっーー!」


呻きを上げながらも、ヴァールはすかさず刀を握り、刀使いが逃げないようにして斧槍の斧部を刀使いの背後から、左肩に叩き込んだ。

しかし、ヴァールの手はそこまでだった。

刀はやはり何かの能力を得ており、手が熱さに耐えられなくなっていた。

紅色、熱さというキーワードから見て、常時放熱をしている刀だと察しがつく。


刀使いは痛みに呻きながらも、刀から手が離れたのを絶好のタイミングと思ったのか、再度ヴァールに刀を振り下ろす。


「そうはさせませんよ!」


ヴァールは瞬時に斧槍を引き戻し、斧槍と刀をぶつける。

黒き異形の斧槍と紅き高熱を帯びた刀が、普段使われている武器がぶつかり合ったときに出るような火花を散らす。


二撃、三撃ーー。

斧槍と刀が、人の目にも止まらぬ早さで火花を散らし続け、互いの持ち主の身を守る。


「くっーー」


平然と何撃もの太刀を浴びせる刀使いに、ヴァールは防戦一方となる。


ヴァールは左足を右足よりも右に引き、半回転して後ろに跳躍する。刀使いは空を切り、体制を少しだけ崩す。

ヴァールは跳躍した先で槍を回転させると、石のタイルを刀使い目掛けて駆ける、駆ける。


「はっーー!」


鋭い呼気とともに、槍部で一突き。

体勢を立て直した刀使いは、ヴァールと斧槍に振り向き、身を回転させて躱す。

躱す続けざまに、刀の袈裟斬り。

ヴァールは左肩を少しかすめてから、左足を半歩引き虚空を切らせる。


そこにもう一突き!

刀使いは刀を迫る槍に向かって振り上げ、槍の突き先を逸らす。


「これはまたーー」


ヴァールは天に逸らされた槍を力任せに引き戻し、ヴァールの肉体を上から断ち切ろうとする刀から我が身を守護する。


「そろそろーー」


反撃。


ヴァールは受け止めている斧槍で刀を力技で押し返し、刀使いをよろめかせる。


「これでーー」

「甘いね、君」


ヴァールが槍部で突進しようとしたときだった。

刀使いは言葉を発し、次の瞬間に片手で槍を掴んだ。声からして、女性だ。綺麗な、高い声だった。


しかし今はそんな悠長なことを考えていられない。

形勢逆転!

その言葉がヴァールの心を、相手の刀よりも先に刻む。


「終わりだよ」


刀使いは槍が動かぬよう手で抑え伝えながら、それこそ疾風迅雷という言葉そのものになり刀を上げて下ろす準備に入りーー。


色味を増して、下ろされる!

刀の周りの空気からは、爆発が起こっている。


それでもヴァールの顔には諦めの顔はなかった。

むしろ、その顔は勝ちを悟り、誇ったものそのものだ。

そして、至って静かにーー。


「終わりはーー君だ」


静かに告げられた言葉に、刀使いは眉をピクリと動かす。

と、今度は眉の下の目が大きく見開いた。

ヴァールの言葉が何を意味しているのかを知り、悟ってしまった刀使いは、その瞳に畏怖の感情をこもらせていた。


そう、ヴァールの斧槍は、抑えられないのだ。

ヴァールは自分とレイラ姫との繋がりによって生まれた斧槍を離した。

刀使いが掴んでいた斧槍だったが、ヴァールが手放した瞬間に、黒い影に溶けて地面に埋もれていった。


それでもーーいや、だからこそなのかもしれない。

刀使いは諦めず、刀を紅蓮に染め上げて、ヴァールに袈裟斬りを狙った。


刀はその刃をヴァールに伸ばしーーしかし、それは届かぬものとなった。


「チェックメイトです、刀使いさん」


ヴァールの言葉とともに、刀使いの腹を黒い影の槍が貫き、両脇腹を黒い陰の斧が抉った。


槍と斧が抜かれると、刀使いは地面に素直に倒れた。

ヴァールは刀使いに近づこうとしてーーそこで膝をついた。刀は当たっていなかったが、刀の周りの爆炎で肩から少し下まで焼けていたのだ。


これはやられた。

予想以上の戦闘に、ヴァールは自嘲し、そのすぐ後に倒れた。

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