〜An Episode〜 2
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今度は、三分の一も読まずにレイラは、ヴァールに読んでいた本を預けた。
「全てお気に召しませんか?」
「いいえ、そうじゃないわ。大体のことが分かったし、少し動こうかと思って。今は……午前十一時ね。なら、午後にでも近衛兵さんのところに訪問に行きましょう」
「またそうポンポンと何でもお決めになって……急いでいては、早くことが進みますが、ムラが出たり、転んだりしますよ。もっと余裕を持ってーー」
また始まった、ヴァールの説教が。
言っていることは正しいのだが、こうも説教癖があるところは好きではない。
レイラが頭を文句で埋めていると、目の前に突如としてヴァールの顔が現れた。
「うわっ! な、何よ!」
「話を聞いておられるのですか、レイラ様。まあ、何を言っても直ることはまずないのでしょうが……」
「いい見解ね」
「調子に乗らないでください」
「痛っ! 何するのよ!」
ヴァールが一冊の本を手に取り、レイラの頭に躊躇なく叩きつけてきた。御主人様兼親友に何ということを。
「もう! ヴァールのーー」
「それでは、こちらの本たちは片付けて参りますね。外で待っていてください」
レイラの反論に被せてくるように、ヴァールが階段を上り始め、レイラに命令する。これではどちらが主人か分かったものではない。
怒りが頂点に達したレイラは、一言ヴァールに浴びせて外に出ることにした。
「ヴァールのーー」
「あ、忘れ物のないよう、お気をつけくださいね」
「…………はい」
振り返りざまにくれたヴァールの言葉に、結局素直に従うしかないレイラであった。
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図書館を出たレイラとヴァールは、外で昼食をとることにした。
二人は図書館近くのカフェに入った。
名を「レジュ・リリナ」。
外装内装ともに落ち着いた雰囲気の暗い茶色で、全体的にゆったりとしている。
図書館に近いというのも理由だが、何よりも知り合いが店主をやっていて、よく来ているというのが最大の理由だった。
二人は店に入ると、いつもの定位置に席の案内をされた。
案内してくれたのは、それこそ働いている知り合いだった。
「注文はそのボタンを……って、もう決まってるか」
「分かってきたじゃない。クロックムッシュ二つに、コーヒー二つね……いいでしょ? ヴァール」
レイラは注文した後でヴァールに問いかける。
まあ、注文してしまったが。
ヴァールはメニューリストを手に取りかけて、笑って頷いた。
「良いですよ。注文してしまいましたし」
「というわけでお願いね、オディール」
「かしこまりました、レイラ嬢」
長身痩躯の気弱そうな男性の店主、オディールは笑顔を見せると店の奥に消えていった。
本名はオディール・グベルディ。金髪をワックスで逆立て、浅黒い肌をしている。先述したように長身痩躯で、体も肌や髪とは裏腹に気弱な部分が見受けられる。
目は優しそうなタレ目をしている。
橙のエプロンを着用し、白いシャツに明るい茶色のズボンを下に着ている。
この店のクロックムッシュとコーヒーは、食にうるさいレイラも納得の味であり、重宝している。
この店の店主オディールは、レイラの知り合いの中で王の指輪を持つ唯一の存在である。
彼とは依頼主として知り合い、それから彼とは仲良くしている。
レイラはテーブルに肘をついて手で顎を支えてぼーっとしていた。
レイラが放心状態で窓の外を見ていると、ヴァールが突然話を切り出してきた。
「レイラ様ってあまり表情に出しませんけど……辛くありませんか?」
「な、何よ急に」
「いえ、レイラ様の元の家の謎が未だに残っている中でも、レイラ様はレイラ様なんだなと、ふと思いまして」
「そんなのお互い様でしょ? 急に気持ち悪いわね……」
「気持ち悪いとはひどいですね」
ヴァールは顔を引きつって感じたことを直球で伝える。
ヴァールがこんな話を始めたのは、依頼を受けるのに当たって調べたいことがあり、それも並行して調べていくと決めていたことからである。
調べたいこととは、ヴァールが言った通り父のことである。
当初、ネスリシア家は戦争の影響で崩れ去ったと思っていた。
しかし、その後ネスリシア家の崩壊を不審に思ったデュルカレス家は、独自で調査をしてくれていた。
そしてそれは、レイラのデュルカレス家への信用を失い、ネスリシア家の謎を自らで解こうとする意思へのきっかけとなった。
デュルカレス家はレイラに一切、ネスリシア家について教えてくれなかったのだ。
信用がレイラの中でなくなったため、レイラとヴァールはデュルカレス家を出ていき、依頼を受けながら本格的にネスリシア家の謎を探ることにしたのだった。
「気持ち悪いは言い過ぎたけど……別に大丈夫よ。それに、さっきも言ったようにあなたも同じようなものなんだから」
「レイラ様に心配されるとは……ありがたき幸せ、ですね」
「何言ってるのよ……バカ」
レイラは気恥ずかしさに、窓の外に再び目を移してヴァールと目を合わせないようにする。
ヴァールも同じようなものというのは、山で捨てられた彼の本当の境遇についても調べられることは調べていくことにしていた。
ヴァールは調べることに反対しているので、レイラの独断の調査ということになっていた。
ヴァールと話していると、頼んでいたクロックムッシュとコーヒーがテーブルに置かれた。