〜An Episode〜 1
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〜An Episode〜
静かな図書館に、華やかで、人々の目を惹きつける美しい女性が席に座っていた。
艶やかな栗色の髪をポニーテールにしばり、キメの細かい雪のような白い肌に端整な顔立ちをしている。
十八歳の彼女は、十八歳の平均的な身長をしていた。しかし、体全体はまだ発展途上といったところか。
大きな目に、綺麗なブラックパールの瞳が特徴である。
茶色いインバネスコートにケープを羽織り、鹿撃ち帽を被るといういかにも探偵のような服装をしている。インバネスコートの中は白いスーツに、タイトスカートを着用している。
名を、レイラ・デュルカレス。
元は、レイラ・ネスリシア。今はもう失われた名だ。
レイラは図書館に用意されている椅子に腰をかけていたが、決して本を読んでいたわけではなかった。
図書館は国立のため、大きく建造されており、本も膨大な数の量が保管されていた。
時代も様々で、数百年前の本から最近出たばかりのものまで。
図書館は白を基調とした壁でドーム型に建てられており、三階まで本が置いてある。レイラが座っていたのは、二階へ続く階段の近くの、一階の椅子だった。
レイラが、本を手に取り近くの椅子に腰かけて本を読む人々を眺めていると、二階から一人の男性が降りてきた。男性は小脇に本を三冊ほど抱え持っている。
「遅かったわね、ヴァール。何していたの?」
「申し訳ありません、レイラ様。さすがの悪魔の七魔術の一つ、『千の眼』を使ってもこの量ですから手間取ってしまいました」
「言い訳は聞かないわよ……それより、見つかったんでしょうね?」
「それはもう! 素晴らしいのがーー」
男性が言い切る前に、小脇に抱えられている本たちをレイラは引き抜いた。
レイラの友にして、下僕の男性。名前をヴァール・デュルカレス。一応デュルカレス家で引き取ったという名目でデュルカレスの姓を与えられている。
サラサラとした金の短髪に、白く綺麗に整った顔立ちをしている。
長身で細身だが、体はがっしりとしている。
少しつり目をしていて、蒼い両の瞳が特徴的である。
白いシャツに黒いフロックコート、下はフロックコートよりも明るめの黒色のズボンを着用し、頭には明るい茶色のシルクハットを被っていた。
シルクハットは角を隠せ、悪魔特有の羽は仕舞うことができるので、今は姿は人と変わらない。
ヴァールは、急にレイラに本を取られたのを不服に思ったのか、いつもより少し強い口調で本が合っているか否かを質問してきた。
「それで大丈夫ですか、レイラ様」
「ええ、大丈夫よ。ありがとうね、ヴァール」
「い、いえ、そ、そうでもありますね、はい」
レイラに褒められ、今度は照れくさいのか頬を赤らめて動揺したように返答する。
レイラは早速本の読解に取り掛かった。
本の名前は、「王の指輪の限界とは」。
王の指輪とは、レイラがヴァールと契約したように、何者かと主従関係を持たせる仲介役の指輪である。
製造元、素材などそのほとんどが謎に包まれている物で、未だに解明されていないことが多い。
レイラはヴァールとしか主従関係を持っていないが、ある事例では何十人と主従関係を持つ者もいるという。
研究によると、王の指輪は所持者と従者となる者の合意の元で契約を結ぶという。
それでいて、複数の者と従者関係を結ぶと、ペナルティが生じるというのも分かってきている。ただ、そのペナルティというのも様々で、謎が多いことには変わりはない。
そういった謎についても、もう少し調べておくべきだと思っていたのだ。
ーーというのは、二割ほどの理由なのだが。
「どうです? 作者のオリヴィベール・カヴァニュニラのこと、何か分かりました?」
「まあね。ものすっごく回りくどい書き方をする人だということは分かったわ」
レイラは呆れたように溜息をつく。
それから半分ほど読み進めてから、残りを読む前にその厚い本を閉じた。
今回、この本の他二冊をヴァールに持ってきてもらったのは、作者のオリヴィベール・カヴァニュニラについて調べるためだった。
王の指輪を利用して国の統治を企んでいるというので、そのような調査も込みで、もし企みがあるようなら討伐して欲しいと依頼を受けていたのだ。
現在レイラとヴァールはデュルカレス家を出て、小さな一軒家に住んでいた。
デュルカレス家から多少の援助を受けてはいるが、レイラとヴァールで「王の指輪」が絡んだ依頼を受けて、自分たちでも稼げるようにしていた。
初めは依頼など来ないと踏んでいたレイラは仕事を探そうとしていた。
しかし、レイラの不安は杞憂だった。
王の指輪で困っている人が多く、依頼で生活費をゆうに稼げるほどはあった。
今回の依頼主は、オリヴィベールの国の乗っ取りを一番に察した国王の近衛兵だった。
近衛兵から最初に電話を受けたときは、レイラも驚き、疑惑の念がこみ上げてきた。
しかし、依頼は依頼だ。
そう割り切って、レイラは一冊目に読んだ本をヴァールに預けると、二冊目に手を伸ばした。
今読んでいる本も、どこか気に食わない書き方だった。