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三点倒立

俺は今、三点倒立をしている。

両腕は適度の負荷を加えられ、鮮やか膨張している。

鍛えられた胸板と腹筋、そしてでん部が、ゆがみの無い直線を描く。

頭頂と両手で支えられた俺の鍛えぬかれた体は、限りなく垂直に聳え立ち、その先端であるつま先は、ピンと空を指している。


美しい。限りなく美しい。


それに比べて普通の倒立など、どうた。

バランスを保つために、背骨をそらせなくてはならないではないか。

あまりに美しくない。

さらにはバランスを取るために足を折り曲げたりしながらも倒立だと言い張る。

馬鹿か。それは倒立ではなく、手で立っているだけだ。

どうして世の中の馬鹿どもは、普通の倒立をありがたがり、三点倒立をないがしろにするのか。

あいつらには、この美しさがわからないのだろうか。


そこに競歩の女が通りかかった。

無駄に曲がる事のないひざと、そこを起点とした研ぎ澄まされた腿。

絶妙なリズムで左右に揺れるでん部。

競歩も美しいながら、世の中の馬鹿には理解されないものだ。


俺は強い共感を持ちながら、彼に話しかけた。


「お互い美しいのに、認められないのは悲しいですね」


競歩の女は、その歩みを止める事無く、俺の周りをぐるぐると回りながら答えた。


「倒立とは天地逆に立つものではないのでしょうか?

 人間とは二本足で立つものです。

 三点で支えて立つものではありません。

 三点倒立を直立に例えたなら、

 あなたの頭は尻尾になるのでしょうかね?」


女はそう答えると、何か哀れな生き物を見るような冷たい目線で一瞥をくれると、歩き去っていった。


小さな女に上の視点から見下される感覚。

目の前で揺れ動くしなやかな筋肉質な足の美しさ。

俺は興奮を覚えた。


これこそが三点倒立の真髄なのだ。

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