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絶対主義  作者:
act 01 日常
6/10

04


一方、シェンツァとラルフィーがそんなやり取りをしている中、オリゲルトは大広間の様な場所に出ていた。


彼の視界は一体どうなっているのか、完璧に包帯で閉ざされているはずであるのに、何の障害も無く歩いている。

首元まで伸びている黒い髪に、真っ黒なコート。まさに黒尽くしである。唯一黒でないのは肌色と、そこに巻いてある白い包帯だが、その包帯には赤黒い染みが浮かび上がっていて、不気味さを増加させていた。そして片手には、彼の身長の半分程の大きさはある大鎌が。

その風貌は、小さな子供どころか立派な成人男性ですら震え上がりそうなものであった。


そんな彼の元に、あからさまに場違いな高い声が飛んできた。



「あっれ、オリゲルトー?どうしてこんなところにいるの~?」


その声の主はシェンツァやオリゲルトと同じように、燃え盛る炎が姿を避けている。

一瞬だけ見た場合なら、まるで炎や床に広がる赤い海と混ざって見えてしまいそうな赤紫の髪と、同じ色で大きく純粋な瞳にはオリゲルトを恐れる様子もなく、ただ疑問を映しだしていた。彼を一言で表すなら、幼い子供。まさにそのままであった。


この子供が先ほどシェンツァとラルフィーの会話に出てきたイノージュである。シェンツァの予想は見事に的中していた。


「……任務だ」

「わぁっ!?」


イノージュが足元まで駆け寄るや否や、オリゲルトは何の躊躇いもなくイノージュの襟首を掴む。一言発しただけで詳細も何もなく、イノージュを引き摺って元来た道を歩き始めた。

当然そんなことをされたイノージュはたまったものではなく、しかも襟首を引っ張られ首が締まり、掴んでいる手を叩きながら抗議を始めた。


「うぇぇ、オリゲルト!くるしいよ!それにボクまだアソビ足りなぁい!」

「此処に居る必要はもうない…」

「やぁだやだ!ていうかくるしいってばオリゲルトのバカバーカ!!」


ジタバタと両手両足を動かし暴れ、年相応とも言える幼い罵倒をオリゲルトに投げ掛ける。

しかしその声は届いていないのか、はたまた全くもっての無視なのか。オリゲルトは一切気に掛けることなく足を進めた。


「もーうオリゲルトの任務バーカ!!いいじゃんちょっとぐらいアソブの長くてもぉー!!」

「……しつこい」


遂に執拗に駄々を捏ねていたイノージュに痺れを切らしたのか。襟首を掴んでいた手を離し、代わりに持っていた大鎌の先端をイノージュの首元に突きつけた。

イノージュは一瞬驚いたものの、反応は恐怖等ではなく拗ねたものだった。弾力がありそうな頬を大きく膨らまし、口を尖らせ眉間には小さくしわを寄せて数十センチの慎重差があるオリゲルトを、大きく迫力の無い瞳で睨んだ。


「……行くぞ」

「はぁ~い……」


鎌を下げ、歩き出したオリゲルトについていこうとイノージュは小さく足を踏み出した。しかし、数歩歩いただけですぐに「あ!」と大声を出して体の向きを半回転させ、一点を目指して走り出した。

オリゲルトはそれについていかず、腕を組んでイノージュの行動を見ている。


小さな子供が一直線に駆けていった場所は、片方の脚が壊れ崩れている大きなテーブル。そのテーブルを「えいっ」とやはり場違いな可愛らしい声でひっくり返した。

そこから現れたのは、小さな体を更に小さく縮こまらせ大きく震え上がり、大粒の涙を零す子供の姿が。


「ひ…っ」

「ねえねえ!ボクと同じぐらいの子いたんだよ!!」


がたがたと体の震えを止めない子供と、嬉しそうに頬を緩ませ笑顔を見せる子供。全く真逆の反応を見せる子供達。足を止めていたオリゲルトはその二人を見て、そちらに向かい足を運んだ。


そして震える子供の前で足を止め、オリゲルトは何のためらいもなくその子供を俵のように担ぎあげた。


「……ひ、ぃ!?」

「わあい!連れてくの?」

「……こいつの処理は奴の判断次第だ……」

「えー…確かにラルフィーが今日のリーダーだけどさぁ~…」


再び口を尖らし、機嫌を損ねるイノージュ。

オリゲルトの後ろについて歩いているので、上を見上げると彼が担いでいる子供とばっちりと目が合った。イノージュは嬉しそうにその子供に手を振るが、子供はそれに反応する事は無かった。その子供の視線の先は、床に散らばった人の成れの果て。それを生気のない瞳で涙を流しながら見つめている。

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