異世界の男の子3
アレン君と手を繋ぎ歩いて買い物に行く。今は私より小さいけれど、もう少ししたらアレン君の手は私より大きくなるのだろう。簡単に想像できる未来に小さく笑う。そんな私をアレン君は気持ち悪い奴を見るような顔で見てくる。
へへ、そんな顔で見られても今の私は平気なのだ。だって初めてのアレン君とデートなんだから。お買い物デートだ。私の住んでいる町を教えてあげれるのは、知ってもらえるのは、こんなにも嬉しい事だとは知らなかった。
「キモい」
「ストレート過ぎます……」
罵られながらも歩き続ければ近場のスーパーに着いた。初めて見るスーパーにアレン君は「これがスーパーか……」と呟いていた。他にも自動ドアに驚いたり、店内のアナウンスに肩をビクつかせたり。
正直に言おう。アレン君、可愛い。とても可愛らしいです。
どうやら、アレン君の世界には自動ドアはないらしい。店内アナウンスもない。
「椿」
「何でしょう」
「これは何だ?」
「カップラーメンです」
どうやらカップラーメンもないようだ。瞳を輝かせながら店内を見ているアレン君は年齢相応で。
「アレン君、何が食べたいのですか?」
「肉じゃがってやつが食べてみたい」
「よく肉じゃがを知っていましたね」
別にアレン君を馬鹿にしたわけではない。彼は和食を知らないのだ。そんなアレン君の口から肉じゃがなんて単語が出てくるとは。吃驚だ。
「テレビであった」
なるほど。あの昼前にある料理番組を偶々見たのか。
メインはアレン君の希望通りに肉じゃがにするとして、味噌汁と、ほうれん草のおひたしと……。頭の中でメニューを考えながら材料を選んでいく。
周りをキョロキョロするアレン君の手を引っ張りながら野菜コーナーから肉コーナーへ移動する。
「椿、椿」
「何でしょう」
「これは何だ?」
アレン君の指差す先にはウィンナー。パリッとして美味しい事と、ウィンナーの皮は動物の腸と言う事を教える。家にあるから明日の朝ご飯に食べさせよう。
こんなに驚くアレン君を見ていると逆に私がアレン君の世界の食べ物が気になってしかたがない。今日はアレン君の世界の食べ物の話を聞こう。
買い物が終わり、お金を払ってスーパーから出る。
鼻歌を歌いながら歩く。小さい頃から変わらない土手を歩いて、もう歳を取っておじいちゃんになった大きい白い犬を見て、いつも歩いている道なのに、アレン君がいるだけで楽しく思えた。
アレン君の方を見ると、彼は私と違って難しい表情をしていて、私は彼の名前を思わず呼んだ。
「アレン君」
「椿、俺、言わなきゃいけない事がある」
うん。知っていたよ。何を言うのかはわからないけれど、何かを言いたそうにしていた事とか、私を怒っている時、眉を寄せて寂しそうな表情していた事とか。
ついにこの日が来たのか、と思うと胸が痛んだ。
「時間がない」
「そっか……」
「もうすぐ、俺は自分の世界に戻る」
涙が出そうになる。アレン君の手を強く握る。
「椿、泣くな。笑え」
「うん」
「お前は女なんだから、早く帰宅しろ」
「うん」
「この世界がいくら平和と言えど、もう少し危機感を持て」
「うん」
アレン君は私の心配ばかりをしていた。いつも怒るのは私を心配ばかりしているからで。いつもどこか距離があったのはお別れの時、私が寂しくならないようにしていたからで。不器用で優しい彼は、私より幼いのに、私より大人だった。