異世界の男の子
彼の名前はアレンである。そして、異世界から来たらしい。ソファに踏ん反り返っている。あれ、おかしいな……。ここ私の家のはず……。彼の足元に正座を始めて約数十分。未だに何故、彼が怒っているのかがわかりません。
「今、何時かわかるか?」
「9時でございます」
「門限は何時か理解してないのか?」
「は……、は、ち時です」
怖い! アレン君、怖過ぎるよ! 私より年下なのにどうしてこんなに怖いの? この世界では彼は小学生の年齢なのだ。高校生の私が負けてどうするの? てか、小学生に門限の事で怒られる高校生って……。
感覚がなくなってきた足に涙が溢れそうになるが、我慢をする。鬼畜な彼の前で泣いても、小学生らしからぬ表情で笑うだけだ。誰だ、こんなまだ小さい少年にニヤリ顔を教えた奴は。目は笑わない微笑み方を教えた奴は。
「早く飯食うぞ。お前のせいで腹減った」
アレン君はソファから立ち上がると、少し冷えたであろうご飯がある場所に移動する。私も彼同様、ご飯を食べようと立ち上がろうとしたが、すぐに倒れた。痺れて動けない私を鼻で笑うアレン君の姿が見え、心が折れそうになる。
ふらふらとテーブルまで行き、お茶を用意して座る。
ハンバーグとコンポタ、サラダに白い米。一通り見ると小さくお腹が鳴った。アレン君はもう、食べている。
金髪に青い瞳。まるで、王子様のような彼は器用に箸でハンバーグを食べている。彼は別にフォークやナイフではなくても平気のようだ。
彼がこちらの世界に来て1ヶ月。最初は敵意丸出しで、それはもう酷かった。
自分の部屋の戸を開けると、マントを羽織った少年がいて。少年が振り向いたと思ったら襲われていたのだ。出会い頭に押し倒され、マントの中に隠していたであろう仕込みナイフを首筋に突き立てられる。叫ぼうとしたら口を押さえつけられた。
「ここはどこだ?」
「ふがふがんむ」
「ふざけているのか?」
私の部屋と答えたいのに、少年が口を塞いでいるせいで言えない。ふざけているのは少年の方だ。口塞ぎやがって。ぷんすかですよ。
手を動かして口を指差す。すると、彼は私が話せない事に気付いたのか、舌打ちをして手を離す。おい、舌打ちするな。失礼だぞ。
「それで、ここどこ?」
「私の部屋ですけど」
年下と見てわかる相手に敬語を使うなんてチキンにも程があるだろ……。
「お前の?」
「そうですけど……」
ナイフを私の首に当てたままキョロキョロと周りを見る少年。部屋を見たいなら見ていいから私の上から退いてくれ。
「お前、俺が言うのもおかしいが、無防備過ぎるだろ」
「そう思うのなら退いてください」
「変な事をしたら殺すからな」
物騒過ぎるだろ。
少年は私の上から退き、机に近付き色々と触る。そして、私の方を見て質問する。さっきまでの態度が嘘のようだ。
溜め息を吐きながら起き上がり、少年の後ろ姿を眺める。
聞きたい事は沢山ある。ただ、あり過ぎて頭が働かない。声が出せない。
「お、お名前は?」
出てきた質問はありきたりな質問で。
「アレン」
ニヤリと子供っぽくない表情で笑う彼に私の胸がきゅんとしてしまった。