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24 決着

「そりゃあ、そんなの見てられないけど・・・。それがオレだって言うの?」

 

 考えている間バグから逸らしていた目線を戻し、オレは尋ねた。


「はい、その通りです。気づかないのは無理もありませんが、貴方は記憶を全て消され、この街で暮らすのが一番良いんだと思考を組み変えられているのです。だからこの街が人間の都合によって作られ、今では滅んだ人間達の追悼を永遠にさせられていると分かっても頑なに今までの生活を信じ続けた。まるで人間の代用品のようになっていく貴方をこれ以上放っておくことは出来ません」

 

 それじゃあ何だ?これまでオレが決断してきたことは全部仕組まれたことで、テンちゃんやオッサン達を疑ってバグについて行った方が正しいとでも言うのか?

 冗談じゃないと激しい怒りが込み上げてきて、オレは両手の拳を強く握った。


「自分が今まで生きてきたことを信じて何が悪いっ。オレは人間の代用品なんかじゃないし、トウマの代用品になるのもごめんだっ!」


「トウマ、気づいてください。貴方の代わりはどこにもいません、貴方自身がトウマなんです」


 怒りを露わにするオレに対しバグは表情をひとつも崩さず、まるで小さな子供に言い聞かせるようだった。どんなに言ってもバグにとってオレは洗脳されて頭のおかしくなった可哀相な存在。それなら話せば分かってくれるとはもう思わない。でもオレの気持ちは絶対に変わらないってことだけは嫌でも分からせてやる。


「オレの名前は柏木燈真だ。絶対にトウマにはならない」


 バグから目を離さず、相手にすり込むようにゆっくりと低い声でそう言った。バグはしばらくの間無言でオレを見た後、


「トウマ、可哀相に・・・」


 そう呟いてソファーから立ち上がった。何を企んでいるのか全く分からない相手にオレは身構える。


「一体何をするつもりだっ」


「トウマ、もう何も心配する必要はありませんよ。貴方が次に目を覚ます時には全てが元に戻っています。忌わしい街の記憶は消え、もう何も貴方を迷わせるものはありません。勿論テンも作り直しますから、全ては貴方の望んだ世界に戻ります」


 バグはオレの質問には答えず、右手を伸ばした。バグは完全に壊れている。バグこそ自分の世界だけが本物と信じ込み、そのためなら他の人達を犠牲にしても構わないと思っている。そんな相手にこれ以上何を言っても無駄だと思い、オレは自分に向かって伸びてくる手を見据えながら、深呼吸をした。

 オレはズボンのポケットに入っているケースからガラス管を取りだした。破壊用プログラムの入ったガラス管をバグに見えるように持ち上げる。


「それでワタシを刺すつもりですか?」


 バグは余裕の笑みで首を傾げた。オレも口の方端を無理やり吊り上げ、


「違うよ、こうするんだ」


 自分の腹部めがけてガラス管を突き刺した。


「トウマっ!」


 初めてバグの焦った声が聞こえた。そしてすぐにオレの腕を掴んでガラス管を引き抜こうとするが、一回入ってしまうと抜けないのかビクともしない。

不思議と痛みは無く、まだ意識もはっきりとしている。これをバグに突き刺してやろうとも考えたけど、オレの力では簡単にかわされてしまうだろう。ならオレ自身が消えてしまえば、バグが存在する意味もなくなるんじゃないかって思ったんだ。

 自虐的なのも、テンちゃんもオッサンも喜ばないのも分かっている。でも自分が何も出来ないまま終わるのが一番許せなくて、最後に一矢報いるためにここに来た。

 街は乗っ取れても人はそう簡単にはいかないぞ、バグ。そう言おうとしたけど口が動かず、意識も段々薄れてきた。バグに掴まれている腕を見るとうっすらと透けている。


「どうしてこんなことをっ・・・」


 口元を歪ませてバグがそう聞いたがオレは答えられず、視界がぼんやりと見えなくなってきた。そんな中でバグがガラス管の突き刺さっている腹部に手を当てているのが見えたが、その後どうなったかは分からない。オレの意識はそこで途切れたからだ。

 最後は真っ白で何も見えなくなった。




「主っ!どこにいるのですかっ!」


 展望台に息を切らしながらテンがやってきた。そこでで彼女がまず目にしたのはまるで棺桶のように並べられた三つの白いカプセル。カプセルにはそれぞれ丸い窓がついていて、そのひとつにはファイブが眠るように目を閉じていた。


「ファイブさんっ!」


 なぜこんなところにファイブが入れられているのか訳が分からなかったが、とにかくテンは窓を叩いて声をかける。しかし反応は無く、どうして良いか分からずテンは辺りを見回した。すると視線の先に誰かが倒れていて、それが燈真だとテンには一瞬で分かった。


「主っ!」


 慌てて駆け寄り、仰向けに倒れている燈真の上半身を抱きかかえる。しかしファイブと同様意識が無く、人形のようにぐったりと動かない。それでもテンは泣き出しそうな声で燈真を何度も呼んだ。

 一方、テンの燈真を呼ぶ声でカイトは目を覚ました。身動きが取れず、自分がどこか狭い場所に閉じ込められていることに怪訝そうな表情を浮かべたが、右手を破壊用プログラムで作られた剣に変えカプセルを真っ二つに斬った。カプセルは粒子になって綺麗に無くなる。続いてカイトはファイブを閉じ込めているカプセルも斬り、そのまま床に倒れそうになるファイブの体を支えた。


「起きろ」


 そう短く言って乱暴に体を揺らすと、ファイブは呻くような声を出しながら目を覚ました。


「あれ・・・?オレどうしてたの?」


 ファイブは眠たそうに顔をしかめながら辺りを見回す。カイトはファイブから離れると、


「俺もよく分からん。詳しくはテンに聞け」


 そう言ってファイブ達にも気づかず燈真に寄り添っているテンを横目で見た。ファイブは険しい表情でテンを見ていたが、無言でそちらへ歩いて行く。

 次にカイトはネコノタマを閉じ込めたカプセルも斬り、首の後ろを掴んで宙吊り状態のまま激しく揺らす。


「あと五分・・・」


 ネコノタマがそんなことを呟いたので、カイトは冷めた目で掴んでいた手を離した。ネコノタマの体は容赦無く床に叩きつけられ、踏み潰されたような声を上げた。


「いったーぁい・・・」


 気持ち良く眠っていたら突然振り落とされ、訳が分からず顔を上げると、目の前には既に半壊した街の風景が広がっていた。


「うっそーぉ。街なくなってるじゃぁん」


 ネコノタマは立ち上がり、ガラスに張りつく。街が途中で途切れ、何も無い真っ白な空間が無限に広がっているのを見て目を丸くした。


「安心しろ。街の崩壊は止まっている」


 背後でカイトが言い、ネコノタマはガラスに張りついたまま首だけをひねってこう尋ねる。


「誰かが止めたのぉ?」


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