17 カイトの災難
言われた部屋に行くと、なぜかパソコン二台が持ち込まれ、ファイブとネコノタマがせかせかと指を動かしていた。ファイブは狭いテーブルの上にパソコンを無理やり置き、ネコノタマはベッドの上に置いて自分も寝転がっている。どうしてこんな狭い部屋に男が三人も集まらなければならないのかとカイトはうんざりとした表情で溜息を吐く。
「来たね、カイト君。今バグが入って来れないようにホテルのセキュリティーを厳重にしてるんだけどさぁ」
「それよりどうしてこんな狭い部屋にわざわざパソコンを持ち込んで来る必要があるんだ?」
カイトの質問にファイブは顔を上げ、
「だって燈真君にもしものことがあったら大変じゃん?いつでも駆けつけれるようにこの部屋選んだんだから文句言わないの」
「すぐ近くに柏木燈真がいるのか?」
「って言うかすぐ隣にねー。パソコン探してここまで運んでくるのが大変だったんだよーん」
ネコノタマがそう答えた。しかしすぐにフェイブが反論する。
「何言ってんの、君マウスとキーボードしか運んでないじゃん」
「だってオデ体小さいし、体力ないから無理―ぃ」
「いい大人なんだし、体元に戻せば運べたでしょうが」
「元に戻る方法忘れちゃったーぁ」
ケラケラと笑いながら言うネコノタマ。このままだと話が先に進みそうもないと思い、
「それで、何か問題が起きたんじゃないのか?」
不機嫌そうにカイトがそう聞いた。
「そうそう。別にトラブルが起こったとか言う訳じゃないんだけどね」
「このパソコンじゃあ出来ることが限られてるんだよねーぇ」
ファイブの続きをネコノタマが言い、なぜか期待を込めた目でカイトを見てきた。物言いたげなネコノタマを無視し、嫌な予感を感じつつもカイトはファイブにこう聞く。
「俺に何をさせたいんだ・・・?」
フェイブは悪びれもなくヘラヘラと笑い、
「実はカイト君がアンドロイドだってこと話しちゃった」
カイトは別に自分がアンドロイドであることを隠していた訳ではなかったが、出来れば気づかれたくは無いと思っていた。特にネコノタマには。カイトが横目でネコノタマを見ると、彼はニヤリと笑い、
「オニーサン、何でそんな凄いこと隠してたのーぉ?もっと早く教えてくれればなりすましちゃんとかこてんぱんにやっつけられたのにーぃ」
「だから、お前は俺に何をさせたいんだ?」
ネコノタマのもったいぶった言い方に苛々しながらも、カイトは押し殺したような声で再び聞いた。
「言い方悪いけど、オニーサンって物凄い処理能力を持ったコンピューターそのものじゃん?そのオニーサンとパソコンを繋げたらどうなるのかなーって思ったのぉ」
予感はしていたものの、カイトは懇親の怒りを込めてファイブを睨みつけた。ファイブは申し訳なさそうに手を合わせると、
「ごめんね、カイト君。こういうことされるの一番嫌いだって分かってたんだけど、こんな状況だから君に頼るしかないんだよ」
そう言った。普段ならパソコンの補助役など天地がひっくり返っても引き受けないのだが、つい先ほど独断で華絵を行かせてしまったこともあり、カイトは大きく息を吐いて諦めることにした。
「・・・分かった」
「流石カイト君。どんな時でも冷静でいてくれるね」
ファイブが大げさに手を叩いて言うが、カイトはそれを無視して、
「お前のパソコンに繋げればいいのか?」
淡々とネコノタマに聞いた。
「話が早いねオニーサン。皆こうだと助かるのにぃ」
ネコノタマの褒め言葉にも特に反応せず、カイトは自分の首の裏に手をあて、そこから一本のケーブルを引っ張り出してきた。すかさずネコノタマが興味津々に身を乗り出して見るが、ケーブルは皮膚を突き破っているような形で出ているため、中がどうなっているのかは分からなかった。アンドロイドなので当然出血も無く、ネコノタマは関心しきって大きく口を開けた。
「これを本体へ接続しろ」
カイトはそう言って、ケーブルをネコノタマに手渡した。ネコノタマはケーブルの先についているプラグを見た後、
「・・・これってイヤホンと同じだけど、いいのぉ?」
「繋がればどこでもいい」
カイトにそう返され、ネコノタマはプラグをイヤホンの箇所にさし込んだ。それを確認したカイトはベッドに腰掛け、
「ホテルのセキュリティーを厳重にしていると言っていたよな。生半可なことではバグの侵入を防ぐことは出来んぞ」
足を組みながら言った。
「とりあえずホテル全体は難しいからテンちゃんと柏木燈真のいる部屋だけは絶対に入れないようにするつもりぃ。他の場所は誰かが侵入したらすぐに分かるようにすればいいやぁー」
「具体的にはどうするつもりだ?」
カイトが聞くと、ネコノタマはパソコン画面から顔を上げ、
「この街は全部バグに乗っ取られてんでしょーぉ?だからどうせどんなにセキュリティー上げてロックかけたって突破されるのは時間の問題なんだよねーぇ」
カイトは無言でその続きを待った。ネコノタマは頬杖をつくと、
「でぇ、考えたんだけど、オニーサンの頭の中に新しい空間を作ってそこに二人を入れちゃえばいいんじゃないのぉ?」
それを聞いてカイトは言葉を失った。この街はシェルターにある巨大なコンピューターによって作られている。まさかその枠を飛び越え、自分の中に柏木燈真を匿うとは思ってもいなかった。確かにカイトにはそれだけのコンピュータが備わっていてそこに柏木燈真を移すことは可能だが、自分の中に他人がいるという状況は今までに体験したことがない。
「ねえ?すっごい発想でしょ」
聞いていたファイブが他人事のように言う。カイトは若干ひきつった表情でファイブを見ると、
「お前まさか、知ってたのか?」
そう聞いた。フェイブはばつが悪そうに頭をがりがりと掻きながら答える。
「うん、まあ。俺も最初に聞いた時はびっくりしたけど、その方法が一番確実なんだよね。破壊用プログラムを持っているカイト君にはバグも近づけないだろうし」
そう言われるとカイトも反対は出来なかった。もしバグが自分のコンピューターにまで侵入してしまったらどうするんだと思ったが、相手にそこまでの力があるのならもう他に打つ手は無いだろうし、ここは危険を冒してでも賭けてみる価値はあるだろう。
「好きにしろ」
ここまで来てしまったらどうにでもなれと、カイトはネコノタマの案を受け入れた。
「さっすがオニーサン、潔いねーぇ。じゃあ早速準備するよーん」
ネコノタマは楽しそうに言い、視線をパソコン画面へ戻した。カイトはこの街へ来てから何度目になるかも分からない溜息を吐き、準備が整うのを待った。
小さなランプの明かりしか点いていないほとんど暗闇の部屋で、テンは人形の様に動かず椅子に座っていた。ベッドを見ると、燈真は眠っているらしく静かだった。ベッドに入ってからなかなか眠れないのか、一時間位もぞもぞと動き回っていたのだが良かったとテンは少しほっとする。
今の所ホテルには自分達の他に気配は無く、バグの動きは無いようだ。テンはトウマの話相手として作られたキャラクターでしかないのでバグのような力は無く、相手の微弱電波を察知することくらいしか出来ない。自分にも力があればと散々悔やんで来たが、どうすることも出来ないとテンは下唇を噛んだ。
「やっほー、テンちゃーん。起きてるぅ?」
突然聞き覚えのある能天気な声が聞こえてきて、テンは驚いて声の方向を見る。するとテレビにネコノタマが映っていた。
「ネコノタマさんっ!?」
慌ててテレビに駆け寄ると、ベッドで燈真が寝返りをうつ気配がした。テンはテレビに向かって人さし指を立てると、
「今主が眠っているんです。すみませんがもう少し小さな声でお願いできますか?」
声を潜めてそう言った。
「うんわかったーぁ」
小さな声で返事をすると、なぜかネコノタマの背後にピンク色のハートがふわふわと浮き出てきた。一体何なのかと困惑して見ていると、
「くだらないことをしている暇があったらさっさと説明しろっ!」
姿は見えないが、カイトの怒った声が聞こえてきた。ネコノタマはうるさそうに後ろをちらりと見た後、
「あのねぇテンちゃん、今からバグが絶対そっちに入れないようにするからびっくりしないでねーぇ」
そう言った。一体何がびっくりするのか訳が分からなく、テンは詳しい説明を聞いた。
まず、カイトがアンドロイドであり、彼の力を借りて今こうやってテンと会話していること。
カイトのコンピューターの中にこのホテルと全く同じ部屋を作ってあり、今からそこにテンとトウマを転送すること。
部屋を出ればそのままホテルへと戻って来れるが、ネコノタマ達が迎えに行くまで絶対に出ないこと。




