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1 事の発端

初めて小説を投稿する者です。

経験も才能も無く、文章も未熟な部分が多いと思います。

それでも読んでくださった方、感想やご指摘などがありましたらコメントしてくれると嬉しいです。

※残酷な描写までとはいきませんが、一部暴力的なシーン(戦闘など)があります。

 事の発端は、一通のメールだった。


 仮初の街に生きる仮初の皆さまへ。

 ここに宣戦布告を致します。

『貴方達は間違っている』


 届いたメールの文章は、たったこれだけだった。誰からなのか、何処から送られてきたのかも分からない自己中心的で意味不明な内容。下らないイタズラだと相手にしないのが無難なところだが、生憎彼には確信に近い「嫌な予感」が脳裏を横切っていた。

「やだなぁオレ、こういうめんどくさいこと嫌いなんだよ」

 男は溜息混じりに呟くと、気だるそうに椅子の背もたれに寄りかかった。そのまま横目で隣をちらりと見ると、そこには一人の青年がパソコンに向かって淡々と作業をしている。

「レベル上がった?」

 男の問いかけに、青年は見向きもせず、

「そんなに気になるのなら自分でやれ」

「地味でコツコツした作業って嫌いなんだよね。ドカーンと一撃必殺でボス倒してスッキリしたいタイプ」

 男の身勝手な言動に、青年は返事もしなかった。代わりに小さく溜息をつく。

「そんでもってさっきのメールの件も頭脳明晰で優秀な誰かさんが全部解決してくれて、オレはただここで座って見てるだけがいいのに」

 これには流石に青年も作業の手を止め、男を睨みつけた。男は悪びれた様子も無く、頭をガリガリと掻きながら立ち上がると、

「はいはい分かってるよ。さっさとやればいいんでしょ。しっかし何十年ぶりの仕事だから、オレもかなり鈍ってる。その辺は大目に見てちゃんとフォローしてくれよ」

 そう言った。青年はやはり答えず、代わりにキーボードを素早く叩いた。彼のパソコンに映っているのはオンラインゲーム。中世ヨーロッパを思わせる街並みに、漆黒の鎧を纏った剣士が青年の操るキャラクターだ。剣士から白い吹き出しが出てきて、

「悪いが急用ができたからこれで終わる」

 と書かれていた。会話の相手は魔法使いの格好をした女性キャラクターで、

「分かった。それじゃあまたね」

 すぐに返事が返ってくる。

「じゃあまた」

 短くそう返してゲームを終了する。パソコンの電源を切り、真っ黒になった画面を見つめて青年は思う。

じゃあまた、とは打ったものの、本当にその日は来るのだろうかと。


 一方。

 パソコンの前で主婦、赤石華絵は盛大に溜息をついた。見ているのは最近人気のオンラインゲームで、ひとり残された自分の操作するキャラクター。つい先ほどまでパートナーがいたのだが、急用があると言って姿を消してしまった。

 さて、次はどうしようかと考えながら、手元に転がっているスナック菓子の袋に手を突っ込む。しかし中は空っぽで、また溜息をつく。

 何気なく壁にかけてある時計を見ると、針は午後の五時を指していた。ゲームを始めてしまえば時間の感覚など全く無くなってしまうのだが、ここで一気に現実に戻される。

 後二時間もすれば夫が仕事から帰って来る。後二時間で、つまらなくて大っ嫌いな現実が帰って来る。

「あー嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ・・・・・・」

 両手で頭を抱えて髪を掻きむしり、壊れたテープのように繰り返し言った。

 自分勝手と分かってはいるが、夫なんて一生帰って来なければいいのにと思う。いや、それ以前に自分がここにいたくない。このゲームの中に入ってキャラクターそのものになってしまいたい。それか消えて無くなりたい。こんな現実から消えてしまいたい・・・。

それが彼女の願いだった。


 華絵の家からさほど離れていない小学校の屋上では、ある一人の生徒が堂々と授業をサボっていた。

 小学三年生の羽井メアは、ノートパソコンを見ながらニヤニヤと一人で笑っていた。

 パソコン画面に映っているのはチャットで、ある人物の噂で盛り上がっている。

『三日前、突然停電があっただろ?あれバグの仕業なんだって』

『バグ?何それ。よく何かがバグったとかいうやつ?』

『ちげーよ。誰かの名前だ。多分。原因不明の停電が起きたり、そこらじゅうのサイトが同時に繋がらなくなったり、最近変なことが起きてるだろ?あれは全部そのバグってやつの仕業だって噂になってる。どうせ人が困ってるのを面白がるようなロクでもないハッカーだろ』

『でもさ、そういう事が起きてる時に、白っぽい怪しい人影を見たって噂が絶えないんだよね。しかも同じ時間帯に違う場所で何人もだよ?もはや人間業じゃないよね』

『バグ何人いるんだよ。人間業どころか人間ですらない』

『ただの都市伝説だって。こんなのいちいち本気にすんなよお前ら』

 顔も名前も知らない連中のそんな会話に、メアはますます笑顔になる。その笑顔はどこまでも無邪気で、ほんの僅かに狂気を孕んでいる。メアは小さな手でキーボードを叩いた。

『君達何にも分かってないね。バグはこの街に発生した歪みなんだよ。こうして無数のデーターが行き交う世界で起きた不具合、それがバグなんだ。バグはバグの役割を果たす。それはつまり最近起きている停電だったり、サイトが繋がらなくなったり、そういった不具合を起こすことなんだ。彼(彼女)に意思はなく、姿もない。だってバグはただの設計ミスなんだからね!』

 するとすぐに、

『・・・・は?』

『なんだこの中二病は』

『そういうことは自分の日記の中にだけにしておけ』

『だってバグはただの設計ミスなんだからねっ!(笑)』

 批判的な返答が次々と返ってくる。しかしそれに対してメアが機嫌を損ねた様子も無く、むしろ嬉しそうにしていた。

 メアは笑顔のまま、心の中で彼らに問う。

 じゃあ君達はこの現象をどう捉える?「ありえない」と片付けて、ただの偶然かイタズラで終わらせる?それでもいいさ、人の考え方は千差万別だからね。でもこの偶然はいつまで続くのかな?ずーっと続いて、しかもエスカレートしていったらどうなるんだろうね?その時が来たら君達の意見を聞かせてよ。その時君達は一体何に助けを求める?一体何を崇める?一体ボクを誰だと思う?

 そして口元をニヤリと歪め、

「だってボクが」

 その時だった。

『おまえはバグじゃない』

 たった一言、新たにそう書きこまれた。その後も「何?」「誰?」などと会話が続くが、メアにとってそんなこと、もうどうでもよかった。

 瞬時に笑顔が消え、大きな目が見開かれる。しかしすぐに目を細め無表情になると、メアはキーボードを叩く。

『君は一体何が言いたいの?勿論ボクはバグなんかじゃないよ?何か勘違いしていないかな?』

『してない』

 即答。その間、一秒もかからなかったと思う。

 メアの指先が止まる。口元が忌々しげに歪む。その間も相手からの反論は続く。

『お前は自分が特別だと思っている。自分だけが世界の異変を察知できていると。だがそれは違う。お前も所詮その他大勢の一人だ。普通でないものに憧れ、自分もそうなりたいと思ってるだけだ。自惚れも大概にしとけよ、ガキ』

「何だよお前っ!偉そうに!」

 チャット上ではなく、メアは自らの声でそう叫んだ。その後、怒りに目を血走らせ、抗議の文を叩きつけるが、相手からの返事は一切なかった。


 辺りに高層ビルの立ち並ぶ、マンションの一室。

 自称、ネコノタマは今日も家から一歩も出なかった。カーテンを閉め切った薄暗い部屋で頭から毛布をひっかぶり、パソコンの画面から溢れる光だけを浴びていた。

『ガキ?ガキは君の方なんじゃないの?ボクは自分なりの意見を述べただけであってボク自身がバグだなんて一言も言ってないよ?ボクが思うに、君こそがバグを異常に神聖視していて』

 途中でネコノタマはこのチャットを中断し、他を探すことに決めた。ここにバグはいない。ここにはバグになりすました、知ったかぶりの子供がいるだけだ。

 しかしネコノタマはこの子供に対して怒りや苛立ちを感じているわけではない。ネコノタマ自身も普通でないものに尋常ではないほど憧れ、常にそれを探し求めているからだ。

 ただ、少々イタズラが過ぎていると思い、親切心でそのプライドを木端微塵に砕いてやっただけだ。何のことはない。

 さあ、仕事にとりかかろう。

 ネコノタマは再びキーボードに両手を乗せ、果てのない情報の中を捜し回る。バグというキーワードだけを頼りに、彼は少しずつ確信に近づいていった。

 もう少しだ。もう少しで現実でないものの正体が分かる。自分だけがそれを知れる期待と快感で、ネコノタマは時間も忘れて作業に勤しんだ。

 それからどれ位時間が経っただろうか。突然毛布の中から空気の洩れるような笑い声が聞こえてきた。太陽が完全に沈んだ部屋は真っ暗で、ネコノタマの表情は窺えない。

 ネコノタマはついに確信を掴んだ。それは一般人では決して踏み入ることの出来ない場所だった。

 そこで見つけたのはたった一通のメール。

 それでもネコノタマにとっては十分すぎる確信だった。


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