また、会えたんだね
〇日がようやく訪れた。
K市でのKのLIVEの日だ。
車の免許を持たない佐和子はどうやって田舎のK市までいくか悩んだがなんとLIVE本番の日だというのに、Kが迎えに来てくれるという。
実に情に厚い一面を持つベーシストだ。
「おつおつ〜今日はありがとな!!」
「Kさんこそ!!すみません、お手間取らせてしまって。」
「なぁに。散歩道、散歩道。ほれ、助手席乗れよ。」
仕事の資料なのか何なのかわからないが、大量の紙束をドバっと後ろへ放り投げて、助手席をあける。
佐和子も素直に助手席へ乗った。
核心の部分を先に聞いてみたかったが、躊躇われた。
まずは、Kのスリーピースになったバンドを楽しむ事を優先させたい。
それがベーシスト同士の絆の証だ。
「スリーピース、どうですか?ボーカルさん、抜けたって聞きましたけど…。」
「今は誰がボーカルを?それともボーカルレスですか?」
「俺だよ俺!!ベースボーカルやってんの。声量なら誰にも負けねぇからな!!ガッハッハッ!!」
「そうなんですか!いやぁ、こう言っちゃアレですけど、似合いそうです(笑)」
「K市までの長いドライブで聞かしてやりてぇけど、本番まで我慢な!!」
「はい!!わたしもそれがいいです。」
「じゃあ、アニソンでも聞くか(笑)」
平成のアニメソングを流しながら突撃していくK号は、運転マナーこそ守るものの、なかなかに右往左往している。でも当の本人は気にも止めていない。
K自身の人生そのものを、車にしてもベースにしても落とし込めるのは、ある種の才能だと感じた。
「普段はバイクばっかり触ってるから、酔ったらスマン!!吐いてくれて構わんぞ(笑)」
「窓から吐きます(笑)」
「ガッハッハッ!!それでいい、それでいい!!佐和子ゲロまみれK号の洗車も、それはそれで楽しそうだ!!」
いつだってKはポジティブだ。
ネガティブな発言を聞いたことがないし、他人の批評なんか全く気にしない。
それは批評を貰うようなレベルのベーシストではないと同時に、1人コツコツとベーススキルを磨いてきた、職人のような風貌だった。
「着いたぜ。ここだ。」
「機材運ぶの手伝ってくれや!迎えに行った代わりに今日はうちのバンドのローディだ!(笑)」
「喜んで。ベーアン以外なら持てます!」
ずっしり重たい楽器の数々を運ぶ。
何でも前日に練習した際メンバー分の機材を積み込んでいたそうだ。
重たいマーシャルのアンプが腰と腕に負荷をかけるが、この痛みが心地いい。
ギターを持ち上げた時、もしかしてこれは、と思った。
しかし長年連れ添った愛着から、これはベースではないと察知した。
Kからの指示でどんどん運んでいく。
ベースはどこにも見当たらない。
「…あの、Kさん。ベースは…?」
「あぁ!それなら、真っ先に俺が運んだぜ?ん?何あったか??」
「あっ。いや。なにも。」
佐和子は微笑みつつ、
「Kさんにとっても、わたしにとっても大切なベースですからね。持って来てなきゃ大変、と思って。」
「ガッハッハッ!!おいおい、俺がそんなミスするかよ!!ベースを持たないベーシストなんて、刀を持たない侍でござる!!ぐはー!!」
本番前だと言うのにテンションは本番以上だった。
面白おかしく話を盛り上げてくれる。
Kとの会話は佐和子にこの上なく安らぎを与えてくれた。
「お疲れー。お、佐和子じゃん!久しぶり!」
「おーーー、佐和子ちゃん!今日見に来てくれたの!」
ギターとドラマーが到着して口々に再会を祝福してくれた。
K市のLIVEハウスはこぢんまりとしていた。
観客は佐和子以外に身内、例えばメンバーの奥さんだったり、主催者バンドだったり、LIVEハウスのオーナー夫人だったりだ。
出番が回ってくる前まで胸の鼓動を落ち着かせるように、携帯で他バンドの様子を動画に収めてはXで拡散する。届くはずもない人に、居場所を見つけて欲しい気持ちも、ほんの少しだけあった。
ついにKたちの出番だ。
暗転されたステージと黒幕のせいで、Kのベースははっきりとは見えなかったが、色だけは見えた。白だ。一気に鼓動が速くなる。
「やぁお集まりの皆様ー!!!」
「かましてやるぜ、ついてこいよー!!!」
テンション高々に数曲を披露するKの最前列を陣取った佐和子の頬には、意識と関係なく涙が伝う。
Kが持っていたのは、あの日交換したAのSGベースだったから。
それが蘇ってステージで音を鳴らしているのだから。
生きている。
彼は佐和子の中で、今この瞬間、生きている。
でも弾いているのはKでスラップを最小限にするAとは、音色がまるで違う。
しかし、そんなことは関係ない。
佐和子はまたひとつ、涙を零した。
「また、会えたんだね、わたしたち。」




