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これがわたし達なのだから

「どーもー、こんちはー!⛌⛌⛌でーす。」

と、Hがマイクの位置を確かめながら声高に叫ぶ。


「懐かしい顔ぶれで嬉しい限りです、本当にありがとう!」

佐和子も乗っかってMCをする。


ステージ上から見る仲間たちはソワソワとしており、この時間を楽しみにしてくれていたことが滲み出ている。嬉しい瞬間だった。


「えー、さっそくですけど、2曲連続で聴いてください、曲名は━━━」


1番手の熱量が冷めきらないうちに、連続で2曲のベースラインを弾き渡らせる。

呼応するHのアコースティックギターは優しくかき鳴らし、自信が伺えた。


ステージ上でのHはいつだって自信満々だ。いや、ステージを上る前でも後でも弱音を吐いたことは一度たりて無い。そんな心強い相棒だ。



普段は破天荒なくせに、なかなか覚えが悪い佐和子のために、曲に合わせてベースを弾いた動画をいきなり送ってくれたりした。無論、編集などはしてないので、風呂上がりであろう火照って赤らんだ顔にビールを一口飲むところから始まるが、ベースの指板がはっきり見えるよう角度を調整しながら動画に残す。不器用な彼なりの優しさだった。そんな優しさが今度はステージ上で感じられた。



目線こそ合わさないものの、何をして欲しいか、どんなアレンジが欲しいのか、佐和子には手に取るように分かる。それはベーシストとしての成長というより、Hとの積み上げてきた信頼が大きく出ていた。


2曲目で、件の魚が恋する歌を披露した。

AやHの地元の名産の魚がクジラに負けないで泳ぎ恋をし、人間にとって俺らは食べると美味いらしいがそんなの関係ない。波を自由に踊るのさと言った曲だ。実にHらしく曲調もキャッチーだ。1番と2番でベースのアレンジも入れて、阿吽の呼吸で間を取る。少しギャグっぽさも付け加えられており歌詞は方言丸出しだから、伝わりにくいだろうが、客はHの綺麗な歌声に惚れ惚れしているようだった。畳み込むようにギターを鳴らし、佐和子はリズムキープしながらグルーヴを出していった。



2曲が終わるとパチパチパチと拍手に埋もれる。

最前列のバンギャちゃんは「佐和子ー!ワガママ大魔王ー!」と大声で小柄な体をぴょんぴょん跳ねさせて喜んでいる。


スラップ師匠Kも負けていない。アコースティックスタイルだから暴れられるものもないのに、でんと真ん中を陣取りクネクネと独特にリズムを取りながら楽しんでいた。終わったあと、佐和子の前バンド名を言いかけて訂正しつつ激励の投げかけをするのは実にKらしい一面だ。


大御所ボーカリスト達はパンパンに人が入っているフロアには入らず、全体像がはっきり分かる階段に身を寄せていた。じっくりと観察している様は科学者のようであり、その眼差しは真剣極まりない。



拳をあげたりツーステップを踏む者こそいなかったが、各々静かに盛り上がっているのがわかる。

このLIVEは間違いなく成功だ。

佐和子はその確信を胸に、一音一音を客席へと放っていた。



その顔には不穏な様子は何一つない。

大事な仲間たちがいるのだから。

格好悪いことなどない。

これがわたし達なのだから。



「あざーっす!あざーっす!」

「次もいい曲なんで、楽しんでって下さい。」

「最後のオリジナルソングです。」

「ニコ。」


佐和子にとっても特別思い入れがある曲だった。

弾きやすいという理由もあるが、それ以上に「聞いて欲しい」という気持ちを自然に乗せられる曲だった。



ヘイ ニコ

こっちへおいでよ

もっと もっと もっと


ヘイ ニコ

もう君なしじゃ

生きていけないよ



ありふれた歌詞だったが、Hの作曲技術で一気に会場の縦ノリが大きいものとなる。

アコースティックがなんだ。

ドラマーがいないからなんだ。

わたし達こんなに輝いてるんだぞと佐和子は自分を鼓舞しながら、客席へと笑顔を向ける。

横のHをチラ見すると、顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んでいる。

これぞパンクスと言わんばかりに。

優しいパンクがここには確かに存在した。



曲の終盤、佐和子の茶目っ気がでた。

ベンベンベンベーン…とベースを弾いて客席が曲に浸ってる中、ゆっくりと、


「ニコチンの曲です。」


と、ボケてみた。客席からはどっと笑いが込み上げ、Hはマイクを通さず「違う!違います!」と笑っている。満更でも無さそうだし、普段のお返しよと心で微笑んだ。


「えー、相方がいらんこというて、すんません(笑)」

「次はなんと!B´zをやります!」


客は一層盛り上げを見せる。アコースティックのB´zとなれば数曲思い浮かぶ人も居るだろうが、果たして何を?


トゥルントゥルンと初めのリフでほぼ全員が気付いた。佐和子もその瞬間初めてする試みをした。「今夜月の見える丘に」だ。

ドゥーンドゥーンドゥーンドゥドゥドゥドゥンと口でベースを弾いたのだった。

これまたウケた。客席は慌てて携帯で残そうとする人が続出した。次の稲葉氏の「例えば〜」をHは弾き語りでマイペースに歌い上げる。B´zコピーバンド主催なのでB´zファンが多く集まる中、リスペクトも込めつつ、自分たちにしかできない即興をやり抜いてやると、今夜の出来に取り憑かれていた。


サビ前のシェーンのドラムは佐和子が大声でマイク越しに、

「カッ」っと言って表現する。ここでまた大爆笑が生まれた。

サビは客も巻き込み、H、佐和子、客席の大勢で大合唱だ。


「〜寝ないよ〜!!!!」

シャラララーン。終わった瞬間には客席がギュウギュウ詰めになっていた。

こんな景色をまた見れるとは思わなかった。



「きゃーーー!!ウケる!!!かっこいいーー!!」

バンギャちゃんの声は透き通っていて小柄な割に大声だし最前列なので佐和子やHの耳にもすぐ届く。


「ガッハッハッ!!いいぞ、もっとやれー!!!」

Kは真ん中辺りで人の混雑に埋もれてしまいそうになりながらもどデカい声はちゃんと届いていた。


客席の声も届いていた。Hや佐和子の思いもまた、客席に届いていた。


終わってから真っ先に反応をくれたのは、大御所ボーカリスト達だった。

わざわざ向こうから近寄ってくれてこう告げる。

「格好良かった。良いLIVEをありがとう。」

泣けてくるほど嬉しかった。

「こちらこそ、ありがとうございます!」

「ただね、思いを伝えるにはやはり立って客席を見ないとだね……」

「君たちの熱意があるからこそ……」

「もっとあの箇所をこうしたら……」

真摯にアドバイスを貰って、チケットノルマの計算をした。


主催のB´zコピーバンドとも古巣の仲で、一番喜んでくれた。強い握手を交わし、見に来てくれた観客全てが大盛り上がりだ。



嬉しかった。

楽しかった。


LIVEを単純に楽しめたのは、いつ振りだろうか。

そんな余韻に浸りつつ、張り切ったせいなのと遠征の疲れでそっと眠りに落ちた。


いい夜だった。特別な青春の1ページだ。

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