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何とかなるって

初LIVEが決まってからというもの、練習には尚更精が出た。特に今までの4人体制で仲間内に守られたLIVEとは違って2人きりのアコースティックバンドだし、したことがないことが多すぎて佐和子は不安に押しつぶされそうになる。

一方Hは長年ひとりでやってきた度胸から気楽なもので、スタジオ練習では必ず缶ビールを飲んでいたし曲のニュアンスの伝え方も相変わらず雑であった。口癖のように「何とかなるって」という言葉が佐和子自身の救いになっていた。


福岡県F市でのLIVE経験自体、佐和子にとっては初体験であった。長崎のバンドシーンの濃さと違って福岡はしれっとしたところがある。あくまで技術主義というか、平たく言えば観客を乗せにくい。バンドマン人口も多いため、失敗が次のライブオファーへの隔たりになる可能性もある。捨てられる直前の子猫のような気分を必死に練習で誤魔化した。上手く弾けなくてもダサくあることが佐和子は、Hは許さない。美学に反する。それが一番「ダサい」事であった。


初LIVE当日、相変わらず缶ビール片手にリハに臨んだ。

Hに緊張の色はまるで無い。強がっている様子も無い。一方佐和子だって数々のLIVEをこなして来たんだ。それなりに度胸はあるはずだったが、福岡県と長崎県の客層の違いに大いに不安感を覚えていた。


「おい。」

ふいにHが佐和子に話しかける。

「何?」

「お前、緊張しすぎ。酒が足りねぇんだよ。こっち来い。」


言葉のままバーカウンターに向かう。

バーカンの店員さんにHはテキーラを2ショット注文した。

片方をぐいっと佐和子に押し当て飲めという。

くいっと二人してショットを入れた時は不思議と緊張感の張り詰めて絡んだ糸が緩んだ気がした。


「これで大丈夫だ。俺がいるんだよ。だから大丈夫なんだよ。」


いざ出番となる。

初めて聞くバンド名に訝しげに眺めるものが殆どだったが、H含め佐和子も気持ちは「負けない」一心だった。客が99人ブーイングしても構わない。それでこそパンクロックだろ?と片割れは言うだろう。

「聞いてください、ニコ。」

ユニークな曲名と爽やかな歌声。破天荒ワガママ大魔王の顔などない。そこにあるのは覚悟が決まったロックンローラーの顔だった。呼応して佐和子もあくまで素に近い音で控えめにベースで基盤を作っていく。

「えー、次の曲は地元を歌った曲です。聞いてください。」

MCでは佐和子にマイクが回ってくることはなく、淡々と繋いでいた。曲1本だけで勝負したい。そんな覚悟を感じるLIVEであった。

疎らに客は募り、中にはアルコールの力を借りているのだろう、小刻みにリズムを取り出す者もいた。

座りながら楽譜を眺めて弾いているから、今までみたいな「勢い」だけで乗り切るLIVEとはわけが違った。こんな重圧に耐えてきたのか。Hへの友情と呼吸はさらに深いものへ変わっていく。


ベースを奏でる右手はあくまで緩やかに、Hの美学を壊さないよう意識した。爽やかな声に馴染む音に近づけたくて、優しく弦をはじく。サビ前の部分だけギターのリズムに合わせてグリスを入れここが山場だと言わんばかりに首を縦に振りながら、渾身の一音を連ねる。ラストのサビでHと目線をあわせた。悔いなくやれよと言われた気がして、スタジオ練習よりもグルーヴが光る。二人にしか出せない空気。それを見てる全員に真っ向からぶつけた。


全曲が終わり出来はまずまずといったところだった。

ブッキングしてくれたLIVEハウスのオーナーは次も出て欲しいといいつつも、出来ればバンドサウンドが良いのだけれどと些か苦笑気味にドラマーがいないという核を着いてきた。

いいドラマーが居たら是非紹介して欲しいと告げ、他のバンドの演奏を楽しんだ。レベルが桁違いだ。やはり、都心になればなるほど洗礼されている。しかし、今までの荒削りだろうが愛されてきたバンド経験者の佐和子はそのギャップに苛まれつつも、染まりたくはないという軸があった。Hとなら、この男となら伝説を作れる。本気でそう思ったからだ。


打ち上げの合間で録画した動画を確認して次への課題点を口にこそださなかったが、各々に確認しあった。

特にベースが冴える曲の一部を活動休止LIVEにも来てくれたスラップ師匠のKへ送った。返信がくる。


「お前まだベース辞めてなかったのかよ!」

「またLIVEする時は教えてくれ。」

「応援に行くからよ。」


嬉しかった。タイムマシーンで過去に戻って、パラレルワールドで現実を生きている気分だった。


帰り道またもやLIVEオファーが来た。

奇しくも前バンドで活動休止した長崎県S市でのLIVEブッキングだった。

一瞬躊躇われた。変わったと客が離れないか。見損なったと嫌われないか。なんか違うと違和感を覚えられないか。

しかしHに告げると答えはあっけらかんと即答だった。


「やったじゃねぇか。原点復帰という訳だ。」

「いくぞS市。」

「何怖気付いてんだよ、言っただろ。」

「俺は天才なんだよ。」


あまりに自意識過剰なのに笑ってしまった。

LIVEオファーにはすぐに出ますと返信をした。

S市なら昔の仲間も集客しやすい。

福岡県F市の飲み屋で知り合った夫婦すら来てくれると言う。

昔の仲間は口々に是非行きたいと言ってくれ、応援を口にした。


わたしはいい仲間を持った。


負けない。


自分自身に。

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