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金箔のドラセナ

立ち入らなくなった〇〇に取り残された荷物を取りに行くことすら面倒に思えてきた。

貴重品は置いてないし、最後の給与も別にどうだっていい。

不眠が続く日々で気づけば都心部独特の朝を迎えていた。

H区は朝まで飲んだくれで溢れており、カラスの鳴き声、酔っ払いの罵声、絶えぬ人の群れ。コンクリートジャングルに挟まれている。

少しでも癒しを求めて散歩がてら花屋へ向かった。

店外スペースを見渡してみると、一際目立つ一角を見つけた。

手のひらサイズのドラセナの、丸みを帯びた葉っぱに金箔が飾り付けられている。

何となく可愛らしかったのでひとつ手に取り中へ入っていった。


「これ、ください。」

「…はい、これね。」


無愛想な店員は安物一つ買っていく佐和子に愛嬌を振りまかない。そういう気分だったのか、素だったのかは定かではないが、少なくともコミュニケーション能力はあまり高くなさそうだ。


梱包してもらってる間に店内を眺めた。

切り花スペースには、バラや胡蝶蘭、デルフィニウムといった華やかな花々が飾られている。

花束でも買って生けようかなとぼーっとしていると無愛想な店員は、


「あっ。言っておくけど、この木は金箔を載せてるだけだからね。」

「金の葉っぱは生えてこないから。」


と、当たり前のことをぶっきらぼうに告げた。

植物の種類には明るいとも明るくないとも言える佐和子であったが、明らかな人工物だと分かっていたのでそれくらいわかるのに、と少しむっとする。


「…どうもありがとうございます。」

切り花は他所で買おう思いドラセナを抱え込んで帰宅した。置き場所に悩んだが、季節に応じて変えれば良いと思い、とりあえず日光を浴びるベランダに置くこととした。


「寒い時はキッチンにいれてあげるからね。」

家族が増えたようなきがした。

永遠の命じゃないからこそ、大切に育てたいと思いつつ。


Hに連絡を取ったのはちょうどその日から2日後だった。

気まぐれな彼は電話に出て5時間も話す日があれば1週間音沙汰無しもザラにある。

今回は「ちょっと話し込んでもよかろう。」テンションだったらしい。


「どしたん?俺曲作りで忙しんじゃ、ボケ。」

「まぁ話聞いてよ。」

「2秒なら聞いてやらんこともない。」

「そんな短時間で話せるか(笑)」


言葉こそ汚いが結局2時間は電話に付き合ってくれた。確信の部分や夜職が辛いことは頭から抜けて、ひと時の癒しとなっていた。


「まぁそんなこんなで週末飲もうよ。」

「おう。考えとく。」

「でた、ご自慢の考えとく攻撃。」

「俺が生きてたらな。」


この生きてたらな、は彼の口癖だ。天才は27歳で死ぬと疑わなかったくせに、30を超えたあたりから、「金持ちのマダムの愛人になる。」に口癖変更となった。ぐちゃぐちゃといいつつもちゃんと約束日取りで飲み会は開催された。


博多駅で待ち合わせしていて着いたとだけ連絡がきたので、どっち?博多口?筑紫口?と尋ねても、俺のオーラで気づけとの一点張りだ。

大勢の人の行き来の中、埒が明かないので電話をかける。


「ねぇ、マジでどこいるの?」

「とりあえずその場で踊って。」

「無茶言うな。恥ずかしすぎるでしょ。」

「ったくお前はパンクじゃねぇなぁ。」


独自のパンク論を生き生きと話してる最中、こっちはHを見つけるために躍起になっていた。どこにも見当たらない。彼はカメレオンか何かなのか?


「しゃーねぇなぁ。筑紫口だよ、筑紫口。」

「もう、今博多口だわ。今から向かう。」

「気が変わる前に走ってこいよ。あとは踊るだけだ。」

「何で踊ることが前提なのよ…。」


筑紫口に来ても尚Hは溶け込む能力に長けすぎており、中々見つからなかったがついに発見した。お馴染みのギターストラップをポーチに改造したバッグを持って、足元はドクターマーチンで。


「お前、遅すぎ。俺を誰だと思ってんだ。あと3秒遅かったら帰ってたわ。」

「無茶なことばっかり…。」

「いいから早く行くぞ。あーぁ喉がカラカラだ。ビール飲みてぇ。」


自由奔放なHに振り回されているが、自然と悪い気分では無い。むしろ楽しんでいた。適当な居酒屋を発掘し初めての店でも堂々と入っていくのは、1人で弾き語りを長年してきた度胸があるからなのだろう。


居酒屋に行き、スナックへ行き、色んな動画を見せられては、こんなバンドがやりたいだのこのバンドがかっこいいだのと聞いていた。なるほど、確かにセンスが良く選曲のバランスもポップからパンクまで幅広い。ファッションは完全にパンク寄りだが、彼は彼なりのパンク論があって、かつスローテンポであったりポピュラーミュージックへの関心から、初めて見たあの風貌と曲調のいい意味での不協和音の謎が解けた気がした。


二人してアルコールをガバガバ飲んだ。

これだけ破天荒な癖に、「女に財布出させる男なんてカッコわりいんだよ。」と言わんばかりに頑なにお金は受け取ってくれない。根は優しくていいヤツなのだ。まぁ自分勝手で人のことを疲弊させる能力と天秤にかけたら神様も悩むところだと思うが。


帰り道、話したいことがあるというと、何だよとこちらを見ずに答えた。


「あのさ、バンドやらない?」

「あんたのギタボ、かっこいいんだよね。」

「作曲センスもあるし。」

「伝説作りたいのよ。」


数秒の沈黙がやけに長く感じた。

遂にHの返答があった。


「いいよ。」


嬉しくて笑みが零れた。


「本当?」


「あぁ。ただだせぇ事したら即クビだ。」

「それはお互い様。」

「俺は生まれてこの方、ダサかった瞬間などない。天才だし。」

「あんたのその自信って何処からくるのかしらね…。」

「知らん。俺が俺だからだ。」


帰ってドラセナに話しかける。

新しい仲間が出来たこと、最近の夜職であったこと、楽しみと期待でワクワクしてること。


そうしてるうちにHからLINEがはいった。


「今日はありがとな。あとバンド誘ってくれたことも。」

金ピカのドラセナが早速幸福を運んできた。

たとえ雨で金ピカじゃなくなっても、ドラセナはドラセナなのだ。

ベースを持つ限りベーシストであるかのごとく。

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