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家族が増える日

作者: まる。
掲載日:2026/02/10

2月の初旬の早朝。

久しぶりに降った雪が記録的な大雪となり、雪に耐性のないこの地域はちょっとしたパニックに陥っていた。

なんの前触れもなく降り出した雪は次第に粒が大きくなり、窓から見えるこの景色を真っ白く染め上げていった。

冬タイヤの装備をする概念もない様な温暖な地域の為、当然雪道での運転にも慣れていない。

ノーマルタイヤでは凍結を始めた路面の前では無力に等しく、コントロールを失った車達が彼方此方でスリップ事故を起こしていた。

世間が混沌とした雰囲気のなか、私は出産を間近に控え入院をしていた。

自宅のある場所から30分程離れた距離にある隣の市にある病院にいる。

とても評判のいい病院で、友人の何人かもこの病院で出産をしている為、私もここで産むことを希望したのだ。

夫は仕事終わりに病院に寄ってくれている。

夫の職場から病院まではとても遠く大変だというのに、初の出産でナーバスになっている自分を励ましに来てくれる。

とても優しくて暖かい夫だ。

不安で押し潰されそうな気持ちにもなるが、同時にこの人の子供を産めることに深い喜びも感じている。

もうすぐ家族が増えるのだ。

雪が降り出したのとほぼ同時くらいだろうか、陣痛が始まった。

鈍い痛みの波が交互に襲ってくる。

よりによって、こんな大雪と出産が被ることになるなんて。

身体に痛みを刻み、目には窓から見える雪景色を焼き付ける。

これも出産のいい思い出になっていくのだろう。

夫に陣痛が始まったことを連絡する。

仕事を早めに切り上げ来てくれると言った。

早く夫の顔を見て落ち着きたかった。

痛みの感覚が短くなり、出産の時間が近づいてきた頃には周囲は暗く闇が出迎えに来ていた。

相変わらず雪は降り続いているが、街の灯りと相まって幻想的な表情を見せている。

一瞬目の前の風景にふっと気が和らぐが、これからの出産の事、そしてまだ病院に着かない夫が気掛かりで不安に押し潰されそうになる。

これから母親になるんだ。元気な子を産み、夫と三人で幸せな生活が待っているのだ。

そう心に強く気を持ち、一人分娩室へと向かった。

分娩室へと向かう道すがら、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

この病院に来るのだろうか。

何故だか嫌な予感がした。

私の予感はよく当たるのだ。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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