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早坂さんの夕食

作者: 変汁


私こと早坂朱莉(はやさかあかり)9歳は育ち盛り故、女の子にして大食の部類に入る。それがわかったのは夏休みに行った親戚の家で頂いた夕食での事だった。私はその親戚の家族全員が嫌いだった。でもお父さんのお姉さん、つまり叔母さんだから我慢して家族旅行に付き合った。


私の意見が通るなら、貴重な夏休みを無駄にしてまっこんな田舎になんて絶対に来なかった。


「お魚もお肉も東京とは比べ物にならないくらい美味しいんだぞ?」


食べる事が大好きな私からしたらお父さんのその言葉反則技だった。そんな風に言われたら行かない訳にはいかないよ。と数年前に思ったが、いざ行ってみたら、言うほどのお魚やお肉を食べさせてくれもせず、近所の安いスーパーで半額セールになった少し傷んだ魚や肉が夜の食卓を飾った。買い物に付き合った私からしたら、お腹は空けども食欲度で言えば65%位のものだった。


叔母さんの味付けも濃すぎてしょっぱいし、こんな物を食べるくらいなら、お母さんの手料理の方が数倍はマシだ。私のリクエストで朝食だけは上手に作れるようになったけど、基本、あの人は


[茹でる、焼く、炒める]しか出来ない人なのだ。パスタに豚肉に野菜。これが早坂家の夕飯のルーティンだった。とても手料理とは言えない夕食だけどお父さんは毎晩早く帰って来てはお母さんに「夕飯は何かな?」と浮かれながらお母さんに聞く姿はもはや典型的な貧乏人に姿だった。


それに美味しい食べ物ならお金さえ払えば地方の田舎に負けないものを頂く事が出来る。

なのに叔母さんは、「東京じゃこんなに新鮮で美味しいお刺身は食べられないわよ」


とお父さんに話すが私はお刺身が傷み初めてきている事と半額セール品だというのを知っていたが、口には出さなかった。


叔母さんの息子は私より2つ年上で3段腹のデブで嫌な奴だった。頭も悪く、2つ下の私に夏休みの宿題を手伝ってもらうくらい馬鹿だった。おまけに夜は未だに叔母さんと一緒に寝ている。それを恥ずかしい事だと2人は思っていないから、かなり頭のイタイ親戚だという事がわかって貰えると思う。


私はそんなデブの親戚に私の分の刺身を少し分け与えた。


「朱莉ちゃんどうしたの?前は健太郎よりも食べてたのに。女の子になって来たのかしら?」


叔母は口の横にご飯粒をつけながら言った。


私は照れるフリをしながら、「最近は前みたいにたべなくなったの」


と返したが、分け与えた理由は刺身に寄生虫が2匹もいたから、そいつにあげただけだった。


馬鹿な健太郎なら気づかず食べるだろうし、気に食わないのは健太郎という名前だった。叔母さんが坂口健太郎が好きだから、そこから名前を取ったと自慢げに言っていたのを私は知っていた。


そして私は坂口健太郎が初恋の人で今も愛している。なのに私の横には坂口健太郎ではなく、バカでデブな親戚の健太郎がいて、それも「おかわり!」などと大きな声でいうものだから、頭に来たのだ。私だって4杯はおかわりをしたい。けど、わざわざ夏休みを使って親戚が来たというのに初日から半額セールの寄生虫付きの刺身を買うような人の子供には天罰が下るべきなのだ。


明日はすき焼きだねーと叔母さんは言っていたけれど買ったお肉だって豚だし。そんな歓迎されていない感じなら私だって良い子にしていられる筈がなかった。


健太郎は寄生虫付きのお刺身を2切れ美味いといいながら頬張った。私は良かったねと返した。


健太郎が腹痛を起こし救急車で運ばれたのは夕食後、2時間もしない頃だった。脂汗をかいた健太郎はまるで店頭で串刺しにされているケバブのようだった。


皆んな救急車に運び込まれる健太郎を心痛な面持ちで、見送る中、私は静かにその場から離れて叔母さんのバックから財布を取り出し2000円を抜き取りそれを隠し持った。


「保険証と財布は持ったのか?」


叔父さんが言うと動揺していたのだろう


「持ったわよ!」


と手ぶらで言うのをみてお父さんが慌ててバックを取りに行ってあげた。


救急車が走り出すと叔父さんとお父さんの2人が車に乗って救急車の後を追うように出ていった。


「健太郎くん大丈夫かしら」


「ただの食べすぎだよ。だから大丈夫じゃない?」


「まぁ。確かに食べ過ぎよね。でも普段の朱莉の方がもっと食べるじゃない?」


「そうだね」


「でめ今夜はどうしたの?おかわりもしなかったし。具合でも悪いの?」


「ううん。ただ叔母さんの料理が不味かったから」


「不味かったって食べたのはお刺身じゃない?」


「そうだけど、きっと叔母さんはお母さんみたいに料理が上手じゃないんだよ。お母さんみたいに料理上手な人は例えお刺身だったとしても、きっと普通よりは美味しく感じるんだと思うな」


「まぁ。この子ったら」


私のお世辞に満更でも無さそうなお母さんだった。


このように人と比べて貴女の方が上だと言えば、人間少しはマシになり、料理も頑張り出すっていうものだ。


私は早く東京に戻ってお母さんの夕食を食べてみたいと思った。そう思えたのも腹痛を起こしたバカな健太郎のお陰だ。


健太郎ありがとう。おばさん2000円ありがとう。後でコンビニに行って色々買わせて貰うね。



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