監視者たち(ウォッチャーズ)
【SYSTEM:ログイン可能回数 残り:0】
その表示は、冷たく、非情だった。
俺のやり直しは——もう、できない。
だが目の前の男は、余裕の笑みを浮かべたまま俺を見下ろしていた。
椿は小さく肩を震わせ、俺の背に隠れている。
「さて、ゲームオーバーかな? それとも……ここからが“本番”か?」
マスクの男はそう言って、ポケットから黒い端末を取り出す。
それはまるで、スマホのようだが、画面に表示されたUIは俺の見たことのない構造だった。
【対象ログ:02-α・03-β・05-Ω……アクセス完了】
「何をしてる……?」
「バックアップの確認だよ。この世界は“保存と再起動”を繰り返す。まるでゲームのようにな。君たちは、その実験体に過ぎない」
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男の言葉は、俺の思考を凍らせた。
「……どういう意味だ」
「その力、“ログイン”は君たちに与えられたんじゃない。インストールされたんだ。——この世界にアクセスできる人間を選んで、観察する。君たちは、我々《監視者》によって“選ばれたログ者”に過ぎない」
椿が震えながら問う。
「じゃあ……私たちは、“現実”に生きてるんじゃないの……?」
男は静かに、そして冷酷に言い放つ。
「君たちがいるのは、仮想観察環境 No.4《サンドフィールド》。人間の行動原理と感情を観測・記録するための閉鎖環境。ループは、データ収集のために設計された“制御因子”さ」
——信じられない。
——でも、確かに合点は行く。
俺たちが生きている「この日」は、何度も、何通りも再現されていた。
殺され方が違う、犯人が変わる、記憶だけが残る——それは“確定された運命”ではなく、シナリオの分岐を観察するためのテストデータだったというのか?
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「なぜ俺たちに話す……? 正体を明かす理由は?」
「君たちがログ回数を使い果たしたからだよ。つまり——“観察対象”から“実験協力者”に昇格するタイミングが来た」
その言葉とともに、彼の背後に光の扉が現れる。まるで、どこか別の世界と接続されたゲートのように。
「選べ、シオン。君の知性と記憶は、このループ世界でも十分価値を示した。我々のプロトコルに参加するか、ここで消去されるか——」
椿が俺の手を握る。強く、震えていた。
「……行っちゃダメ。そんなの、全部ウソかもしれない」
「でも、椿……」
彼女は目を見開いて、俺を見つめた。
「私、まだ——“見てない結末”があると思うの。誰にも操作されない、誰も死なない、ほんとのエンディングが」
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沈黙の中で、俺は答えを出した。
「……悪いな。俺は、まだここでやるべきことがある」
「そうか。なら——次のループでまた会おう。いや、“できれば”の話だがな」
男が指を鳴らすと、視界が真っ白に染まった。
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【SYSTEM:非公式リカバリーモード 起動】
【残存ログファイル:03-β / 04-χ / 椿:個別記録ファイルあり】
気がつくと、俺は再び、ベッドの上にいた。だが、時間は4月4日 午前7時。
——ついに、“次の日”が始まった。






