表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

監視者たち(ウォッチャーズ)



 【SYSTEM:ログイン可能回数 残り:0】

 その表示は、冷たく、非情だった。

 俺のやり直しは——もう、できない。


 だが目の前の男は、余裕の笑みを浮かべたまま俺を見下ろしていた。

 椿は小さく肩を震わせ、俺の背に隠れている。


 「さて、ゲームオーバーかな? それとも……ここからが“本番”か?」


 マスクの男はそう言って、ポケットから黒い端末を取り出す。

 それはまるで、スマホのようだが、画面に表示されたUIは俺の見たことのない構造だった。


 【対象ログ:02-α・03-β・05-Ω……アクセス完了】


 「何をしてる……?」


 「バックアップの確認だよ。この世界は“保存と再起動”を繰り返す。まるでゲームのようにな。君たちは、その実験体に過ぎない」



---


 男の言葉は、俺の思考を凍らせた。


 「……どういう意味だ」


 「その力、“ログイン”は君たちに与えられたんじゃない。インストールされたんだ。——この世界にアクセスできる人間を選んで、観察する。君たちは、我々《監視者ウォッチャーズ》によって“選ばれたログロガー”に過ぎない」


 椿が震えながら問う。


 「じゃあ……私たちは、“現実”に生きてるんじゃないの……?」


 男は静かに、そして冷酷に言い放つ。


 「君たちがいるのは、仮想観察環境 No.4《サンドフィールド》。人間の行動原理と感情を観測・記録するための閉鎖環境。ループは、データ収集のために設計された“制御因子”さ」


 ——信じられない。

 ——でも、確かに合点は行く。


 俺たちが生きている「この日」は、何度も、何通りも再現されていた。

 殺され方が違う、犯人が変わる、記憶だけが残る——それは“確定された運命”ではなく、シナリオの分岐を観察するためのテストデータだったというのか?



---


 「なぜ俺たちに話す……? 正体を明かす理由は?」


 「君たちがログ回数を使い果たしたからだよ。つまり——“観察対象”から“実験協力者”に昇格するタイミングが来た」


 その言葉とともに、彼の背後に光の扉が現れる。まるで、どこか別の世界と接続されたゲートのように。


 「選べ、シオン。君の知性と記憶は、このループ世界でも十分価値を示した。我々のプロトコルに参加するか、ここで消去されるか——」


 椿が俺の手を握る。強く、震えていた。


 「……行っちゃダメ。そんなの、全部ウソかもしれない」


 「でも、椿……」


 彼女は目を見開いて、俺を見つめた。


 「私、まだ——“見てない結末”があると思うの。誰にも操作されない、誰も死なない、ほんとのエンディングが」



---


 沈黙の中で、俺は答えを出した。


 「……悪いな。俺は、まだここでやるべきことがある」


 「そうか。なら——次のループでまた会おう。いや、“できれば”の話だがな」


 男が指を鳴らすと、視界が真っ白に染まった。



---


【SYSTEM:非公式リカバリーモード 起動】


【残存ログファイル:03-β / 04-χ / 椿:個別記録ファイルあり】


 気がつくと、俺は再び、ベッドの上にいた。だが、時間は4月4日 午前7時。


 ——ついに、“次の日”が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ