再起動(リブート)
——4月3日 午前7時00分。
再び、目覚める。
冷たい汗が背中を伝う。心臓の鼓動がやけにうるさい。だが、俺はもう知っている。
この日、椿は殺される。
そして今度は、俺が刺された。
「クソ……!」
拳を握りしめる。
俺はまだ“この日”に閉じ込められている。
ログインは2回目。残り1回になった。失敗は許されない。
だが今の俺は、一歩先を知っている。
【椿を狙っていた人物がいた】
【朝比奈トオルが怪しい動きをしていた】
【紙袋の中には凶器や薬品のような物が入っていた】
でも、決定的な証拠も、犯人の正体も、まだ見えていない。
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登校の途中、俺は学校の裏門ではなく、正門から入った。
教室に着くと、椿はまだ来ていない。代わりに——トオルがいた。
「お、シオン。今日早いな」
「……ああ、お前も」
できるだけ自然に答える。だが内心は警戒している。
「何か変わったことはなかったか?」そう聞きたかったが、それはまだ早い。
「なあ、椿のこと、最近どう思う?」
唐突にそう尋ねられて、思わず目を見た。
トオルの目は笑っていた。でも、その奥に何か別の色が見えた気がした。
「別に……どうってことない。友達だよ」
「そっか……」
短く答えると、彼は立ち上がって出て行った。
この瞬間、背中にゾクリと冷たいものが走った。
——やはり、トオルには“何か”がある。
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昼休み。
俺は人気のない階段の踊り場で、椿を呼び止めた。
「ちょっと話せるか?」
「うん? どうしたの?」
「……誰かに、最近、何か変なこと言われたとか、物をもらったとか、ないか?」
「え……?」
椿の表情が曇る。図星だった。
「……朝比奈くんに、『今日の放課後、教室で待ってて』って言われたの。なんか参考書を貸してくれるって」
「それ、断ってくれ。絶対に、教室には戻るな」
「え、なんで?」
戸惑う彼女を前に、真実を語るわけにはいかない。だが、危険からは守りたい。
「信じてほしい。何かよくないことが起きる。だから今日だけは、別の場所で時間を潰してくれ。頼む」
しばらくの沈黙のあと、椿は小さくうなずいた。
「わかった。でも、ちゃんと理由教えてよ。あとででいいから」
「……ありがとう」
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放課後、俺は一人、教室に残った。
16時10分。
トオルがやって来る。予定通り、紙袋を手にしている。
「よう、来てたんだ」
「椿なら来ない。俺が代わりに来た」
その瞬間、トオルの顔が固まった。
「……なんだよ、それ。ストーカー?」
「お前が、何をしようとしてたかはもう知ってる。紙袋を開けてみろよ。中身は——参考書じゃない」
トオルの目が細くなる。口元に笑みが浮かぶ。
「チッ……バレちまったか」
彼は紙袋を教室の奥に放り投げた。
そしてポケットから、小さなナイフを取り出す。
「どうして……椿を?」
「別に、殺したかったわけじゃない。ただ、ちょっと……試したかっただけさ。アイツが“本物”かどうか」
意味がわからなかった。何を言っている?
「アイツ……“知ってる”んだよ、シオン。お前と同じことを」
「……何?」
トオルがナイフを振りかざした瞬間、俺は机を蹴って距離を取る。
その手元が一瞬緩んだ隙に、俺は椅子を投げつけた。
「ぐっ……!」
ナイフが床に転がる。俺はそれを踏みつけ、トオルを押さえつけた。
「終わりだ、トオル……!」
「……へへ。甘いな、シオン」
その言葉とともに、彼の首元からペンダントのような装置が現れた。
ボタンが押される。
——【SYSTEM:ログイン】——
「……!?」
目の前のトオルが、光に包まれて消えた。
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【SYSTEM:ログイン可能回数 残り:1】
【復元位置:4月3日 7:00AM】
——まさか、俺だけじゃなかったのか。
あいつも、“時間を操る”能力者……?
謎はさらに深まった。
次で最後だ。
俺は必ず、真相に辿り着いてみせる。