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目を覚ました瞬間、俺は“あれ”の違和感に気づいた。
時計の針は7:10を指していた。枕元のスマホには「4月3日(月)」と表示されている。だが、昨日も確かに4月3日だった。そしてあの時刻——教室で、血だらけの彼女を見つけたのは、7限が終わった16時過ぎのはずだ。
俺の名前は如月シオン(きさらぎ しおん)。
ごく普通の、いや……“異常な日常”を繰り返す高校二年生。
俺にはひとつだけ、他の人にはない「能力」がある。
——時間を巻き戻すことができる。
正確には、1日に3回まで、“ログポイント”にセーブされた自分自身の意識へ戻れる。
RPGで言えば、セーブデータを読み込むようなものだ。
だが、これにはいくつか制限がある。
・セーブは毎朝0時に自動で1回分だけ記録される
・1日で使えるのは3回まで
・使い切ると、二度とその日は戻れない
俺は今朝、確かに1回“ログイン”した。教室で異常を感じ、トイレに立ち、そして……教室に戻った時には、彼女はもう死んでいた。
「……椿」
教室の風景がフラッシュバックする。
机に突っ伏したまま動かない少女。落ちた椅子。血に濡れた床。叫び声。誰かの悲鳴。自分の手の震え。
——そして、ログイン。
その日の授業はいつも通りだった。誰も異変に気づいていない。
ということは、まだ彼女は生きている。
この時間なら、まだ“救える”はずだ。
だが問題は、「誰が、なぜ、椿を殺したのか」がまったくわからないこと。
記憶を持ったまま戻ってこられる俺だけが、あの未来を知っている。
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放課後、俺は早めに教室を抜け、職員室近くの廊下から様子をうかがった。
椿は美術部で、放課後はしばらく絵を描いている。教室に戻るのは17時近くだ。
だが、昨日の未来では、16時にはすでに死んでいた。
「……お前、何してんの?」
声をかけてきたのは、クラスメイトの朝比奈トオル。野球部、成績中の上、クラスの人気者。
「いや……椿を探してて」
「椿? あいつならまだ部活だろ?」
とぼけた顔だが、なぜか心がざわついた。
——この世界では、誰もが“犯人”になりうる。
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16時10分。
俺は教室に戻り、椿の席のそばで待機する。
16時15分。
誰かの足音が近づく。椿か?
「——あれ?」
教室のドアを開けたのは……トオルだった。しかも手には、何かが入った紙袋を持っている。
こちらに気づき、ぎこちなく笑った。
「お前……まだいたのか。誰もいないと思ったのに」
「何、それ?」
「ん? ああ、椿に貸す予定だった参考書。置いとこうと思ってさ」
それだけ言って、彼は机に袋を置き、すぐに出て行った。
でも、その紙袋。昨日の現場でも同じものがあった。
——トオルが……犯人? それとも、ミスリードか?
16時25分。
ドアが再び開く。椿が戻ってきた。
「ただいまー……あれ、シオン?」
「椿、今日は部活、早かったんだね」
「うん、ちょっと疲れちゃって。教室で描こうかと思って。あれ? これ何?」
椿が紙袋に手を伸ばした瞬間——俺は、とっさにそれをはたき落とした。
中から転がり出たのは、カッターと、封筒。
中身は、**「椿へ」**と書かれた手紙と、小瓶。
読めない。何が目的か、まだ分からない。
その時だった。背後の窓ガラスに、誰かの影が映った。
「逃げて、椿——!」
そう叫んだ瞬間、俺の視界が赤く染まり、背中に激痛が走った。
誰かが、俺を刺した。
そして、意識が暗転する。
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【SYSTEM:ログイン可能回数 残り:2】
【復元位置:4月3日 7:00AM】
——まだ終わっていない。
次は、止めてみせる。
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