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婚約者に直接嫌がらせをする悪役令嬢

「どうすればいいの! クラリッサ!」


 学園に入学して、あっという間に二か月――。

 私は昼食を食べるのも忘れて、ただただ裏庭でクラリッサに焦りと不満をぶつけていた。


「……まさかエリアス様が誰もお気に召さないとは、わたくしも予想外でしたわ」


 クラリッサはそう呟いて、綺麗に先の尖った爪をぎりりと噛む。

 私たちが計画したお茶会は失敗に終わり、エリアス様はどの令嬢にも興味を抱かないまま時が過ぎてしまっていた。


 結局、ステラ以外はエリアス様の心を動かせないのだろうか。ヒロインの代役など最初から無謀な計画だったのかと、私は凹みに凹んだ。

 ――原作で婚約破棄が成立したのは、夏休み明けの秋頃だった気がする。まだ焦らなくていいと思いつつも、ステラがいない現状が、私の気持ちもシナリオも、すべてを狂わせているのだ。

 大体、私は誰のこともいじめていないし、エリアス様に想い人がいなければ、秋に婚約破棄できるとは到底思えない。

裏庭で昼食をとるのにも限界がきそうなほど照り付ける太陽は、既に夏を知らせていた。このままでは、秋がくるのもあっという間な気がする。そう思うと、やはり私は焦るべきなんだろうか。


「アミーリア様は、エリアス様とのご関係は変わらない様子で?」

「ええ特には。適度な距離を保った仮面婚約者って感じ」

「あ! そういえば、エリアス様は学期末イベントの実行委員を任されていましたね。それが忙しくて、令嬢に目を向ける暇もないのでしょうか」


 学期末イベントとは、夏休みの前日にある学園全体のちょっとしたお祭りだ。着飾って生徒が大ホールや校庭に集まり、パーティーを開く。一学期を無事に終えた生徒たちへの慰安会のようなものである。


「一年生は装飾担当だから、そんなに忙しくないはずだけど――あ」


 そうだ。原作ではたしかステラがエリアス様の仕事を手伝っていたんだ。ふたりでイベント準備をすることで仲を深めるっていうベタな展開だったのを覚えている。……アミーリアも手伝おうとしたけど、あっさりと断られていたような。


「どうかしました?」

「いや、誰かエリアス様の準備を手伝ってくれたらいいのになって。ほら、共同作業は絆を生むっていうじゃない?」

「それは難しいですわアミーリア様。エリアス様から頼まれたならともかく、自ら〝手伝いましょうか?〟と言える令嬢なんておりません。それは遠回しに〝手際が悪い〟と言っているように受け取られる可能性がありますもの。王族への不敬罪にでもなったらたいへんですわ」


 エリアス様がそんなことで不敬罪なんて言うとは到底思えないが、言っていることは理解できる。そして、エリアス様がもし自分から誰かに頼んだとしても、それはチェスター様以外ありえないだろうってことも。


「そんな申し出ができるのはアミーリア様くらいですわ」


 本当はもうひとりいたんだけどなぁ……。ステラのことを思い出すと遠い目になってしまう。


「私が手伝うと言ったところで、エリアス様は必要ないって言うでしょうね。いっそのこと、私が準備の邪魔をしてやろうかしら? エリアス様に想い人を作らせてその子をいじめるなんてまわりくどいことしないで、直接エリアス様に嫌がらせするの! それこそ不敬罪になって婚約破棄。なーんて……」


 待って。最初は冗談で言っていたけど、これって結構いい案じゃない?

 王子に嫌がらせなんて立派な不敬罪だ。うまくいけば、国外追放までいけるんじゃあ!?


「それですわアミーリア様! なんてストレートで確実な作戦! 真っすぐで純粋なアミーリア様だからこそ思いつける、素晴らしい案ですわっ!」


 クラリッサも思った以上の大絶賛をしてくれている。

 ヒーロー兼好きな人兼婚約者に、断罪されたいがために直接嫌がらせをする悪役令嬢がかつていただろうか。私の知る限りではいない。というか普通に考えているわけがない。


「お兄様の情報によると、実行委員は放課後に準備を進めているようだから、早速今日様子を見てみるわ。そこで手伝う素振りを見せて逆に邪魔してやるの! エリアス様は相当私を鬱陶しがるはずよ!」

「アミーリア様ったら、とんでもない悪女ですわ~!」


 おほほほほ! すべては私の幸せな未来のため!

 ――とはいっても、最初からクライマックス並みの嫌がらせをする勇気はないから、とにかく小さなジャブを打ち続けよう。この先ステラが戻ってくる可能性も見越しておかないと。


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