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ヒロインの代役の代役

 クラリッサの本心を聞き彼女の友人となった私は、気持ち新たにこれからどうするかを考えることにした。

 元ヒロイン代役、現悪役令嬢の友人ポジションに落ち着いたクラリッサは、今も隣でにこにことしている。すべてを吐き出したからか表情も前より活き活きとしていて、なんだか羨ましい。


「アミーリア様、エリアス様と婚約破棄する方法は思いつきました?」


 放課後。私たちの定番の場所となった裏庭のベンチで、今日も私はクラリッサと作戦を練る。


「うーん……クラリッサはなにかいい案ある?」

「そうですねぇ。もうすぐある学期末テストで、全部0点をとるとかはどうでしょう」


 たしかにエリアス様は馬鹿な女を好きではなさそうだが、それだけで婚約破棄には至らない気もする。何回か連続で0点を取り続ければ話は変わるだろうが、そんなことになる前に両親からスパルタ指導を受けそうだ。


「それだとちょっと弱いかもしれないわね」

「あっ!」


 今日もこの作戦会議で進捗はなさそうかと諦めかけたところで、クラリッサがなにか閃いたような声を上げた。


「とっても簡単なことがありましたわ! わたくしの代役を立てればよいのです!」

「クラリッサの代役?」

「はい! だって、エリアス様と恋人関係になるのは、べつにわたくしでなくてもよいでしょう?」

「……そうね。それはそうだわ」


 クラリッサ時点が既にステラの代役だったから、〝代役のさらに代役〟を立てるってことか。


「とにかく誰でもいいから、エリアス様に想い人を作ってもらえばよいのです! そうすれば、アミーリア様は解放されますわ!」

「なるほど! 言われてみればそうだわ! どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら……」


 私の中で、ステラの代役はクラリッサしかいないと勝手に思い込んでいた。学園にはたくさんの令嬢がいるのだから、エリアス様がほかの誰かを好きになる可能性はゼロではない。ステラに似た令嬢でなくとも、心を射抜く者がいるかもしれない。


「そのためには、まずほかの女子生徒たちにエリアス様にアピールする場を設けなくてはなりませんわ」


 エリアス様は人気者だ。そのため、いつも女子からキャーキャー言われている。いわば学園のアイドル。しかし、いつも集団で騒いでいるだけで、一対一で話そうとする者はいない。


「まだ一年生の前半ですもの。みんなアミーリア様の目もありますし、遠慮しているんだと思いますわ。それこそ、下手なことをしてアミーリア様に目をつけられたらどうしよう……と心配している者もいるでしょうね」


 私の疑問にクラリッサはそう答えた。

 なるほど。とてもわかりやすい。つまり、みんな内心エリアス様とお近づきになりたいが、私にびびっているということか。

 それは同時に、そういった怖さや貴族のマナーも全部飛び越えるような令嬢は、この学園でやはりステラしかいなかったということでもある。


 ただ、私は信じている。〝おもしれー女〟は作れると! ……クラリッサも別の意味で、おもしれー女ではあったしね。


「じゃあ、私が主催したお茶会にクラスメイトを招待して、そこにエリアス様がいたらどうかしら。私がみんなにエリアス様にひとりずつ挨拶するように促せば、自然と一対一の状態を生み出せるでしょう!」

「ナイスアイディアですわ! アミーリア様直々に言われたら、みんなもそうせざるを得ませんし、むしろラッキーって思うに決まってますわ! なんせ、エリアス様に自分をアピールするチャンスですものっ!」


 貴族令嬢は欲深い者が多いのは、私もこの社会にいてよくわかっている。

 チャンスがあれば、私からエリアス様を略奪しようとする者も必ず現れるはずだ。


「私はその様子を見ながら、脈ありそうな令嬢を見極めてエリアス様とくっつけさせたらいいってことね!」

「その通りですわ! 当日はクラスメイトを全員呼びましょう! 駒は多いに越したことありませんしっ」

「……駒?」

「私とアミーリア様以外は全員駒のようなものですわ~! うふふっ」


 楽し気に笑っているクラリッサを見て、彼女のほうが悪役令嬢に向いている気がした。

 

 だが、クラリッサの案はいい案だ。

 無理にヒロインという大役をひとり作らなくたって、たくさんの候補者から選べばいい。この学園という舞台にいる以上、誰もがヒロインになれる権利を持っているのだ。

 エリアス様に想い人さえできれば当初の予定通り、その想い人に事情を説明して、私と婚約破棄……できれば国外追放になるよう協力してもらえばいいだけ!


「今度こそうまくいけばいいのだけど……はぁ。ステラさえ逃げなければ……」

「ステラ? 誰ですの、その女は」


 私がうっかり漏らしたステラの名に、クラリッサが異常なほど反応した。真顔で詰め寄られて普通に怖い。


「ほら、ずっと登校していない生徒がひとりいるでしょう? その子よ。名前は名簿を見て知ったの」

「ああ。そんな子もいましたわね」

「実は入学式の日に彼女を見かけたんだけど……すっごくエリアス様の好きそうな子だったの。だから、あの子がいたらもっとすんなり事が進んでたなぁと思って」


 本当はステラがヒロインなことや、話しかけたら逃げられたっていう事実はさすがに言えない。


「……チェスター様に聞けば、彼女の居場所を調べてくれるのでは?」

「チェスター様? なんで?」

「チェスター様の所属している騎士団は、王都で有名な情報屋と繋がっていると聞いたことがありますわ。チェスター様にその人を紹介してもらえば見つけられるかもしれません」

「!」


 今日はクラリッサに助けられてばかりだ。ていうかそんな情報、原作でも書かれていないから知らなかった。

 チェスター様が私の頼みを聞いてくれるとは到底思えないが、まずはダメ元でもやってみることが大事よね。


「ありがとうクラリッサ。次ふたりに会ったら、早速お茶会の誘いとステラについて聞いてみるわ」

「お役に立てて光栄ですわ! アミーリア様!」


 その後、クラリッサの従者がクラリッサを探しているとほかの生徒に聞き、彼女はひとり裏庭の後にした。

 ……お兄様は今日、放課後生徒会の仕事があるって言ってたっけ。もう少ししたら終わるだろうし、一緒に帰ろうっと。

 私はしばらくベンチに座って、前より少し温かくなった風を浴びることにした。


「そろそろ行かなくっちゃ」


 空の色もだいぶ変わってきた。茜色の空は幻想的でとても綺麗だ。こんなに綺麗な色をしているのに長く見られないなんてもったいない。

 ステラも今、どこかで同じ空を見ているだろうか。そして、まだ見ぬ私の運命の人も――あなたの国の空は、どんな色をしているの?


 夕焼けにを背景に、たった数コマだけ見た黒髪の彼を思い浮かべる。名前も知らないのに、私がここまで焦がれる相手がいることを、エリアス様はまだ知らない。きっと一生、知ることはない。


「……あっ」


 校門のほうへ歩いていると、エリアス様とチェスター様の後ろ姿が見えておもわず足を止める。

 こんな時間まで残っているなんてめずらしい。なにか用事があったのだろうか。というか――残ってる生徒もほぼいないし、これはナイスタイミングでは?


 結構な距離があったのにも関わらず、気づけば私の足は駆け出していた。


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