表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Wind Breaker  作者: 雨野 鉱
10/19

夢雫4

白夢二 ゼツメツノコクイン


 あなたの世界にも、切なく悲しい歌があり、楽しく胸躍る歌がありますね。

 楽しい歌は人々の心を温める太陽として残りますが、悲しい歌は人々の心をひっそり照らす月となってやはり残ります。

 歌は日々、星々のように彼らを照らし、見守ります。そうしながらあなたが土から生まれ、土に還るのを厳粛に見守っているのです。

 ドワーフとシルフの棲む世界にも、歌があります。喜びを讃える楽しい歌も無数にありますが、運命を呪う悲しい歌もまた数多にあります。今宵もまた、哀歌を一つ紹介しましょう。

 その少年の名は、ベンジアスと言いました。とてもまじめで、誰からも好かれる、頭の良い少年でした。いいえ、頭が良いどころではありません。ドワーフの大人たちは幼いベンジアスの尋常でない物覚えの良さと、とどまることを知らないひらめきの連続に、「この子は天才に違いない!」と言ってほめ讃えました。まことに、ベンジアスは大地の精霊の恩寵を誰よりも受けて生を授かった子でした。

 しかし、精霊に愛されることは、運命の女神に愛されることと同義では必ずしもありません。才能あふれるベンジアスでしたが、運命の女神はそんなドワーフの少年のことなどたいして気にも留めていませんでした。

 ベンジアスが少年から大人に変わるくらいの頃です。ベンジアスは、他の同じ年齢の子が広大な大地を耕すことに命を燃やしているときに、ドワーフのある小国の中の最高学府で教鞭をとっていました。ベンジアスは賢すぎたので、学問の聖徒になったというわけです。ドワーフみな同じ土の上で生きるといっても、ベンジアスは特別でした。

 けれど、賢すぎたベンジアスは、いつまでも教鞭をとっているわけにはいかなくなりました。気まぐれな運命の女神のせいでしょう。あるいは運命の女神がベンジアスをあまり好いてはいなかったのでしょう。地上の覇権を巡るドワーフとシルフの戦争がこの頃いよいよ激しくなり、ドワーフたちの学府もまた、世の中に無関心ではいられなくなっていました。特別といっても、やはり土の上で生きているのは変わらないということです。

「私が、ですか?」

「そうです。あなたの評判を聞いたので是非と思いまして」

 ベンジアスの運命を狂わせる訪問は、そんなただならぬ時にありました。ドワーフたちはシルフを屠る兵器の開発に血道を挙げていました。魔法ではとても及びませんから。その対シルフの兵器開発者の一人に、ベンジアスは抜擢されてしまったのです。兵隊たちは最初甘い言葉でベンジアスを説得していましたが、煮え切らないベンジアスにとうとうしびれを切らし、最後は強引に彼を兵器開発者にしてしまいました。

 “それ”は、エイナモイネンといいました。

 兵器の名前です。

 シルフに比べて力の劣るドワーフたちが、シルフの持つ風の力に耐えられる“人形”をつくろうと願ったのです。けれど願うだけではシルフの風は防げません。風を防ぐために、風の強さ、吹き方、風の仕組み、風の防ぎ方の全てを計算しなければなりません。計算が済んだら組み立てねばなりません。その一切の責任を負わされたのが、かわいそうなことにベンジアスでした。

 兵器の一つ、対シルフ殲滅機エイナモイネンの主任研究官にベンジアスがなりました。彼らの星が、燃える星を七回まわる間に――つまりあなた方でいう七年が経つうちに――ベンジアスの弟カミュはシルフとの戦争で捕虜となり殺されました。運命の女神のロープはカミュの首を絞めただけではありません。ベンジアスには病弱な姉フォルノと目の見えない母ピアテがいましたが、どちらもドワーフの兵隊たちに尊厳を踏みにじられるほどボロボロにされ、挙句の果てにはエイナモイネンの実験材料にされてしまいました。全て、ベンジアスの仕事が遅いことに対する、兵隊たちの嫌がらせです。

 エイナモイネン開発の現場責任者はベンジアスと同じドワーフでしたが、どちらかというとただの意地汚い悪魔でした。自分の欲のためにだけ動く、本当に獣のようなドワーフでした。その下で、ベンジアスは辛い仕事を続けていたのです。

 一年後、ついにベンジアス達研究官はエイナモイネンを完成させました。現場責任者は狂ったように喜びましたが、ベンジアスにとってはもうどうでもよいことでした。

 どうせ殺されるだろうとすら思っていました。

 どうせ生きていても仕方がないんだとも思っていました。

 もう、ベンジアスの家族は彼以外に誰もいません。彼の父親だけは安否不明でしたが、どうせ死んでいるだろうとベンジアスはあきらめていました。

 父の名はホスロウといいました。世界を行き来する装置の開発に携わっていた研究者です。もっとも、誰かさん同様、自分から好きでその研究を始めたわけではありませんでした。誰かさんと同じく無理やりやらされ、誰かさんと同じく人質をとられ、そして少し前に、任務の途中で亡くなりました。アクリタークの“死神”の手で葬られたのでした。

「僕らは人形。天が人形を操る。……そうだよね、父さん」

 かつてホスロウが目の前で兵士たちに脅され、自分の目の前から永久に去って行った光景を思い出しながら、ベンジアスは死の人形を作り続けたのです。

「造り始めたモノは、創り始めた者が、最後まで造り上げなければならない……たとえそれが何を意味しようとも……」

 ベンジアスは仕事への責任感だけでエイナモイネンを完成させました。

 ではベンジアスはすぐに処刑されたのでしょうか。

 いいえ。ベンジアスはすぐには殺されませんでした。とりあえずは様子見です。「殺したら終いだが、生かしておけば何かに使えるかもしれない」という上司たちのご都合でした。

 それにしても、エイナモイネンは、とんでもない兵器でした。ベンジアスの仕事への執念や兵士への呪いや生の恨みが全て込められている兵器でした。ですから、ただの木偶ではありません。

 シルフたちはそれまでほとんどドワーフに対して連戦連勝を重ねていましたが、ドワーフ達によるこのエイナモイネンの大量投入によって、戦況は五分五分にまでなってしまいました。それはシルフにとって、有史以来一度も経験したことのない危機でした。

「ベンジアス!!ドワーフの叡智の結晶!救世主!!」

 一方のベンジアスは救国の英雄と持ち上げられましたが、当のベンジアスにしてみれば、どうでもよいことでした。エイナモイネンによって自分たちドワーフも殺されればいいのにとすら、思っていました。けれどもちろんそんなことを口にはしません。すればベンジアスは長い長い拷問の日々を過ごすことになりますから。

 しかし、運命の女神は皮肉を好むものです。ベンジアスが血の涙を流しながらかけがえのない家族の救済を必死に祈った時は見向きもしなかった女神は、ベンジアスが諦めの溜息しか吐かなくなったこの期に及んで、突如手を差し伸べてきたのです。虫唾の走るような嫌な笑みをきっと浮かべながら。皮肉屋の彼女のロープはドワーフもシルフも関係なく締め上げ、首の骨をへし折ります。

 そう、エイナモイネンはある日突然、暴走を始めたのです。

 暴走の主な原因は、間もなくわかりました。そしてそれが、女神の皮肉であることもみなすぐに悟りました。シルフたちがエイナモイネンを暴走させたのです。

 ではどうやってでしょう?

 それは皮肉にも、ドワーフの聖遺物が使われていました。ドワーフにも歴史があり、宗教があり、魔法があります。まだ彼らが得意とする科学が発展する前、歴史はその時まで宗教と魔法が支配していました。ドワーフの数少ない魔法は、やがてほとんどが文献の記録に残るだけになってしまいましたが、一部、科学が支配する現在までも残っているものがあります。残った理由は、あまりに強力で、消滅するのに大変長い時間がかかるものだからです。あるいは誰にも制御できないからでした。シルフたちはそのドワーフの“聖遺物”を暴き出し、それをよりによってドワーフの科学の最高傑作を破壊するのに用いたのです。

 エイナモイネンは当初ドワーフの地で暴走しました。そしてその暴走を食い止めるために、別のエイナモイネンがドワーフによって投入されました。同時に、そのエイナモイネンたちは迫りくるシルフを食い止めねばなりませんでした。そうこうしているうちに、全てのエイナモイネンが暴走しはじめました。本当の暴走です。ドワーフにとっての、そしてシルフにとっての制御不能です。もう、何が何だか誰にも分かりませんでした。ただエイナモイネンがドワーフの土地もシルフの土地も関係なく殺戮の天使になって羽ばたいているだけでした。みな、慈悲の片鱗も得ることなく死んでいきました。エイナモイネンに慈悲などありませんから。あるのは運命の女神の繰り糸だけです。

 両者ともに甚大な被害の末、ドワーフとシルフは停戦状態に入り、どちらも暴走したエイナモイネンを破壊するためだけに時間を追われることになりました。ドワーフもシルフも生き残ることに必死でした。運命の女神は誰彼かまわず首をへし折ります。彼女はただ後ろからロープの環を私やあなたの首にかけ、崖から突き落とします。誰の首にかけるか、突き落とした後ロープが伸びきる前にロープを切るか、それらはすべて運命の女神の気分次第です。まことに、ままならない世の中です。

 三年が過ぎました。

 エイナモイネンはそもそも百体開発されました。そのうちの九十九体が何らかの形で破壊されました。最後の一体も見つけ出して破壊したいところでしたが、ドワーフにもシルフにもそんな余力は既に残されていませんでした。国土は疲弊し尽くし、民は飢えと病で滅ぶ寸前でした。戦どころではありません。

 絶滅の危機という顕在的な不安。

 探索せず可能性を排除しないという潜在的な不安。

 どちらをとるか、秤にかけるまでもないでしょう。「見つからないのなら、放っておけばいい」という空気がどちらの政治にも蔓延し、結局「相手側の国で暴れたあげく壊されたのだ」という希望的な憶測で落着しました。最後の一体は想像上、破壊されたのです。

「ふふふ……ふふ……ふふふふふふふふふふふふふふふ」

 この時、ベンジアスはすでに牢屋の中にいました。現場責任者は本来自分が負うべき責任をすべてベンジアスに押し付けたからです。一度は国民の前に英雄という形で登場し、しかもエイナモイネンの残り一体が結局見つからず、万が一の不安が残るという二つの理由で、ベンジアスは死刑にこそなりませんでした。けれど終身刑でした。いくら星が燃える星の周りを巡り、歳月が流れたところで、恵み深き大地に還すつもりはないという宣告を同じドワーフから受けたのです。ベンジアスは格子窓から覗ける狭い空を見ながらいつも力なく笑ってばかりいました。

 そんなさなかです。

 ベンジアスの所へ、“死神”が現れました。死神は造作なく看守を皆殺しにして牢を破り、ベンジアスを誘拐したのです。

「あなたは……誰ですか」

 ベンジアスは死神に尋ねました。同種の死骸を見て、目の前に立つ“それ”がエイナモイネン同様の殺戮の天使であることくらいベンジアスはすぐに気づきました。自分もこれで大地に召されるでしょう。せめて誰が自分をそうしてくれたのかくらい知って眠りにつこうと考えたのです。

「私は……美しくないこの世界を壊す、一つの罪」

 死神はそれ以上、己については言いませんでした。けれどベンジアスを牢から出してやった理由については端的に説明しました。

「滅亡を閉じ込めた絶対無二の武。それが私の望み」

 死神は力を欲していました。けれどそれはエイナモイネンを壊すためではありませんでした。ですがエイナモイネンすら一撃で屠ることのできる武器を欲しがっていました。つまり脱獄させてやったお礼に武器を製造しろというのが、死神の要求でした。誰も彼もみな、身勝手なものです。

「……」

 ベンジアスは今まで、一度として何かを自分から欲しがったことはありませんでした。ただ置かれた状況で泣き叫んできただけです。残りはひたすら計算し続ける一生でした。

「……」

 けれどこの時初めて、彼の消え果てそうな心は、欲しいと思いました。彼は死神を“欲しい”と思いました。それは恋に落ちたことを意味していました。

「作ってもいいです。その後に惨く殺されてもかまいません。ただ一つだけ、この愚かな世界で生きている間に一つだけ、お願いがあります」

 恥ずかしいとも思わず、滑稽とも思わず、ベンジアスは生まれて初めて生じた“欲”を口にしました。

「あなたを、求めてもいいですか」

 拒絶されれば、そのまま死ぬだけでした。けれど、

「いいわ」

 死神はただそう言っただけでした。

 こうして、ベンジアスによる死神の武器開発が始まりました。死神はシルフにもかかわらず、ドワーフの深くて黒い森にアジトを構えていました。そこに、ベンジアスは連れて来られ、再び研究者となったのでした。

「来世、地獄、審判……俺の脳漿はどこに流れる……血はいつ流れる?肉はどう飛び散る?」

 ですが今回は目的がありました。ベンジアスの頭には死神の姿がありました。

「たいしたことはない。そこは、その程度だ。それは、そんなものに過ぎない……」

 それを何としてもモノにしたいという欲で彼は動いていました。体の中では熱が常に滞留していました。当事者の彼にしてみれば、充実していたのです。

「欲しい……よろずの約束を違えても、何としても……欲しい……」

 武器は、ついに完成しました。反物質施条銃。通称“ゼツメツノコクイン”。この兵器のすさまじさはドワーフ、シルフ両方の首脳陣を震え上がらせました。

 それはつまりこういうことです。

 ドワーフの一部の王国が秘密裏に結託し、ドワーフとシルフとの間の休戦協定を破ってシルフの一領土に攻め込むという作戦を立てました。地下資源の豊富な土地でした。しかしその作戦は、実はドワーフとシルフの一部の者たちが休戦協定を破棄させて再び戦争に突入させるために仕掛けた罠でした。全ての裏で糸を引いていたのは武器商人たちでしたが、とにかくそのようなドロドロとした政治的な、そして欲望にまみれた死の作戦が秘密裏に企てられていました。

 作戦はまもなく実行されました。ドワーフは幾日もかけて大規模な精鋭部隊を組み、あらかじめ武器商人から情報を漏えいしてもらっていたシルフたちもまた大規模な精鋭部隊を組みました。巨視的に見れば滑稽な、ただし当事者たちにして見ればかつてないほど緊張の強いられる戦争が夜遅く、静かに始まりました。

 泥沼に陥るはずでした。しかしその静かな大戦争は夜明け前に終わりました。ドワーフの精鋭部隊も本部指令所も、シルフの精鋭部隊も本部司令室も、暁を前にした夜空のようにことごとく消え去りました。残されたのは、破壊兵器の爪痕だけです。

 絶滅の刻印――。

 そう、ベンジアスの製作した兵器によって、みな一瞬にして消え去りました。死神ももちろんこの空しい作戦のシルフ側の戦闘員でしたが、死神は以前からこの戦いを、ゼツメツノコクインの実験場にしようと決めていました。それが試されたわけです。

 事態を知って、武器商人たちは鳴りをひそめました。自分たちの知らない同業者が自分たちより強力な武器を所持していることに戦慄したからです。彼らに操られていた大物面のドワーフもシルフも、そしてその大物面した彼らに操られていたドワーフたちも一斉に鳴りをひそめようとしました。しかし彼らはダメでした。武器商人のように糸のついていない大物ではない彼らは、結局仲間たちの手で粛清に遭いました。この紛争は歴史の表には刻まれず、仲間たちの間で静かに葬られました。シルフもドワーフもただ、いたずらに多くの戦力を浪費しただけです。皮肉にも休戦協定を長引かせる結果へとつながりました。運命の女神が知ったらほくそ笑むでしょう。……いえ、運命の女神が糸を引いただけなのかもしれません。

 さて、死神。

 ゼツメツノコクインはドワーフの大概の兵器に見られるような音の問題を解決していました。つまり静かなのです。ゼツメツノコクインの攻撃は静かに相手を砕き去りました。

 死神はもはや、鎌を振り下ろすあの死神のように音もなく多くの命を刈り取ることができるようになっていました。武器商人の仕掛けた作戦に参加したアクリターク二十九名のうち、死神を除いて四人が偶然その場に居合わせず生還しましたが、彼らのうちのだれも、その惨劇の瞬間の音を記憶している者はいませんでした。ただ彼らの誰もが、その惨劇の瞬間の光景を同じように語ります。「強烈な光があがって、その光の方を見つめると、いつの間にか自分の過去を思い出していた。あるいは見たことのない風景が広がって、これはもしかして自分の未来ではないかと気づき、今はそれどころじゃないと思ってハッとなった時には、光は無くなっていた」と。

 さて、そしてベンジアス。

 彼の願いは、残念ながら叶いませんでした。

 ベンジアスが銃を開発した後、死神は彼の元から姿を消しました。死神は彼の願いを叶えるかわりに、彼の生存情報をドワーフの国々に流しました。ベンジアスのもとに帰って来たのは死神ではなく血相を変えたドワーフの兵隊たちでした。

「ふっふふふふふ……どいつもこいつも……どうにもなりやしない」

 ですが、ベンジアスはドワーフの兵隊たちに捕まることはありませんでした。

「貴様がベンジアスか!?」

「つまらないことを聞くな」

「答えろ!さもないとこの場で撃ち殺すぞ!!」

「そうか。では俺の命はあとどれくらいだ?」

 裏切られることを予期していたベンジアスは、予め手を打っておいたのです。

「明日も明後日も悲しみの続く世界だが、それでも侵してはならない一線がある」

 彼はあくまで、エイナモイネンの首席研究官でした。エイナモイネンについて知り尽くしていました。だからその気になればできることを知っていたのです。

「よろずの約束を違えても、俺の約束に手を出すことは…………許さねぇ!!」

 自らをエイナモイネンにすることを。

 ドワーフの力を宿したエイナモイネンという、鬼胎な姿になっていたベンジアスは、自分を拉致するために現れたドワーフの軍隊を皆殺しにし、その後姿を消しました。

 彼の胸の中には、様々な思いがきっとありました。でも、きっと、です。よくは、誰にもわかりません。

 彼は銃とともに、特別な弾も開発していました。死神の依頼で作られたそれは、葛藤を持つ者に狂死をもたらす特別な銃弾でした。心に葛藤を持たない者などいません。つまり至死の魔弾でした。名をヌアメシュリ弾と死神は名づけましたが、ベンジアスはこの弾できっと自殺できると思いながらつくり続けました。事実、彼は死神の肖像画を収めたロケットの中に――もちろん死神の絵が入っていることも、誰にも内緒でしたが――死神には内緒で、一発の弾を隠しました。その一方で、彼は死なない兵器になるよう、自分を作りかえたのです。本当に、不思議なことでした。

 結局ベンジアスはドワーフの兵隊の手から生き延び、姿を消しました。目的はたぶん、死神を殺すことでしょう。あるいはもう殺したかもしれません。あるいは死神に殺されたかもしれません。殺されたとしたら、どうやって殺されたのでしょう。殺したとしたらどうやって殺したのでしょう。分かりません。ですがきっと、そこにはヌアメシュリ弾が関わっているに違いありません。何せどのような存在も、皮肉好きの運命の女神には及ばないのですから。ドワーフもシルフもヒトも憎しみも悲しみも悦びも、きっと……。

 彼のロケットはいま、どこの土の上に在るのでしょうか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ