デートコースは本屋を回って
他サイトでの企画で、777字ジャストの百合短編を書いてみました。
春は発情の季節だ。そう私は理解しているけれど、クラスメートである彼女は実感が沸かないらしい。彼女は、いわゆる本の虫で、いつも活字ばかりの難しい本を読んでいる。だから私みたいに、マンガしか読まない女子でも分かる事実を彼女は理解できないんだと思う。
私と彼女は趣味も性格も正反対で、だから惹かれ合った。それも事実なのだけど、やっぱり彼女には理解できない事らしい。優等生の彼女が、不真面目な私から視線を外せずに居るというのは、好意があるからだ。それが彼女には分からないようで、「何で、貴女なんかに……」と、私は面と向かって言われた事すらある。腹は立たなかった。彼女が自分の内心に戸惑っている姿が、たまらなく愛おしかったから。
日曜日、私と彼女は本屋へ向かった。この本屋は彼女の家に近くて、最も彼女が気に入っている場所だ。そこで一緒に本を買おう、と私が提案して押し切った。実際は本なんか、どうでも良くて、私は彼女の『聖域』を踏みにじりたかったのだ。私達は学校の制服姿で、丈を短くしている私のスカートは、ぎりぎりのラインで下着を隠している。去年より腰回りが大きくなっているのだから、立っているだけでも境界線は危うい。
彼女を背にして、私は本棚の高い所にあるマンガ単行本へと手を伸ばす。スカートの境界線に視線が向いているのを感じる。彼女の関心が、活字以外にも向いている事が嬉しかった。
「どうして、私をからかうの?」
彼女の家で、私達は二人きり。私も彼女も、マンガと活字本の違いはあれど多くの本を買っていて、お互いの手提げ袋に入っている。袋は彼女の部屋の床に置かれて、一冊も本は取り出されていない。
「読んでみれば? 私の心を。本心って言うじゃない。さぁ、私を読んで」
部屋のベッドで、おへそを出して私は仰向けになる。彼女が近づく。部屋の本と同様に、私は彼女にめくられるのを待った。