七言目 ひっ
「あら、アンタまだ食べてないじゃないか! ほら、兎に角まずは食べな!」
「あ、は、はい」
おかみさんがそう言って僕にズイっとスープを持たせてくれた。
んまい!
何このスープ!
濃厚でまろやか、パンをどんどん食べちゃう!
追い出されて良かった!!
でもさっきから変な視線を感じる。
え、僕何かした?
娘さんがめちゃくちゃ睨んでる。
何故……怖い。
いくらなんでもあそこまで露骨に睨まれては鈍感な僕でも流石に分かる。
せっかくの美味しいスープ。
段々味がわからなくなってきた。
悲しい。
「えっと、なん……ですか?」
バンっと、テーブルに手をついて、立ち上がった。
髪は短くて、スタイルも良い。
顔も綺麗だけど、綺麗だからこそ尚の事怖い。
「ねぇ貴方、何故普通にご飯食べてるの?」
「え?」
何故ご飯を?
誘って貰えたから?
「突然やってきて、人の苗にちょっかい出して」
えぇ、めちゃくちゃ怒ってる。
ご飯? 一度断ろうとしたよ?
でも断るのって勇気がいるから、2回も言われると……。
「ハッキリ言いなさいよ!」
「ひっ」
会話はそこで終わった。
何故なら僕がもう喋れなかったから。
ご飯は無心で頂いた。
味はしなかったけど、残すと作物達に悪いから……。
そしてそのあと、娘さんは飛び出していった。
「娘がすまないね」
「……」
どう返すべきかな。
実際これ僕が悪いよね。
勝手に来て、勝手に苗に手を出して。
けれど、あれは見過ごせなかった。
「水、中毒……」
「水中毒?」
目の前にいるおじさんに、少しでも分かって貰おうと説明した。アレは耐えられる水の量じゃなかった。龍尾草に水は殆ど必要ない。何故ならあの植物は、
「もし君の言う事が本当だったなら、悪いね。彼女はあれでもここで働いている身なんだ。ああも一方的に仕事に手を出されては……ね」
「えっと、その……」
「あの苗には、水をあげなくて大丈夫なのかい?」
「あの植物は龍尾草といってまだあまり世間には出回っていないと商人さんが言っていましたが、実際に苗を育てさせて頂いたところ、要求する肥料の多さに対して水分は殆ど必要としておらず、その理由は大気中にある水分を葉から直接取り込んでおり、過酷な地でも大地に栄養さえあれば枯れずに過ごしてみせる正に龍の様な植物です」
「お、おぅ」
「逆にここの様に空気中に十分な水分がある土地では土の中に溜まった水分と自身が集める水分から自身の内で栄養の循環を上手く行えなくなり、いくら肥料を与えても吸収できないという水中毒に陥ってしまいます」
「そ、そうか。成る程な」
「肥料はどんとん吸い上げられるので毎日足してやり、見た目に反して根がどんどん成長するので深く根を張れる場所に移してやる必要がありますが、性質上土からどんどん栄養を吸ってしまうので、周りにある作物や花を枯らしてしまいますので、必ず龍尾草は龍尾草だけで育ててやる必要があります」
「そうなのか、凄いな」
「やがて花をつけてそこから必ず6本の細長い種が取れ、その種はまた肥沃な土に埋めてやる事で芽を出しますが、その種が【龍の牙】として重宝されているらしく、とても高値で取引されているそうです」
「うん、分かった。分かったよ」
「だからこそ6×6であっという間に増えそうな気がして、沢山育てようとすると、あっという間に土地の栄養を全て吸い上げて、何も育たない土地になってしまいますので、植える時は一粒ずつで、必ずそれが収穫できるまでは次の苗は育てない様にしないと、栄養が足りない苗はすぐに枯れてしまいますし、種の状態のままであれば半永久的に保存が効き、いつでも発芽させる事が可能なので」
「わかったー! ありがとう! 助かったよ!」
「え」
「分かった、もう十分理解出来た! 我々が間違っていたよ、すまない!」
「あ、いえ、そんな」
「危うく枯らしてしまう所だった、ありがとう!」
「その、良かった、です」
どうしよう。
娘さんになんて謝ればいいんだ。
謝罪の言葉が何一つ出てこない……。
ビックリするくらい田舎育ちの頑張りっ子の冒険です。
突然話しまくりなアルスくんをよろしくお願いします。
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