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他称「繊細さん」自殺少女に出逢う

作者: 忠海命


  「考えすぎじゃない?」


 この言葉が大嫌いだった。


 「俺が考えすぎなんじゃないお前らが考えなさ過ぎるんだ。」

 

 なんて独りよがりな思考に陥ることも少なくなかった。だが先の言葉を何回も耳にするうちに自分が少数派ということに嫌でも気づかされていった。


 そんな中、世の中ではHSPという言葉が流行りだした。どうやら細かい事ですら気になってしまい考えすぎな人を指す言葉らしい。芸能人がHSPを告白するのもそう珍しくない光景となっていった。


 そのような誰が産んだかもよくわからないブームの中、パッと見でよくわからないHSPは「繊細さん」などという安易なレッテルを貼られ世間へと普及されていった。


 その影響だろう、


 「繊細さんっておまえのことじゃね?笑」


 などと言われることがあるのは。

 はっきり言おう、HSPだの繊細さんだの簡単に自分を当てはめられるのはひどく不愉快であると。


 それだけならばまだいい、最悪なのは周りに自称「繊細さん」が現れだしたことだ。

 自信満々に繊細さんを名乗る人はそれをかっこいいとでも思っているのか?

 繊細さんという言葉に考えすぎで周りとギャップを感じている人にも似たような味方はいるんだよと伝える意味はあれど、他者より優れていることを示す言葉にはなりはしないだろうよ。

 この不快感はあれだ、子どもの頃サイコパスを名乗る知人に感じた羞恥心に近いものだろう。


 なので俺はHSPや繊細さんを名乗ることはないし、診断や書籍を読むことは負けだと思っている。

 まぁ、なにと戦っているかもわからないしそのような発想に至ることが繊細さんと周りに言われる要因なんだろうが…


 と繊細さんをとりまく昨今の状態への感想をのべてみたがそこには宛て先もわからない嫌悪があった。



 

 目が覚めてアルバイトに向けて用意をする。

 朝ごはんは納豆ご飯だ。以前は卵をいれていたが食べ合わせが悪いという情報を知ってしまいそれ以降いれることができなくなった。

 髪を整え制服にアイロン、コロコロをし食後時間がたったのを確認し歯磨きをする。

 家を出ていつもの道を歩きバス停を目指す。

その途中にいる警備員さんには挨拶をせず通りすぎる。いつも御苦労様です。

 すれ違う人がこちらが通りやすいようにずれるのを確認する前にあらかじめ端によっておく。

 信号を渡る前には曲がる車を止めないようタイミングを見計らう。

 車通りがほとんどない道だが近くに小さい子がいるため斜め横断はしない。

 バス停につくと並んでる人がいるためすこし離れた場所で待機し、バスが来るタイミングで列につく。

 バスに乗ると席は空いているが残りわずかなため座る気にはなれないため乗り降りの邪魔にならない場所で手すりにつかまる。

 座っている人が一円玉を椅子の奥に落とすのが見えた。気づいていない様子だが伝えない選択をする。

 バスを降りる際には小声で運転手への感謝をのべるのを忘れない。


 まだ働いていないのに酷く疲れた気がする。遅刻しないためバスが遅れることを考えはやく出ているため、アルバイトまでまだまだ時間がある。

 こういうときには近くのショッピングモールの屋上で時間を潰すのがお気に入りだ。バカと煙は高いところが好きというが俺はもくもくしているつもりはない。よってそういうことなのだろう。

 一階から階段で屋上までのぼりいつもの席に座ろうとする。




 すると、いつも通りの行動をし、いつも通りのいつもを体験するはずだった俺の目に素敵な光景が写った。


 屋上の柵をこえてあと一歩でも歩みを進めれば視界から消えてしまうであろう場所に一人の少女が立っていた。





 「何してるんですか?」


 気づいたら声がでていた。


 「ちょっと飛び降りようかと思って」


 内容に似つかわしくない明るい声で少女はいった。

 その言葉に俺は喜びを、哀しみを、怒りを覚えた。


 「迷惑かけちゃうんでいなくなってください。あ、止めようなんて思わないでくださいね~。」


 その一言で少女へ向かっていた足は止まり、代わりに様々な思考が動き出した。


 止めるのが普通なんじゃ…


 でも…


 もし…


 でも…


 じゃあ…








 階段を降りた頃にはアルバイトに向かう時間になっていた。


 ショッピングモールはいつもの賑わいで町を彩っていた。



 俺の胸に残ったのは自分への怒りだけだった。




 




 

 

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