003 屋上にて(翔太視点)
「相変わらず玉砕したな」
「ううぅ、向こうの行動が早すぎる……」
「だからと言って、あのリアクションはないだろ」
「確かに。 『ぬわーっ!』って何だよ……」
「そこは突っ込まないでよ!」
昼休み。
俺と七海と圭太は屋上で昼食を摂っていた。
七海が九条さんに話しかけようと突撃したが、他のクラスメイトに阻まれて、おかしな悲鳴と共に見事に玉砕。
諦めた格好で、俺達はいつもの屋上で昼食を摂る。
「まぁ、しょうがないな。 一人称が『僕』というギャップ萌えの少女がクラスにいるんだし、媚びを売っておきたいんだろう」
「だろうなぁ」
特に男子の勢いがすごい。 多分、容姿と喋り方でのギャップが萌えポイントになったのだろうな。
「しかし、あれからもう1年経つのか」
「ああ、俺がここに転校してそんなに経ったのか」
「あの後も翔太君、不幸続きだったもんね」
「そうだな。引っ越しが終わって転入して数週間で両親が死んだからな」
「あれはショックだったよね。 確か、今は優しい親戚が支援してくれてるんだっけ?」
「ああ、母さんの姉妹夫婦がな」
俺の両親は、引っ越してこの学校に転入してから数週間後に死亡した。
死因は分からないが、警察から山奥で遺体となって発見されたと聞いた時はショックを隠し切れなかった。
幸い、母さん側の姉夫婦が俺を引き取って世話をしてくれているし、義理の妹も懐いている。
「あれ、スマホに着信が入ってる」
「これは、あいつからか」
食事中に俺のスマホに『あいつ』からの着信が入ったらしいので対応する。
「もしもし」
『おお、翔太。 その様子だと相変わらずだな。 無理もないけど』
「ああ、相変わらずだ。 そっちはどうだ、義経?」
現在の通話相手は、九条 義経。
中学一年の途中まで親友だった男だ。
『こっちも変わらずだ。 まぁ、奴らがいないから平和そのものだ』
『翔太くん、やっほー』
『おい、留々香! 割り込むな!!』
「相変わらずだな、藤沢さんも」
義経と通話している最中に、義経側に乱入者の少女がが現れたようだ。
その少女の名は、藤沢 留々香。
義経の彼女だ。
そして、七海と同様に俺が女性不信になった今でも変わらずに話しかけられる希少な存在。
その上、藤沢さんは義経が九条の分家だと分かっていながらも彼女として付き合ってくれているらしい。
ん?
そういや、転校生の女子も九条だったような?
「そういや義経、俺が通っている学校に九条 久留里という女子が転校してきたんだが……」
『げ、マジか!?』
「ああ、知ってるのか?」
『俺の親戚かつ、九条本家の娘だよ。 俺、あいつが苦手なんだよ。 口調がアレでさ』
義経の親戚かつ、九条本家の娘なのかよ……。
とんでもない人物が公立の中学校に入ってきたなぁ。
詳しく聞いていると、どうも口調が上から目線の上司みたいな口調らしく、圧も強いため義経は距離を置いているようだ。
『まぁ、話は戻すがこっちはさっきも言ったように奴らがいないから平和そのものだ』
『何せあの女だけじゃなく、担任も事なかれ主義の名の下に暴挙を放置してきたわけだしね。 いなくなって清々してるよ』
「そうなのね」
「確かに藤沢さんからそれを聞いただけで腹が立ったよなぁ」
あの悪夢の幼馴染みの女が暴力などを仕掛けた時に義経や藤沢さん、俺の両親が当時の担任に相談や苦情を言いに来ても担任は『当事者同士で話し合え』の一点張りだった。
義経の親父さんも苦情を言いに来たが、同様の塩対応でどうしようもなく、さらに教育委員会に訴えても、校長が担任を庇うのでどうしようもなかった。
『結局、事が大きくなったのはあの時なんだよな』
『うん。 翔太くんが高熱で学校を休ませないといけない状態なのに、あの女が無理やり引きずって来たんだよね。 翔太くんの様子がおかしかった事に気付いた別の先生が救急車と警察に通報したんだよね』
「あの時は熱のせいで気を失ってたけど、義経が殴られたんだって?」
『ああ。 救急隊員や通報した先生だけじゃなく、俺も殴られたからなぁ。当時は13歳だったから、良くて児童相談所への一時保護から児童養護施設への収容だからなぁ』
「確かにな……」
七海や圭太は黙って今の話を聞いた。
あの女に無理やり学校に連れ回された時に高熱で気を失ったが、病院で藤沢さんから救急隊員や通報した先生だけでなく義経もあの女に殴られたと聞いた。
だが、当時は13歳だったのでよくて児童相談所への一時保護から児童養護施設への収容。
一応、今では少年院入りも可能だが、それは人を死なせたなどで児童相談所経由で家庭裁判に持ち込まれた上でそういう処分を言い渡されない限り入れないようだ。
『とにかくこっちは何とか平和だ。 お前の今の学校の友人にもよろしく伝えてくれ』
『七海ちゃんにもよろしく言っといてね』
「ああ、分かった」
そう言って俺は、義経との通話を終えた。
向こうは向こうで、何とか平和になって安心した。
「向こうは向こうで無事平穏らしいね」
「どうもそうみたいだ。 藤沢さんがよろしくと言ってたぞ」
「そっか、後でメールしてあげないとね」
「んじゃ、早く飯でも食いますか」
義経との通話を終えた俺は、七海と圭太と一緒にいつも通りの昼食を済ませた。
転校生の九条さんとは、ある程度落ち着いたら話せるだろうが、義経との距離が気になるよなぁ。
そう思っていたら……。
「あれ、九条さん?」
「んあ?」
「お?」
「あれ? 確かみんなはクラスメートの……」
何故か九条 久留里さんが屋上に弁当を持って来ていた。
まさか、こんな形で彼女と話すきっかけを得るとは思わなかったなぁ……。
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