022 久留里の過去(久留里視点)
母さんが狂った老人によってお腹の子を流産させられただけでなく、二度と子供が産めない身体にされた事が、瞬く間に九条分家達にも伝わった。
反応としては大体は、妊婦への暴力をかました老人への報復をというのが沢山あったので、父さんは弁護士を通じて慰謝料を求めた裁判を行う構えだった。
ただ、分家の一部に本家の子供が僕しかいない事への不安と不信が渦巻いていた。
これを否応なしに聞いてしまった僕は、本家の娘としてのプレッシャーに苛まれた。
そんな中、色々一人で考えてしまった結果、なめられないようにと常に強気にならないといけないと思い、常に強気で話す事を心がけるようになった。
それがプレッシャーから逃げる一手だと知らぬまま、従兄弟を傷つける結果になるとも知らずに……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
母さんはショックで寝込んだまま、その日はやってきた。
九条家の本家と分家達が一斉に集うイベントに、父さんと僕は参加していた。
父さんがスピーチで色々言っている間に、僕は周囲を強く睨みを利かせていた。
それを感じ取った分家の一部は、その視線に怯えて僕から視線を外した。
護衛さんから聞いたのだが、当時の僕は何だが近寄りがたいオーラみたいな何かを感じていたみたいだ。
そして、視線に関しても自分達が睨まれていると感じ取っていたらしい。
そんな異様な雰囲気が漂いつつあった中で、メインの食事会が開かれた。
僕は周囲からなめられないように常に睨みを利かせながら食事をしていた。
そんな中、誰かに話しかけられたのだ。
僕は無意識に警戒しながら、話しかけてきた相手の方に振り向き、こう返してしまった。
「何か?」
「ひいっ!?」
(あ……!)
この時の僕は、この一言でかなりの圧を放っていたようで、当時の従兄弟のヨッシーが恐怖に顔を歪ませた。
しまった!
そう思ったが時すでに遅し。
「どうしたの? 何かあったの?」
「ひ、あ……」
普通に話しかけたつもりが、相手には圧力を与えて話していると思われており、さらに自分がまるで貶されているような圧迫感をヨッシーは感じてしまったようで……。
「う、うわあぁぁぁぁ!」
「あ……」
ヨッシーが泣きながら会場を出ていった事で周囲がざわつき始めた。
父さんが僕を自分の部屋に戻ってと諭され、項垂れたまま自分の部屋に戻った。
その傍らで、父さんとヨッシーのお父さんでもある父さんの弟さんが色々話しつつ、父さんが謝罪していた。
父さんの尽力で、分家との関係はなんとか維持されたが、ヨッシーはあの時の件で僕に苦手意識が刻まれ、疎遠になった。
「こんな……こんなはずじゃ……。 うぅぅ、ヨッシー……。 ごめん、ごめんなさい……」
僕は自分の部屋のベッドに踞りながら、泣いた。
自分の行いに後悔しながら。
その後もヨッシーは、本家に来ることはなく、僕が謝るチャンスを逃してしまう。
そして、12歳の時にドイツの海外展開を行う事と母さんの癒しを理由に、僕は海外の学校に転校する事になってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
それから2年経った今、ヨッシーの友人であり、僕のクラスメイトかつ想い人である翔太くんが、僕とヨッシーを何とか会わせようと考えてくれている。
時間は掛かるかも知れないが、法月の件での恩返しとして、やってみせると息巻いていた。
仲本家と奥田家という護衛一家の双子の片割れと共に動いてくれているみたいだと、それぞれの片割れの妹達が教えてくれた。
上手く行かなくてもいい。
ヨッシーに謝ることさえできれば、心が晴れるかもしれない。
僕は、翔太くんを信じて今の学校生活を楽しむ事にしよう。
そう思いながら、僕はベッドに向かい、明日に備えて眠りについた。
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