016 翔太の本音(久留里視点)
僕と翔太くん、そして七海ちゃんと圭太くんが護衛グループのリーダーさんについていった先に、翔太くんにとっては悪夢の幼馴染みであり、暴力女の法月 恵梨香が女性の護衛さんコンビに拘束されていた。
「き、貴様……!」
法月が僕たちの存在を確認すると、こちらを睨んできた。
「翔太! 別の学校に私の許可なしに転校したのか!」
「お前に許可なんて取る必要はない! お前の両親が俺を転校するようにしてくれたんだがな。 このままでは危険だとな」
「そんな事は関係……むぐぅ!?」
翔太くんが震えないように僕がしっかりと手を握ってあげる。
それに安心している為、翔太くんも強気の発言をしていく。
圭太くんや七海ちゃんも、法月を睨み返しているし、発言を遮ろうとした法月の口を護衛さんが塞ぐ。
自分に都合の悪い内容は聞かないようにするために、発言を遮ろうとしてるんだけど、そうはいかない。
この女には、現実というモノをきっちり叩き込む。
「そもそも、翔太くんは元から君の事は好きだと思った事はないんだけど」
「貴様は無関係だろ! 黙ってろ!」
「いいや、黙らないね。 何せ、うちの従兄弟を殴ってくれたんだから、無関係なんかじゃないさ」
「従兄弟だと!?」
「九条 義経。 翔太くんの友人かつ僕の従兄弟さ。 九条家の一族の者が君に殴られたんだ。 それを聞いた親族達も怒り心頭なんだよ」
「私は悪くない! 私を引き剥がそうとする貴様らがいけないんだ!」
ああ、駄目だこの女。
自分が悪い事をしたなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
それどころか、僕たちに責任転嫁ときた。
こりゃあ、どうしようもないな。
「いい加減にしなよ! あんたのやってきた事でどれだけみんなに迷惑を掛けてきたと思ってんの!?」
「そうだぜ。 義経や翔太だけでなく、周囲の人間にも暴力を振るってたし、器物も壊していたしな。 今となっちゃ、少年院送りすら生ぬるいレベルのやらかしだからな」
「うるさい! 翔太は私にこそふさわしいんだ! 貴様らが翔太をたぶらかすから、軟弱者になったんだ!」
「黙れよ……」
「なっ!?」
圭太くんや七海ちゃんから言われても、相変わらず自分の非を認めようとしない法月にイライラしかけてきた時に、翔太くんが静かな怒りで黙らせた。
彼の声色からして、今までかなりのストレスと言うか法月に対する恐怖と憎しみがかなり溜まっていたみたいだ。
「お前のそのわがままを通り越した歪んだ思考のせいで、俺は女性に対して恐怖症に近い不信感が刻まれたんだ!」
「し、翔太……!?」
「それだけじゃない! お前のせいで俺の両親もストレスに蝕まれて碌に仕事すらできなかったんだぞ!」
法月の歪んだ思想による暴力などで、翔太くんの両親もストレスに蝕まれていたのか……。
いや、トラウマ的なものを刻まれた翔太くん以上に、彼の両親が精神的な意味で重傷を負っていたのかもしれない。
初日に聞いた変死体は、その両親が法月によって与えられたストレスによるもので自殺したのかもしれないし、そうでもないかもしれないが……。
それでも、翔太くんの怒りの内容だと、自殺の線が濃いのかもしれない。
あと、この後に法月が遮るべく叫ぼうとしたが、護衛さんに再び口を塞がれた。
「この際だ。 ハッキリ言っておく。 俺はお前が元から嫌いなんだよ! なのにお前は自分の都合のいいように書き換えて俺に寄生しやがって!!」
「……っ!!?」
翔太くんが法月が嫌いだというハッキリした発言に、口を塞がれている法月はショックを隠し切れないようだ。
しかし、それすら自分の都合のいいように改変して寄生していたなんてねぇ。
僕が彼の立場だったとしてもこれは迷惑この上ないよ。
「もう二度と俺の前に姿を現すな! お前がある意味で俺の両親を殺し、直接的に俺にトラウマを刻んだようなものだからな! これ以上関わりたくないんだ!」
「う、あ……」
あ、容赦ない追撃に法月の顔が青ざめてる。
そりゃあ、自分にとって耳にしたくなかった内容を護衛さんによって聞かされてるんだしね。
さて、僕もしばらくぶりに発言しておくとしようか。
「とまぁ、そういう事だよ。 翔太くんはずっと前から君に対して憎悪を抱いていたというわけさ」
「な、何を言ってるんだ! 目を覚ませ、翔太! 貴様はその女に騙されて……!」
「騙されてねぇよ。 これは俺の本心だ。 あと、クーは俺の恩人だ。 恩人の悪口を言うなら、それ相応の痛みを与えてもいいって事になるが?」
諦めの悪い法月に翔太くんは拳を振り下ろす構えをしている。
彼の眼の殺気を感じた法月は、それが止めとなったようで放心状態になった。
護衛さんも法月を解放したが、へたり込んだままだ。
(あ……)
そして僕が法月の足元をよく見ていたら、どうやらショックで失禁していたようだ。
周りに水たまりが出来上がり、アンモニア臭が漂っていく。
「とにかくもうすぐ警察が来るはずだ。 お前は既に少年犯罪を犯してるから状況次第で少年院送りも避けられないかもな」
失禁した状態の法月に対し、そう言った翔太くんは法月に背を向けた。
圭太くんや七海ちゃんも背を向ける。
確かに、警察が他の護衛さんと一緒に来ていたようで、後始末を素早く終わらせてから法月を抱えてパトカーに乗せた。
僕と護衛さんが他の警察に色々と状況を説明をしてから、僕達も自分の家に戻ることにした。
「やっと、終わったな……」
「うん、お疲れ様。 よく言えたね。 そしてよく頑張ったね」
「クーが終始手を握ってくれたから、安心して言えたんだ。 これが俺ひとりだったら、あいつの圧にまた吞まれていたのかもしれない」
僕が翔太くんの手を握ったから、彼は安心して法月に対する本音を言えたみたいだ。
彼一人だった場合は、法月に対する恐怖に吞まれていた可能性もあったのだとか。
そう言った可能性があったのなら、僕が手を握って安心させた甲斐があったってものだ。
「こういう時は人に頼るのも重要だしね。 さ、帰って翔太くんを労ってあげるから」
「ああ。 ありがとう、クー」
「どういたしまして」
「俺と七海も一緒にいいか?」
「もちろんだよ」
「巻き込んだ形だしな、お詫びも兼ねてだな」
そんな話をしながら、僕達は自分の家に戻ってきたのだった。
これで、ひとまずは法月の呪縛は解けたのかもしれないね。
作者のモチベーションの維持に繋がりますので、よろしければ、広告の下の評価(【☆☆☆☆☆】のところ)に星を付けるか、ブックマークをお願いします。




