はずれスキル『常夏』のせいで永久凍土へと追放、死ぬ間際にスキルが覚醒し、あたりは真夏のビーチに。海の家をやってみたら、雪の女王が海水浴にやって来ました
「サマーよ、お前は成人してもとうとう火のスキルを扱えるようにならなかったな。
何の役にも立たないお前には、今日かぎりでこのコロニーを出ていってもらおう。
どこへなりとも行くがいい」
「わ、わかりました……」
コロニーの住人たちが集まる前で族長からそう告げられ、サマーはしぶしぶと従う。
外出用の防寒具があるロッカーへと向かおうとしたのだが、その背中に非情なる一言が突き刺さった。
「待つのだ。防寒具の類いは一切持ち出すでないぞ。
防寒着は貴重なものだ。ここを出て行く者に、やるわけにはいかん」
「ええっ!? 普段の格好のまま、外に出ろというのですか!?
そんなの、他のコロニーに着く前に死んでしまいます!」
空が暗雲に覆われ、地上が薄闇に閉ざされてから数千年。
世界は吹雪の止まない永久凍土と化していた。
季節という概念は人類の中から消え去っていて、『夏』も『冬』という言葉もすでに忘れ去られている。
太陽はおとぎ話の中だけに登場する、架空の存在となっていた。
人々はコロニーと呼ばれる建物の中で暮らし、食料を求める時以外はずっと屋内で過ごしていた。
火を扱えるスキルのある者は権力を持ち、それ以外のスキルの者たちは虐げられる運命にある。
サマーはとあるコロニーにある、『フレイム』一族に生まれた。
フレイム一族は代々、火を扱うスキルを持った子供が生まれ、長きにわたってこのコロニーを支配していた。
フレイムが持って生まれたスキルは『常夏』。
この世界では、もう『夏』という言葉すら誰も知らなかったので、このスキル何なのかわかる者はいなかった。
それでもスキルの効果が発揮されればまだ良かったのだが、『常夏』スキルはサマーが成人するまで、なんの力ももたらしてはくれなかった。
そしてついに、族長から追放を言い渡されてしまう。
サマーは着の身着のままでコロニーの外に放り出され、真っ白な吹雪のなかをひとり歩いていた。
身体は凍え、手足の感覚がない。
歯の根はとっくに凍りついていて、ガチガチと鳴らすこともできなかった。
さらにその日はブリザードが吹き荒れ、右も左もわからない。
とうとう嵐のような突風が吹き荒れ、サマーの身体は木の葉のように舞い上げられてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
サマーはかなりの距離を吹き飛ばされたあと、深い雪に埋まった。
雪がクッションになってくれたおかげで死なずに済んだが、もう全身が氷像のように冷たくなっていた。
どこまで飛ばされたのかわからない。もはやここがどこかもわからない。
起き上がるどころか、目をあけることもできなくなっていた。
白く霞む景色のなかで、サマーは強烈な眠気とともに、死を覚悟する。
「も……もう、ダメ……だ……」
彼が最後に見たのは、目の前に開いたスキルウインドウに、浮かび上がった文字であった。
『スキル「常夏」が覚醒しました!』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
肌をじりじりと焼くほどの暑さ肌に感じる。
瞼の裏が真っ白になるくらいの強い光を受け、サマーは目を覚ました。
「な、なんだ、いったい……!?」
目を開けると、降り注ぐ強い光。
直視してしまい、うわっ!? と目を押える。
飛び起きると、あたりは見たこともない光景が広がっていた。
サマーのいる周辺数百メートルには、陽炎がたちのぼるほどの熱い砂浜。
しかも目の前には、永久凍土が溶けたのであろうか、寄せては返す大きな水平線がある。
空を見上げると、屋根のような暗雲にぽっかり穴が開いていて、先ほど直視した強い光の塊が浮いていた。
はじめて目にするものばかりであったが、サマーはそれらが何なのかすぐにわかった。
なぜならば、幼い頃にそれらを絵本で読んでいたからだ。
「こ、これは、砂浜……!? 目の前にあるのは海で、空にあるのは太陽……!?
しかも、ぜんぜん寒くない……!? もしかしてここは、天国なのか……!?」
起き上がってあたりを見回すサマー。
しかし、ここが天国でないこともすぐにわかってしまった。
なぜならば、背後にあった砂浜は数百メートル先で、見慣れた吹雪に変わっていたからだ。
「どうやら、ボクのいるまわり一帯だけが、こんなに暑くなってるようだぞ……?
でも、なぜ……!?」
そこでサマーはハッと思い出す。
意識が途絶える前に現れた、スキルウインドウの存在を。
「ま、まさか……!?」
半信半疑でスキルウインドウを開いてみると、そこには確かにあった。
常夏(効果発動中)
効果:あたりを『夏』に変える
と……!
「こ、これが、ボクの常夏スキルの力……!?
す、すごい! 極寒の地を、こんなに暑くするだなんて!
おかげで死なずにすんだぞ! やっほぉーいっ!」
喜びのあまり、諸手を広げて走り回るサマー。
しかし暑さですぐにバテてしまった。
重い服を脱ぎ捨てパンツ1枚になる。
喉が渇いたので海の水を飲んでみたのだが、しょっぱくて飲めたものではなかった。
「うげえっ、なんだこりゃ!?」
喉がヒリヒリしてきて、別の意味で命の危機を感じるサマー。
なんとか水を手に入れる方法はないかと思い、スキルウインドウを開いてみると……。
『常夏』スキルの下に、新しいスキルが出現していた。
ビーチハウス
効果:海の家を建てる
「海の家ってなんだろう? まあ、使ってみればわかるか」
さっそくスキルを使ってみると、砂浜を押しのけるようにして一軒家が現れた。
この世界では標準のレンガ造りのものではなく、木造の家。
表には『氷』の垂れ幕と、日よけのためのすだれ、そして大きなパラソルがある。
家のなかも風通しをよくするためなのかオープンな感じで、テーブルや椅子などが並んでいた。
日陰ができただけでも助かると、サマーはさっそくその中に駆け込む。
中にはこの世界では見たことのないものばかり。
しかすスキルの効果なのか、それらが何なのか不思議とわかった。
壁には『ラーメン』『カレー』『おでん』『ビール』などのメニュー。
浮き輪やシュノーケル、水着などが売られている売店、そして焼きそばやおでんの調理器具。
ガラスケースの中には、瓶ビールや瓶ジュースなどが詰まっていた。
サマーはさっそく、ガラスケースの中にあった瓶のオレンジジュースを取りだし、栓を抜いて一気にあおった。
「ぷはーっ! つめたくておいしぃーーーーっ!!」
『冷たくておいしい』。
それは吹雪に閉ざされたこの世界において、人類が数千年ぶりに感じたものであった
喉が満たされたサマーは、売店にあった海水パンツを取ると、その場で着替え始める。
そして……いつのまにか入口にいた、ふたりの少女と目があった。
「うわあああっ!? キミらは誰っ!?」
サマーは慌てて物陰に隠れる。
ひとりの少女は氷河のような長い髪に、雪の結晶のような美しいドレスを着ていた。
もうひとりの少女はオコジョのようなフワフワのポニーテールで、雪ダルマみたいなかわいらしいドレスを着ている。
ふたりとも唖然としていたが、雪ダルマの少女が切り出した。
「ご、ごめんなさい! 着替えを覗くつもりじゃなかったの!
わたし、スノウドロップ! スノウって呼んで!
こっちは姉のネバーウインター! わたしはウインって呼んでるわ!」
スノウは愛想のいい少女だったが、ウインはどこかキツい感じのする少女だった。
「まったく、城の前にこんなものを作って、いったいなんのつもりですの?」
「し、城? 城って……?」
ウインとスノウが指さす先には、吹雪に守られた城がそびえていた。
「あ、あれは、雪の城……!? まさかキミたちは、雪の女王!?」
『雪の女王』。雪の城に住むという、氷のスキルを操る一族の長。
その肌は冷たく、いるだけであたりの気温を下げるので、コロニーでは忌み子とされていた。
「質問に答えるのですわ、あなたは何者で、ここは何なんですの?」
ウインの声はぴしゃりと冷たかったが、暑いこの中では気持ちいいくらいだった。
「ボクはサマー。このあたりはボクのスキル『常夏』で作り出した空間で、ここは『海の家』だよ」
スノウは好奇心旺盛なのか、さっそくあちこち見て回っている。
ビキニの水着を広げ、「わぁ、これなにこれなに!?」とはしゃいでいた。
「それは水着といって、この海で着るものだよ。ボクもほら、着てるし」
海パンを示すサマーに、スノウは目を輝かせる。
「うわぁ、それいいね! ここ、すっごく暑いと思ってたんだ!
スノウちゃん、わたしたちもこれ着ようよ!」
「はあっ!? ウイン、あなたなにを言ってるんですの?
こんなわけのわからないところで、そんな極限の無防備みたいな格好になるだなんて……!」
「いーからいーから、早く早く!」
「更衣室なら、あっちにあるよ」
サマーが個室を示すと、スノウはさっそくウインを引っ張っていく。
それから数分後、ビーチ話題を独占しそうなほどの、白い肌の美少女たちが現れた。
ウインもスノウも、どちらも目もさめるほどのプロポーション。
スノウは「ああ、気持ちいいーっ!」と解放感いっぱいに両手を広げているが、ウインは恥ずかしいのか身体を抱いてもじもじしている。
サマーはふたりの少女をもてなそうとガラスケースからコーラの瓶を2本取り出して栓を抜いた。
もうすっかり、海の家のマスターっぷりが板に付いていた。
「冷たい飲み物をどうぞ」
「わぁ、ありがとう! 暑いなか歩いて、ちょーど喉が渇いてたんだよね! いただきまーっす!」
なんの疑いもなく、んぐんぐと瓶をあおるスノウ。
ウインは「なんですの、この黒い液体?」といぶかしげだ。
「コーラっていう飲み物だよ。スカッとしておいしいから飲んでみて」
相方のスノウがさも美味しそうに飲んでいるので、ウインもままよと一気にあおった。
次の瞬間、彼女は鼻からコーラを逆噴射しながら、もんどり打って倒れてしまう。
「わあっ!? 大丈夫、ウインちゃん!?」
「げほっ! がほっ! ほごっ! な、なんですのこれ!? 口のなかで爆発しましたわ!?」
数千年のあいだ、この世界にはコーラというものがなかった。
なぜならば、『夏』とともに消え去っていったから。
――これは、ひとりの少年とふたりの少女の、永遠に終わらない夏の物語である。
そういえば私は短編を書いたことがないなと思い、ためしに書いてみました。
このお話が連載化するようなことがあれば、こちらでも告知したいと思います。
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「つまらない」の☆ひとつでもかまいません。
それらが今後のお話作りの参考に、また執筆の励みにもなりますので、どうかよろしくお願いいたします!




