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転生者は進めない

作者: 二筒

いちいち曖昧でなんだかよく分からないと思います。

こういうものが書きたいと思ったからといって、そういうものが書けるわけでは無いのだなあ。と、世の作家の方々を尊敬する日々です。

ふと、篠突く雨という言葉が頭を過ぎった。


いつ、誰に教わったか、もう思い出せぬもどかしさを持て余していると、この言葉を初めて聞いたとき死の付く雨かと勘違いした記憶が蘇る。

あの時こそ正しく篠突く雨であったが、今は死の付く雨の方が正しかろう。

正しくないことがあるとすれば、この絶え間なく降りしきる水滴が雨ではないということぐらいではないか。


壮大な水音を立てる滝の周囲は、撒き散らかされる水飛沫によりあらゆるものが形を失ってゆく。

私が寝ていたはずの洞窟も、水に削られてすっかり日当たりが良くなってしまい、これではもう雨も風も凌げまい。


巨大な水たまりになってしまった寝床から目をそらし、代わりに滝を見上げながら神の存在について思考を巡らせる。

確かにあの時私が、神と名乗るものに丈夫な体を要求したのは間違いない。

だがしかし、果たして私は何になってしまったのだろうか。

私という存在が何故ここに在るのかもよく分からぬことが多い。

死して異世界に転生したのか?それとも異世界へ迷い込んだか?そも私は何を持ってここを異世界と判断するのか、それすらも曖昧である。


神と名乗るものと会話した記憶こそあれど、それが現実かと問われれば返答に詰まるのは間違いない。

この体が昔の私の体ではないと知るのが私のみであり、他人に説明したところで誰が信じるだろうか。

むしろ神と異世界の存在が信じられるのであれば、あるいは優れた科学者が神を名乗り、私の意識のみを別の体に移し替えたということだって十分にあり得るのではなかろうか?


神と名乗るものとの会話を思い出す。

この世界の水にはナノマシンなるものが含まれると言う。

目に見えぬほどの小さな機械が、触れるもの全てを分解せんと律儀に働き続ける水であると言う。


なれば何故水は分解されぬのか?と問えば、水もまた分解され続けていると返された。

何故ナノマシン同士は分解されぬのか?と重ねて問えば、ナノマシン同士も分解しあうのだと返された。


ならばそのようなものは放っておけばよい。いずれ分解しあってナノマシンも消えるだろう?私がそう言い捨てれば、神と名乗るものはまた回答を返す。

ナノマシンを作る機械が、このナノマシンを生み出し続けていると言う。それゆえ数が減らぬと言う。


ふと、神と名乗るものに問いかけたくなった。

この水にナノマシンなるものが含まれるというならば、何故私は分解されぬのか?と。

また、ナノマシンを作る機械は分解されぬのか?と。


こうして滝を眺めている間にも、滝は岩肌を削りながら気づかぬほどにゆっくりと、しかし確実に後退し、滝壺はその広さを増してゆくように思える。

これがナノマシンの働きによるものであれば、水飛沫を浴びた岩が溶けるようにゆっくりと形を失って行くのも、きっとおかしなことではないのだろう。

同じく飛沫に濡れ続ける私が分解されないことに目をつぶれば、だが。


神と名乗るものは最後にこう言った。

生き物を見たければナノマシンの少ない方へ進めばよい。ナノマシンの発生源から遠ざかれば生き物がいるだろう、と。

どこへ進み何を成すかは自由であり、もし発生源を破壊したければすればよい。ナノマシンの濃い方へ進めばたどり着くと言う。


私は丈夫な体を望んだが、こうなればナノマシンを見るなり感じるなりといった力を望むべきだったかとも思う。

いや、もし本当にこの滝の水にもナノマシンが含まれるというなら、そして丈夫な体のおかげで私が無事なのだとすれば、私の望みはそれほど間違いではなかったのかもしれぬ。


さて、と呟いて滝に背を向けて、滝壺から流れる川に目を向ける。


私が山中に立ち尽くす自分の存在を認識してすぐのこと。

周囲を見渡し手頃な洞窟を見つけ、そこで眠りについてからどれだけの時間が過ぎたのだろうか?

寝れば覚めるのは道理であり、そうでなくともいずれ空腹か渇きで目覚めるだろうと、深い洞窟の奥の奥で日が当たらぬなら朝日に起こされることだけはあるまいと考えていたのは覚えている。


だがしかし結果はと言えば、滝が洞窟を掘り返し、土と水と日の光を盛大に浴びるまで延々と眠り続けてしまったらしい。


よもやこの体は飲食を必要としないのではなかろうか?もしそうであれば、果たしてそれは生き物と呼べるのだろうか?

川に沿って進めば生き物に会えるかも知れないが、そこに混じることは可能なのだろうか?


再び滝に目を向ける。

滝を越え、さらに進めばナノマシンの発生源にたどり着くのかもしれぬ、しかしそれに何の意味があるのだろうか?

破壊してもよいと言われたからと言って、破壊できるかも分からぬ上に、そも本当に破壊してよいのかすらわからぬ。

機械と言うからには誰かが何かの目的を持って作ったものだろうに。


どちらに進むにせよ、急いで決める必要などないのだろう。

そう自分に言い聞かせて、ぼんやりと立ち尽くすことにする。


日が沈みまた昇っても、私の進むべき道はいつまでも決まらなかった。


篠突く雨

という言葉を思い出したのが書いたきっかけでした。

書いてみて思いました。

主人公は全裸じゃないと辻褄が合わないのですが、それに言及出来なかったな、と。

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