96.私が愛に生きたが故に
「……ん?」
動く影を感じて、ふっとそちらを見ると。
「ミレイ先輩?」
ドアの隙間からじっと伺う目と目が合った。
「……カティーは?」
「まだ居ませんけど……」
「ア――ッ! 怒ってるじゃない! 怒ってるじゃない!?」
ささっと中に入り、ココアラルの隣にしゃがむ。
「カティーの着替え部屋、ノックしても待っても反応なくて……こっちかと思ったのに居ないのね。これはやらかしたわ。ねえもうどうするのよ!」
「やー、責任取り切れないですねー」
「なにかあったのか?」
「ミレイ姉様がカーティア様を怒らせるなんて……天変地異の前触れですか?」
「ココが悪いのよ!」
「責任転換良くないと思いまーす。ミレイ先輩の発言のせいでしょ」
「事の発端はココがあのコーディネートしゅるからでしょ!」
「ミレイ姉様が噛んだ……」
ココアラルの襟首を掴み、ガクガクと頭を揺らす。
ココアラルは他人事に笑い、ミレイが少し涙目だ。
「とりあえず、怒らせたんだな?」
「お、怒らせたつもりなんてありませんよ!」
「でも怒ったんでしょう?」
「お、おこ……って……」
「無言でお部屋に入って行きましたね! ねっ、嫁がたくさんいる先輩!」
ココアラルは普段の仕返しと、ここぞとばかりに楽しく責め立てる。
「あのトレディアス嬢が無言」
「嫁がたくさん……?」
「グッ……」
喉の奥から出るうめき声を残し、その場に倒れるミレイ。
「いちばんは……オンリーワンでナンバーワンなのはカティーなのよぉ……! わかって……わかってちょうだいカティー……愛に生きた私を許して……」
床に伏したまま、ぶつぶつと呟き続けていた。
「戻っていらっしゃると思ったら、なにそこで虫のように床に這っていらっしゃるのかしら!」
「おい! 早く次の勝負決めろ!」
言い争いをしていた2人が、ミレイが戻ってきていることにやっと気づいた。
ミレイの様子などお構いなしに、事を進ませようとしてくる。この2人にとっては、勝負が、いやその勝敗がなにより重要だった。
「うぐ……次は、移動するわ……」
ゆっくりと起き上がったミレイが、ついてきなさい、とのそのそと動き始めた。
屋敷って、日本家屋と違って靴脱いだりしないと思うので、ミレイはきったねえとこに寝てますね。もちろん掃除はしていても、取れない汚れとかあると思うんですよね(笑)
床に寝れるから日本に生まれてよかったーって思います。作者はよく行き倒れます。夏とかとくに、布団から出て風と冷たい床を求めて。朝起きたら廊下に寝てて家族に踏まれたり。