表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/137

9.悪役令嬢も攻略済みでして


「そうやって二人きりの世界をつくるから、クラスでも周りがあなたたちに近寄り難くなるんですのよ! もっと社交性を持って接してくださるかしら!」

「あら、またなにかあった? 他の方々と私たちを取り持ってくれているのだものね、ディリーは」

「なにもないですわよ。教科書に落書きをしたり荷物を隠したりなどさせませんもの。ただ、交流を持たねばあなたたちの悪評に尾びれ着いて回ってしまいますのよ」

「阻止してくれたのね、ありがとう」

「あっ、なたたちのためじゃないですわ! 規律を守るためにやったことです!」

「でも、されそうになっていたのでしょう?」

「それは……そんなお話をしている方たちがいらっしゃったので……って! だからちがいますわ!」


 ああだこうだと騒ぎ立てる2人を見つめるココアラルに、コンラートがそっと寄ってくる。


「あの2人はいつもこうだから気にすんな」


 一種のじゃれ合いである、らしい。

 甲高い声がきゃんきゃんと部屋に響く。

 間に挟まるカーティアも、困惑というより楽しそうに笑っている。


「いいですわね! 明後日のお茶会には、ぜったい、ぜーったい参加してくださるかしら!」

「前もって個人的に伝えてくれるのね。わかったわ。伺うことにしましょう」

「ショートケーキを手配してますのよ、きちんといらっしゃってくださいな!」

「わあ、パーデラさまの持ってきてくださるショートケーキがいちばんおいしくて好きなので楽しみ」

「別にっ、カーティアさまに来てほしいからじゃありませんわよ! あたくしが食べたかったんです」

「そう言って前回は一番大きく切り分けたやつをあげてたわね」

「そんなのは気のせいでしょう!」


 もう! と一息ついて、パーデラはドアに向かう。……いや、向かおうとした。


「きゃっ」


 パーデラは自身のドレスの裾を踏み、バランスを崩す。

 不意に伸びた腕がテーブルに置かれていたグラスをはじき、ふわっと浮いて中身の紅茶も舞う。

 そのままパーデラは転び、紅茶は間近に居たカーティアのドレスにかかった。


「いやタイミング」


 思わずココアラルも口から声が漏れた。

 確かに、イベントとしてヒロインが攻略キャラと勉強会をしているところ割り込んだ悪役令嬢に紅茶をぶちまけられて台無しにされる出来事があった。

 恐らく運命として定まっていたそれだ。シナリオの強制力とでもいうのだろうか。


「カティー!」

「だいじょうぶ、もう冷めてたし、洗えば落ちるわ」


 ミレイが立ち上がるが、カーティアが制す。パーデラが静かに伏しながら小刻みに震えていた。


「あ、あたくし、わざとじゃなくってよ」


 そういえばここで悪役令嬢が言う台詞は「あら、わざとじゃなくてよ」だったかなあ他人事にと記憶をたどるココアラルだ。

 カーティアがすっと立ち、ミレイの横を過ぎてパーデラに手を差し伸べる。


「大丈夫? 痛くない?」

「い、いたいですわよぉ……」


 コンラートも無視はできなかったのか、さっと近づいて手を出した。

 両手に2人の手を借り、起き上がったパーデラは目に涙をためていた。


「感謝しますわ。……カーティアさま、ドレス……」

「気にしないで。パーデラさまこそ頭は打っていない?」

「すぐに落とせるもの。怪我はしていない?」

「それはありませんわ。……その」


 ぱっと手を離し、つかつかと扉へ向かうパーデラ。

 扉までたどり着くと、少し赤く染まった顔を上げて。


「いいですこと! 忘れないでくださいませ! 明後日の15時に第2ティールームですからね、ここにいらっしゃるみなさまが証人でしてよ。……騒がしくしてごめんなさい」


 それとなく、無関係だったところまで巻き込まれた。

 が、そこに口を挟む間もなく去って行く。

 足音まで聞こえなくなった頃に、ココアラルがようやっと言葉を発した。


「……え、悪役令嬢?」

「そうよ」


 間髪入れずミレイが返答する。

 そうして、まだ聞いてもいないが疑問になっているだろうことを告げてくれた。

 まずカティーがいじめられそうになったところ、割り込んだミレイ。そこからパーデラのトゲのターゲットはミレイになったが、のらりくらりと躱し。ミレイはなんだかんだと突っかかってくるパーデラを無視はせずちょっかいを返しながら接していたら、自然と好感度が上がったようで。


「言葉の悪さはそのままに、友人みたいなポジションになっちゃって。ツインテールのが似合うわよと言ったら翌日からああなってたし、素直なのよね。照れが全面に出るから当たりが強いように見えるけど」

「ツンデレ作り上げてんじゃないわー! デレデレとツンデレに挟まれてギャルゲの主人公か!?」

「じゃああとクーデレとヤンデレね。……いえ、ヤンデレ枠はいたはずよね」

「隠しキャラの話はいらないかな」


 ゲームんい登場した隠しキャラヤンデレを思い出しながら、再度手元に視線を戻す。


「そういうことだから、明後日は勉強会、無しでいいかしら」


 攻略キャラ2人に囲まれての勉強会などココアラルも息が詰まるので、おとなしく頷く。

 真剣に文書に目を通していて無言のアラルドを横目に、授業の復習に勤しむことにしたのだった。




悪役令嬢がツンデレ、というのは定石ですもの。

勉強編まだ続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ