83.諦めるしかない罰ゲーム
食事を終えたココアラルが自室で見つけたものを握りしめ、呆然と立ちつくす。
部屋に入ってすぐ、机の上に置いてあるソレを見つけた。
それだけでなんとなく察したし、けれど信じたくなかった。
肌触りのいい黒い生地のワンピース。白いレースのカチューシャと、フリルをあしらった白いエプロン。ご丁寧にベージュのストッキングまで添えられていた。机の下にはちょこんと黒く輝くローファーが添えられていた。
持って広げたソレは、まさしくメイド服であった。
「も、ももかちゃん~ッ!」
前世からの趣味は変わらずかと、わかりきっていたことをさらに認識した。
もちろんメイドは可愛い。デザインだってクラシカルやミニなどあるが、どれも可愛いと思う。
だが自分が着るとなれば別だ。
ミレイは前世からたまにこういったものを着ては遊んでいて、巻き込まれたものだった。
それはただ、家で着て遊ぶだけのものだったから、少しの抵抗はあるものの着ることはできた。
だが。
「こ、これを着て行くの……!?」
食堂へ行けば、見せる相手はミレイひとりではないわけだ。
ドアの外から「こんなの着られませんわよぉ!」という叫びが聞こえたので、パーデラも同じ目にあっているのだと気づいた。
ということは。
「……え、まさかアラルドとコンラートも?」
地獄絵図か。
こうやってとんでもないことをし出すミレイを止められる術はない。可能性があればカーティアだが、彼女も割とミレイの肩を持つということがよくわかっている。
はぁ、と大きく息を吐いて腹をくくる。これを回避しようとして、更にひどい罰を与えられても悲惨だ。
袖を通してワンピースを着ると、ふくらはぎの中ほどくらいの長さ。ふわりと広がる裾とエプロンのフリルが可愛らしさを演出している。
ストッキングとローファーまで履いて、親切に置かれたゴムを取った。それで降ろしっぱなしだった髪を耳の下でツインテールにして、くるりと横に一回転。
「わあ、布量」
広がったスカートをぱっぱと抑えて、カチューシャをしっかりと頭に乗せる。壁際にあった鏡で全身を確認して、微調整。
ヒールの軽快な足音に少しいい気分になりつつ、一度ベッドに腰かけた。
「……いや、ぴったりすぎない?」
服のサイズどころか、足のサイズまで。
パツパツにならないし、ブカブカにもならない。まるでそう、あらかじめ用意されていたような。
「……、……いや、さすがに考えすぎか」
そんなまさかと首を振って、深呼吸をしてから立ち上がり、いざドアを開けた。
メイド服は浪漫。可愛いは正義。
種類多きメイド服、好み分かれるメイド服、ミニもクラシカルもフリルも和もどれもかわいい。けれどやっぱり黒がいいよね!