74.勝敗は
「アラルド殿下!?」
パーデラが驚き目を開く。
「そっちは終わったってことか」
「ああ。ユーリ殿がやってくれた」
コンラートがアラルドの横に現れ、パーデラが一時手を止める。
「俺はまだ近づけねえな」
「手当たり次第に投げているのか。どう飛んでくるか予測不能だ」
「本当にね! パーデラ先輩はいい加減にしてくださいね! 消すのも、一苦労なんですからね!?」
燃え移った最後の火を消し終わり、ココアラルがわっと叫ぶ。
ところどころに煤けた場所が見受けられて、アラルドが苦笑する。それに対し、ココアラルがむっと口を尖らせた。
「アラルドさま、笑いごとじゃないんですよ! あたし、まだまだ正確に狙い撃ちできないから!」
「ふふ、それじゃあいい訓練になったことね?」
「パーデラ先輩はもっと自分をマイナスに捕えてください」
「これは楽しい争いだったね、コンラート?」
「いやあ、当たったら焼かれるから割と真剣なんだけども? ……ま、俺も段々コツ掴めたし、もっかい試してくるわ」
仲良さげに話すコンラートとアラルドを見ながら、パーデラがふわりと火球を動かした。
「いくら殿下といえど、この場では敵ですわ!」
「《気配遮断》」
「あ! また消えましたわねザコンラートごときが!」
「じゃあ、僕も挑もうかな」
「せいっ!」
パーデラがまたあらゆる方向に攻撃を始める。
しかし、相手は2人に増え、しかも1人は姿が見えず。
「くっ……」
アラルドに関しては、その火球を切り伏せて進んでいく。剣が熱を持ち少し赤く染まっているが、まだ耐えそうだ。
「キャンッ!」
目視できるアラルドに集中してしまうと、コンラートの魔法が飛んでくる。攻撃力こそないが、火球の操作が更に不安定になる。
パーデラ自信もいらいらしてきているのか、雑な球が飛び交った。
そうして、アラルドが。
「あっ……!」
パーデラの横をすり抜け、ココアラルの眼前へ現れた。
「ココアラル嬢は、フラッグをかわいらしい使い方しているね」
「アラルドさまは、手を伸ばしにくいところにありますね」
じりっと互いに距離を詰めず、手を伸ばしてもぎりぎり届かない範囲。
パーデラは変わらずコンラートを狙っていて、もはやアラルドは眼中にない。
「……アラルドさま」
「ん?」
ココアラルが一息吐いて。
「あたし、つぎもみんなで合宿したら楽しいだろうなあって思うんです」
と言って小首を傾げた。
「きっと、アラルドさまが考えたプランは楽しいだろうなあ」
それはまさしく。
「アラルドさま、楽しいスケジュール組んでくれますよね?」
事前打ち合わせでミレイが考えていた作戦だった。
にっこりと笑ってアラルドを見つめる。動かない彼に、さすがに失敗だったかと冷や汗をかく。
「……そうだな」
しかしながら、応えは単純明快で。
アラルドは腰からするっとフラッグを取ると、ココアラルに差し出した。
「次は海にしよう。コウトラ嬢の言っていた通りに、そして港でショッピングの時間なんかも取り入れてもいいだろうな」
彼女たちの完全勝利だった。
単純な男ですよ彼は。
猫のようなくりくりなおめめで見つめられたら一発アウトです。