5.みんなで交流
何故かそのお茶会に王太子、アラルドが参加することとなった。
ココアラルの隣にすんなり座ろうとしたが、ココアラル渾身の拒否。王太子だろうがなんだろうが、レディーの髪を触りながらなんてとんだ変態だった。
そんなわけで目の前に座ることとなったアラルドは、ココアラルにあれもこれもとお菓子をあげようと必死だが、警戒心マックスの彼女はそれに手をつけることはなかった。
「そっか……ミレイ先輩とトレディアス先輩と殿下は同じクラスなのですね」
「そんな他人行儀に呼ばないでいい。是非アラルドと」
「むりです。身分も違うし友達じゃないんですから」
「わたしも、トレディアスって長いし、カーティアって呼んでほしいなあ」
「わかりました、カーティア先輩」
「この差は一体……? だがそんなツンツンしたところもまたいい」
「ミレイ先輩、このひといつからこんな残念キャラに?」
「普段いい顔ぶってるだけで、猫発見したときは最初からこんなもんだったわ」
「ゲームに猫は出なかったもんなァ」
「そういう隠し属性いらないんだよ公式~!」
公式というなればこの世界は選択肢が出ない故ゲームではないので、世界をつくった神が公式となるわけだが。
コウシキ? と首を傾げる二名は置いといて、ココアラルは続ける。
「じゃあ、平民のコンラートは知ってますか? 実は幼馴染みなん…」
「えぇっ!? 攻略キャラのひとりと幼馴染みポジションで攻略キャラのひとり王太子に声掛けられてるとか、今作のヒロイン枠はココアラル!?」
「いやいま隣にいるのが真のヒロインな! じゃなくって!」
「すまない、レオハルトは譲れないッ! 同担拒否だわ」
「とらねぇ~! いまを生きてれば身分差で無理みがつよ~! いやほんと話進まないんでやめてください」
スンッと真顔になったココアラルに、ミレイとロガスがおとなしく「はい」とこたえる。
で、とつなげて。
「彼、学校の話はしないからてっきりカーティア先輩たちとは出会ってないものかと……」
「出会ってなくはないんだけど……、同じクラスだし」
ミレイが言うには。
ゲーム本来のコンラートは、根暗ネガティブマンで平民である自身を卑下して教室の隅で静かにしているところをヒロインに声かけられる。
が、ここにおいてコンラートは平民の卑屈さを感じさせることなく、ごく普通の男子高校生であるため、攻略キャラかどうかも怪しくなっていた、らしい。
「転生枠を疑ったけどね、パソコンとかアプリとか知らない単語だって言うから違うのかなーっとは思っていたのよ。ココアラルとのつながりのせい?」
「ラート……いえコンラートには、小さい頃に前世の話をしていて……。一緒に遊んだり連れ回したりしていたから……?」
「あ、そうなの? 可能性なくはないわね。でも前世話知ってるなら、次の回は呼びましょう」
ゼンセ? と聞き返すアラルドにココアラルは「黙って聞かなかったことにしてください」と一蹴する。
「いやでも絡みなかったんだろ? いくらクラスメイトとはいえ、突然貴族からお茶会ってどうなの」
「大丈夫よ、応えを聞く前に連れてきてしまえばいいのだから」
「いやそれ誘拐!」
久々の再会に、会話を楽しんでいたところで、鐘の大きな音が鳴る。
「あら、もう帰宅の時間?」
よい子のみなさんはおうちへ帰りましょう、という17時の鐘だった。
「ミレイ、ずっと楽しそうだったね」
「あなたと一緒だから、一層楽しいのだわ」
「またお会いましょう、ねこちゃん」
「お忙しい殿下を煩わせるわけにはまいりませんので、結構です」
「やべ、今日は兄さんと模擬試合しようって言ってたんだった。……滅多打ちにされそう」
「あなたのお兄様は笑顔でキレるタイプだったわね」
「表情が読めないの、怖いですね」
口を動かしつつ、手も動かして帰り支度を整える。
ココアラルも、二日目となるいまだ慣れない寮に帰るのだ。
だいぶ薄暗くなった窓の外を眺めて、寂しく過ごすかもしれないと杞憂した気持ちは一切ないなという、だが今生もツッコミポジションかあというあきらめを悟った。
残念枠、王子。……いえ、残念枠はまだいるつもりです。
作者は犬好きです。猫も好き。犬も猫もウサギもハムスターもそのほかも飼ってる。