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31.あたしの家族


 観覧席の端に、その姿はあった。


「おとうさん! おかあさん!」

「ココアラル! 見てたよぅ」

「1位だったじゃないか!」


 ココアラルと同じくらいの身長の母と、それより15センチほど大きな父。

 きちんと身だしなみを整え、恐らく持っている中で一番高価であろう服を着ていた。


「ま、走るので負けないよね」

「あの程度の障害じゃあねぇ」


 母が持参した鞄から弁当を取りだす。


「さ! 昨日の晩から仕込んでたんだ! 食え食え!」


 シェフが作っただのなんだのの声も周囲から聞こえるが、たとえ質素でも母の作ったものがいい。

 食べて育ったそれらを、どうしてけなすことができようか。


「おかあさん、呼ばれてからずっとそわそわしてたんだよぅ」

「仕方ないだろ! 学園なんて初めてだし、かわいい娘の姿を学園での見るんだぞ!」


 のんびり屋の父と、男勝りではっきりと物事を言う母。

 前世とはまったく違うけれど、いまの両親もとても好きだ。


「あっ! たまごやき! これはもしかして」

「そ! お願いして、もらえたんだ、卵!」

「やっぱりー!」


 しっかり焼いた、かためのたまごやきをまず頬張る。

 そして勢いのままに次々と食べ物を口に入れていく。


「ひさびさのおかあさんのごはんだあー!」

「学園はどうだ? いじめられてないか?」

「うん、友達とも先輩とも仲良し」

「心配してたんだよ、身分で虐げられたりしていないかって」

「全然! むしろみんないいひと! ラートも居るし、平気だよ」

「コンラートは2年生でしょ? 会えたの?」

「うん、まあ。ラートと同じクラスの先輩たちと仲良くてね、そのつながりでお茶会なんかもしてるんだよ。テスト勉強もしたの」

「楽しそうでなによりだ」

「ココアラル嬢?」


 ふと背後から聞き覚えのある声がして、振り返る。


「アラルドさま」


 口の中のものを飲み込み、立ち上がって身体ごとそちらを向く。


「ごきげんよう」


 ぺこりと挨拶をする。アラルドも挨拶を返し、ココアラルは両親を手のひらでさした。


「あたしの父と母です。このひとは第一王太子のアラルド殿下」

「え!?」

「殿下!?」


 両親ともども慌てて立ち上がろうとしたのを、アラルドが片手で制す。


「とはいっても、いまはただの学生です。お気になさらず」

「でも……」

「アラルドさまはどうしてここに? ごはんは食べましたか?」


 ココアラルが、両親が言う前に尋ねる。


「ああ、見回りを少しね。既にいただいたよ」

「そうなんですね」

「曲がりなりにも生徒会役員だから、仕事をしないとね」

「ここでお話してる場合ですか」

「それくらい大丈夫だよ。ココアラル嬢の後ろ姿が見えたからつい」


 娘が普通に王太子と話しているところを、口が空いたまま眺める両親。

 アラルドがそちらに向き直って。


「お嬢様とは、懇意にしていただいております。どうぞご両親も、よろしくお願いします」

「えっ、あ、そ、その、こちらこそ……?」

「うちの両親は貴族とも話したことないような一般平民ですよ! 固まっちゃってるじゃないですか! ほいっ」

「むぐっ!?」

「あの店の卵と、母の作ったたまごやきです。どうです、美味しいでしょう!」

「こここ、ココアラル!?」


 アラルドの口に卵焼きをぶち込み、ふふん、と自慢げにするココアラル。

 王族の口に食べ物を突っ込むなど、下手をすると不敬罪やらで捕まりそうな事案だが、アラルドも気にすることなくそれを咀嚼した。


「美味いな! 塩っぽい卵焼きなのか」

「うちはしょっぱめなんです。見回り、がんばってくださいね」

「ああ。ありがとう」


 アラルドがにこやかに笑い、その場を立ち去る。

 親たちが居る手前、不審な動きはしないようだが、あまりにも綺麗な笑顔だった。



女子着眼ばかりだなって気づいたので、そろそろ男子の様子も書こうと思います。

偏りがひどいんですよね……

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