12.王太子とのデート(NL)
テスト最終日の天気は快晴。ココアラルの心情とは真反対だった。
テストも終わり、帰りのホームルームも終わり、重い足取りで正門へ向かう。担任と寮長の押印を済ませ即日発行した外出認書を門員に見せて通過すると、既にアラルドはそこに居た。
ココアラルを見て輝かんばかりの笑顔だ。
普段とは違うのは、眼鏡を掛けて前髪を重たく弄っているだけだ。人相がわかるひとが見ればそれが王太子だとわかるものだが、指さして言えるほどの大物はいない。
「ごぎげんよう、殿下。いつもとは異なる雰囲気ですね」
「ごきげんいかがかな、ココアラル嬢。そうだね、お忍びだから少しでも顔を隠せるように」
隠せていませんけど、とは言えようもなく。
行こうか、と促されて足を進めた。
「お店は決まっているんですか?」
「見て回ってと思っているから、決めていないよ」
「妹様はおいくつでしたっけ」
「今度の誕生日で13歳だ。遊びたい盛りで、王宮の猫も追いかけ回す」
「殿下と同じで、猫がお好きなんですか?」
「いや、どちらかというと、抱きつける大型犬かなあ。抱きついている間は静かなものさ」
そう言いながら思い出しているようで、くすくすと笑うアラルド。
大型犬とふれあう機会がなかったココアラルにはピンとこなかったけれど。
「昼食はまだだよね?」
「そうですね。終わってすぐ出てきたので」
「どこか寄ろうか。街ならココアラル嬢のほうが詳しそうだ。いいところある?」
「殿下ほどの方の舌をとなりますとなかなか……」
「僕はこう見えて庶民舌だよ。猫カフェのオムライスだって好物だ。ココアラル嬢も時間があれば一緒に行こう」
「ねこかふぇ……」
「それとさ、殿下って呼び方やめよう。いまはそういうの関係なし」
「えっ」
たしかに、人の多く居る街で身分がわかる呼び方をするのは危険がある。
恐らくこの王太子には隠れながら護衛がついてきているだろうことも理解できるが、それでもすぐに動くことが難しい場面もあるだろう。
にこにこと期待してココアラルを見るアラルド。
「……じゃあ、お呼びしないようにします。どちらにせよ2人ですし」
「えー! そりゃあ会話するだけだったら言わないかもしれないけど、いや言おうよ」
二人称で済ませる、それが無難。
そう決めてココアラルは前を向き直した。
雑談をしながら歩けば、街はもうすぐそこで。
ココアラルには馴染み深い街。見慣れた街だったが、一ヶ月ほど離れていただけで久々な気分になった。
「昼食、あそこはどうでしょうか」
すっと指さしたのは、小さな店舗。
「こだわり卵を使用しています。店の裏に庭があって、そこで大切に飼われているニワトリから朝一番で取れた卵です。卵の取れ数次第で店じまいが早いんですけど」
「いいね。さっきも言ったとおり、僕はオムライスが好きだよ」
「おすすめは、カルボナーラパスタです」
「じゃあそれにしよう」
「……本当にいいんですか」
「ココアラル嬢が勧めてくれたんだ。もちろんだよ」
にっこり王子スマイルに、ウッと喉から変な声が漏れた。
小説の色味を変えてみました。どうでしょう。
カプの話は()で書くこととします。