10.魔力操作はスパルタで
「じゃあ今日は、わたしがココちゃんに魔力操作を教えるね」
「よろしくお願いします、カーティア先輩」
その日はよく晴れていて、気分転換に室内ではなくピクニックがてら外でということで中庭に来ていた。
暖かい陽気に色とりどりの花が咲いており、鮮やかな中庭の一角で、ココアラルとミレイとカーティアが向き合っていた。
「カティーはヒロイン補正あるのか魔力はピカイチ。私より適任だわ」
「普段使うことはあるんですか?」
「日常生活に使うひとは使うけれど……使用人とかが家事にね。あとは魔物討伐くらいだから、滅多ないかな」
「紅茶のお湯を沸かすくらいにしか使ってないわ」
「贅沢な魔法の使い方……」
人が多く居る王国の街に現れることは滅多にないため、だれしもが実際に見たことはなかったが、この世界において魔物が登場する。
ゲームもラストはドラゴンを倒すことであるし、居るのだという知識はあっても実感がわかないのが正直なところだった。
基本的に魔法を使うことがない生活であっても、魔法を学ぶことには利点があった。
将来就く職の幅を広げるため、というのが第一の目的である。
王宮に仕えるには有事のために攻撃魔法と防御魔法が使えることが必須であったり、効果の高い治癒魔法を使えるのなら軍に属する治癒士になれる。もちろん、魔物を討伐する軍隊に入るならば、強力な攻撃魔法が使えれば剣技がなくてもなることができる。
「体内の魔力循環はどう?」
「なんとなくは、感じられます」
「体調崩したときとかに、自分で調節できるとちょっと楽になれるから、しっかりと掴んでいたほうがいいかな」
カーティアがココアラルの手をとり、目を閉じる。
指先からほのかな暖かみがココアラルを包んだ。
「基本的に魔力は身体の中心……腹部にたまりやすいから、それを動かすイメージをして……たとえば頭が痛かったら、頭にぬくもりが行くように意識する」
目に見えることのない魔力など、所詮イメージでしかない。
ココアラルも目を閉じ集中するが、動かすイメージといわれても、魔力そのものを浮かべるので精一杯だった。
「ボディークリームをまずお腹に塗って、それをどんどん塗り広げるイメージよ。魔法を使うときは手から水が垂れる感覚かしら」
ココアラルが四苦八苦していると、ミレイがアドバイスをしてくる。
コツをつかめてきて、目を開けるとそこにカーティアは居なくて。
ミレイの居る方角に顔を向けると、その横に並んでいた。ミレイはミレイで、手の内に小さな火の玉を抱えている。
「……み」
「そぉれっ」
にっこりと笑顔で、その玉が投げられた。
「れぇぇええッ!?」
防ぐように手を前にだすのと、火の玉がココアラルに到達するのとが同時くらい。手になにかが触れたと思ったら、パァンという派手な音を立てて、煙が上がった。
「魔力循環されて、手が魔力に覆われていれば軽い被害くらい防げるわ」
「行動より言葉がいいかな!」
「上手にできてるから防げるとおもってたんだけど、やっぱり急じゃあ怖いよね」
「カーティア先輩も止めてくださいね!」
再度、ミレイの指先に火が起こる。ひとつ、ふたつ、みっつ……。
「まさか」
火を起こす魔法はあとで習うはずよ、と今ほしいわけではない情報言うミレイの、歪んだ笑顔が恐ろしい。
「きちんとずっと魔力循環させてなさい。防げれば怪我はしないわ。当たったら熱いけれどね。魔力操作に慣れて、壁を作るように集中的に魔力を集められたら、跳ね返しくらいできるようになるわよ」
言い終わるや否やそれらを投げ始めた。
「スパルタァ! カーティア先輩たすけてっ」
「がんばって、ココちゃん」
わたしは跳んでっちゃった火を消すから、と水の玉を準備するカーティアに少しの殺意を抱き。
そうして行われたミレイ式トレーニングは、鐘が鳴るまで続いた。
魔法アピール(笑)
魔物バトルはしば~らく出る予定はありません。