がーるみーつえすけーぴんぐぼーい
タイトルは勢いだから正確なのを求められても困ります。
「はぁ……はぁ……」
息がきれる。動悸が耳鳴りのようにうるさい。
「『速射』『速射』『速射』!!」
成人男性大の鋭利な氷塊が出現し、目的に放たれるが特に自分が望むような効果はでない。
直撃したらその不躾な歩みを一度止めるぐらいで、煩わしいと鼻息を鳴らすぐらいだ。
「なんでこんなところに原種が……」
巨大な斧から眩い雷光が走るたびに、その屈強な体躯は闇夜から露わにされ絶望感が増す。大人ですら簡単に捻り潰してしまうだろう屈強な肉体に、頭部に人間のそれではなく牛そのもの。神話に出てくるミノタウロスそのものだった
完璧な自分の準備不足だ。
だけど、少しの言い訳も言いたくはなる。弱音や言い訳は嫌いだけれど、死ぬ間際ぐらいは許して欲しいものだ。
こんな学校などという空間に原種クラスに値する伝説級の魔獣が出るなんて夢にも思わない。理不尽だ。出ても低クラス魔獣のゴブリンとかその程度が普通だろう。
駄目だ。どれだけ攻性魔法を放とうが動きが全く止まらない。
害虫を煩わしいと駆除するかのごとくその大斧が振り下ろされた。
「ッッッガハッ」
直撃まではしなかったものの、衝撃波までは避けられなかった。
全身に激痛が駆け巡る。胃を極太の棍棒でぐるぐるとかきまぜられたような感覚だ。
果たして私は五体満足で生きているのだろうか?今生きているのが疑問なぐらいに感じる。
「っ……まだっ……」
手は動く。足にもきちんと感覚はある。ならまだ、立ち上がれる。機能停止を申告する本能なんて無視しろ。無視して立ち上がれ。
早く立たなければすぐに死体になるだけだ。
立ち上がりながら必死に思考する。不思議とこんな状態になっても冷静な自分もいるらしく淡々とpcのように生き残るための手段を模索している。
駄目だ、どう考えても時間が足らない。アレを退けるには最低でも7構成の魔法は必要になる。
当たり前だがそれなりの威力を求めるなら時間が必要となる。
7構成の魔法はどれだけ急いだとしても10秒以上かかる。一秒が永遠のように感じる生死のやり取りではあまりにも長すぎる。
速射による呪縛も単なる時間稼ぎにしかならない。
かといって高威力の魔法を放つにはどうしても時間がいる。
完璧なつみだ。
逃げても速度の関係でどうあがいても追い付かれる。
相手を倒す攻撃も間に合わない。
でもまだ。まだ諦めるには早すぎる。何もしないで諦めるにはやり残した事が多すぎる。
「『速射<閃光>』!!!」
目をつぶり力の限りに叫んだ。
暗がりを昼と思わんばかりの閃光が辺りを包み込む。
情報取得が視覚である以上突然の照度の落差には対応できないはずだ。
不確定要素が多いがこの時間にかけて、勝負を仕掛けるしかない。
「『形……』」
「ッ『速射<障壁>』『速射<障壁>』」
大斧が目の前に迫まりくる。
斧を投げたのだ。
咄嗟に張れるだけ張った魔法による盾。
ギギギッ
目の前に半透明の力場が形成され斧を阻む。
斧と障壁は一瞬拮抗するようにぶつかり合い、盾は斧に押されるようにヒビが広がっていく。
持たない。
咄嗟に張っただけの障壁では投げられた斧の勢いを防ぐことは出来ない。
斧の勢いに耐えきれず、障壁は砕け硝子細工のように粉々に砕けて散った。
しかし、全てとは言えずとも多少の勢いは相殺出来たのか斧は直撃することなく足元の地面に勢いよくぶつかった。
「あああああ!?」
しかし斧が地面にぶつかることによりコンクリートで出来た床が砕け、発生する衝撃までは防げない。
衝撃が肢体を襲う。
ミノタウロスはゆっくりと進み地面を抉るように突き刺さった斧を引き抜く。
弱った獲物を狩るようにゆっくりと私に近づいてくる。
その時全てが終わったかと思った。
全ては自分の油断だった。
あんなにも頑張って来たのにこんなあっさり終わるものなんだなと思った。
やりたいことはたくさんあった。
その何もかもがこんなところで終わりとは。
「もう……だめなの?こんなところで私は……」
今出来る全てのことをやりつくした。
死力を尽くした最後の賭けも呆気なく終わってしまった。
絶望だ。
心がどうしようもないぐらいにどす黒い靄に包まれていくのが分かる。
そして、決して折るまいと誓った心の芯が折れそうになったその時ーーー
そんな時彼は現れた。
ーーーー
パンッ
空気が破裂したような音が校舎に響き渡った。
夜中の校舎は静かでたったそれだけの音がよく響く。
「はぁ……惰眠を貪ってたら魔物がいるとかどういうことだよ……」
惰眠を貪ってたら、校舎に巨大な魔獣が闊歩してる。それなんてデストロイ?
何あいつ僕の方みたら問答無用で斧を振り下ろしてきたよ。カルシウム不足かよ。
しかも、なんか斧がバチバチ光ってるし。こわい。
パンっ
また破裂音、まるで拍手をするかのように聞こえる。ていうか、さっきから大仰しくいってるけど単なる拍手なんですけどね。
僕がただただ拍手をするだけで、振りかざされた斧はあらぬ方向に突き刺さる。
いや、当たらないにしてもすんごい風圧だなぁ。あと、破砕音も凄い。ていうかこのクレーターみたいになっている地面は誰が修理するんだろね。
不思議なことに見上げるほどの高く黒い体躯を持つ魔物は拍手をするたびに攻撃対象を見失っている。
おかしいなー 世の中不思議だなー
「はいはい、今日は調子悪そうだけからお互いにもう帰らない?もう家かえって惰眠を貪りたいんだよなぁー」
調子悪いときは無理しない方が絶対いいと思うんだよなぁ。僕なんてベビーカーにぶつかって鎖骨折れてるからほんと調子悪い。
「グラアアアアアアア!!!!」
うるさっ
もうちょっと近所迷惑とか考えたほうがいいと思う。ほら、最近そういうのうるさいですし。
「あ、これはダメな感じかぁ……どうにもならなそうですね」
往々にしてどうしようもないことは存在する。
年金問題とかね。若者には払わしといていざ老人になったら払えないから自分で頑張ってねとか糞すぎでしょ。
目の前のこれもそれを如実に表しているようだ。
ミノタウロスは逆上して斧を振り回す。
気持ちは分かるよ。ゲームとかでも雑魚だと思っていたキャラを倒せないとくそムカつくもの。
パンッ パンッ
「あー、不味い不味い!こう猫だましばっかり使ってると防戦一方でやばい、死んじゃう!死んじゃう!」
ほんと助けて。ほんとこれ怖いから。考えてみて???斧が目の前に通りすぎる恐怖をさ。
「くっそ!人参でも追ってろ!"馬鹿が見る"」
ミノタウロスは見えないなにかが見えているのか怒号を上げて追いにいってしまった。
知能指数が低いと騙し安くて助かるなぁ。
とりあえずこれで一段落だと思う。
「ふぅー死ぬかと思ったぁ。」
口はパクパクと動くけど、膝とか笑ってるよ。ガクガク。汗も滝のように流れてるし、帰って風呂に入りそのまま寝落ちしたいね。
正直なところ死なないとは思っていたけど、やはり怖いものは怖い。案外人はあっさり死ぬものなのだから。
「さてと、大丈夫……じゃなさそうだね?」
先程までは大して気にしていなかったが衣服はずたぼろで隙間から見える肌は中々にセクシー。
まぁ、青アザだったり血まみれだったりするから正直なところ眼福とは言いがたいけどさ。
「あ、あなたは北原くん……?」
よろよろと一ノ瀬が立ち上がる。生まれたての小鹿みたいだなぁ。
冷静に考えるとやばいなこの絵面。見方によっては僕って強姦魔じゃない?
「よっす。出来れば無いもなっかたかのようにお互い振る舞った方がいいと思うんだな。うん、そうしよう。」
よし、一刻も早くこの場所から退散しよう。
クレーターだらけになった地面は誰かにまかせた。僕に罪ないし。
ボロボロな一ノ瀬さんは……まぁ、その彼女は強いお方だと信じているのでノータッチで帰るとしよう。イエス、ノータッチ!
イケメンは手当てするなり、病院に連れていくだろうけど僕はイケメンじゃないしな。
いやー残念だなぁー本当残念。イケメンだったらなー!本当残念ですわー!!!
本当に帰りました。