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幸福譲渡
僕の持っている能力は、世界で1番不幸な力だと思う。
僕自身の幸せを削って、誰かに幸せを分け与える。
それは、僕が不幸になっていくだけの能力だった。
始めはこの能力を使わずにいた。
けれど、目の前で大きな事故が起きた時は咄嗟に使ってしまった。
すると虫の息だった被害者は、事故が嘘だったかのように無傷となった。
代わりに僕は財布を無くしたけれど、分け与えた幸福のおかげで人の命を救えた。
そのことが嬉しかった。
僕はその日を境に、人助けをするようになった。
自身に降りかかる災厄を顧みず、他人を不幸から救っていった。
そして全ての幸せを使いきり、今まで救ってきた人達を見て気が付いた。
僕1人が幸せでいるよりも、周りの多くの人間が幸せになるほうがいい。
僕にとっては、皆の笑顔が1番の宝物なんだ。