愛の形をした嘘
新宿駅に着いた。駅の地上ホームから見える街並みは、池袋とはまた違った雰囲気を醸し出している。
以前ダークに紹介されたゲームセンターは、ビル群に阻まれ、ここからでは見えないようだ。
駅の改札を出ると、池袋や秋葉原とは異なる雰囲気の人々が現れた。いつぞやのヤクザのような黒服の男や、派手なコスチュームに濃厚メイクの女、普通ならドン引きするポイントで僕は1人、その光景に見惚れていた。
僕は、何をしているんだろう。
フリルに会いたい。会ってたくさんお話しして、愛を深めたい。どこにいるんだろう。LINEしてみよう。
〔ねえねえ今何してる?〕
〔もうすぐバイト、私忙しいんだよねこれでもw〕
返ってきた言葉に落胆しながらも、僕はダークの紹介してくれたゲームセンターへと足を進めた。そこには意外とすんなり到着した。
「あれ、シャイン?」
ゲームセンターの入口にさしかかるとすぐさま、ダークの声がした。
「ダークも来てたのか、一緒にスタストやろうぜ」
僕らはスタストのある2階へエスカレーターで登り、早速向かった。
しかしそこには、予想もしない光景が広がっていた。
4台あるスタストの1番端の台に、黒髪ロングの少女の姿が見えた。
「えっ…?」
僕は目を疑った。数分前の出来事と今起こっていることの辻褄が、どうしても合わなかったからだ。
なぜ、そこにいるんだ。
「ごめんダーク、用事思い出したから帰る」
怒りを必死に抑え込みながら、僕は走ってゲームセンターを出た。
なぜ、そこにいたんだ。どうして僕を騙したんだ。僕と遊びたくなかったのか。デートしたくなかったのか。好きじゃないのか。僕の片想いなのか。
数々の負の感情が抱えきれなくなり、涙となって現れた。周りからの視線は気にならなかった。
「なんで…なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
泣きながら僕は激走して、何度も自転車にぶつかりそうになりながら、駅に着いた。
駅にいたのはこれから新宿でデート、というカップルばかりだった。
改札を通り抜け、階段を上がり、ホームの待ち列に並ぶ。まだ目頭が熱かった。
帰りの電車の中で、LINEを開く。
フリルに送ったメッセージに、既読はついていなかった。
僕は何もわからなくなった。フリルが彼女である確信も、自分が好きと言われた事実も、今起こっていることも。
それでも僕は彼女を信じることに決めた。僕が悪いことをしなければ、彼女は僕の手中に収まって、物事は上手く進むのだ。
彼女は僕にとって、地位や未来を獲得するためだけの道具なのだ。
好かれているのだ、僕は。
そうでなければ、僕は生きる意味をなくしてしまうのだから。
凍りつく寒さと、膝の高さまで積もった雪。
僕は一度、僅かに残った力で足元の雪を殴った。雪を砕きながら、数センチの深さに右の拳が入り込むと、硬い土に辿り着いた。
痺れる右手に、多少の痛みを感じた。それとともに、数時間前の土の感覚を思い出した。
物事には原因があって、しかしその原因は時が経てば埋もれていく。
原因が完全にわからなくなったその時が、物事を一つ忘れる瞬間。
僕の頭から、また一つ、記憶が消えた。