青春の味
人間とは、どうしてこんなに儚いものなのだろうか。
神が理不尽に決めた運命によって、いつしか死を選ばなければいけない。そしてその時、全ての記憶も道連れにしなければならない。時が経つに連れてじわじわと、漂白剤とも言える白いカーテンに、体が包まれていく。
なのに別れが近づくと、生きてて良かったと思える記憶が走馬灯のように舞い戻ってくる。
神は薄情で残酷に、人間を作ってしまった。
彼女のプレイが終わると、いよいよ僕らの番がやってきた。
彼女は列の後ろに並び、すぐさまスマートフォンに目を落とした。
「さあシャイン、今日はガッチガチのガチプレイな!」
ダークが野太い声で言うと、僕は前に進み、『昨日ぶり』のスターストリームと対面した。だが、僕の意識は全く別のものに奪われていた。
「どうした?やる気ないのか?」
彼が僕の顔を覗き込み訊いた。やる気がないわけではない、早くやろう!とは、到底言えるわけもなかった。
頭の中は女の子でいっぱいだったからだ。
「まあいいさ、とにかくやるぞ」
「おう」
それ以上の言葉は出てこなかった。
プレイが終わりまた列の後ろに並ぶと、すぐさまダークはこちらに疑問の眼差しを向けてきた。
「なんか悩みでもあるのかー?なんかあるなら相棒に言ってくれや」
そこまででもない、実際そうだった。
「なんもないよ」
一目惚れした女の子を横目に、小声で答えた。
しばらく、沈黙が続いた。話すことも特になかったし、ダークの元々あった無限大のやる気も、一回プレイしただけで燃え尽きてしまったようだった。
そんな時に僕はずっと、どうしたら目の前の女の子に話しかけられるかを考えていた。
次の瞬間、ふと便利なものがあることに気づいた。
「ねえ君、LINEやってる?」
僕の口から飛び出たのは、いわゆる出会い厨(出会いばかりを求め手当たり次第に異性に声をかける人)のような一言だった。
女の子はちょっと驚いた後に、スマートフォンに目を戻し、LINEを開いた。
「うん、友達追加する?」
僕にとっては、栄光が降り注ぐようなひと時だった。感激だった。
「うん!」
ダークはこちらの会話に気づいたようで、少しニヤついていた。
「君も友達追加する?」
ダークは、え、自分も?という顔でなし崩し的に友達登録されていた。
「あはは、これでみんな仲良しだね」
ひたすら彼女は可愛かった。天使のようだった。僕はゲーマーでよかったと、改めて思った。
家に帰ると、息つく間もなく彼女にLINEを送っていた。僕の恋心は、最高潮に達していた。
自分の部屋のベッドに寝転び、送るメッセージを考えたが、入力しては消し、入力しては消しの繰り返しで、なんだかんだでもう30分は経っただろうか。
「なんて送ろう…いきなり告白なんてありえないし、世間話といっても会ったの初めてだし何話したらいいのか…」
試しにインターネットで、『第一印象が良くなるLINE』と検索してみた。
「これだ…!これだよ!」
僕には確信があった。これからの彼女との恋愛を成功へと導く、初のLINE。
〔その髪型、可愛いですね!〕
そう入力し、送信ボタンをタップした。僕には絶対的な確信があった。
しかしすぐに、僕は気づいてしまった。
「ただのナンパじゃねえかこれえええええええええ!!!」
急に恥ずかしくなり、ベッドの上をまるで斜面を転がる岩のように転げ回った。
「頼む、ブロックされるのだけは嫌だ…!」
LINEというSNSには、ブロックという便利な機能がある。相手側からのメッセージを一切受け付けなくなる、つまり話したくないという意思表示になり得る。
スマートフォンの通知欄に、『フリル』という名前が出ている。あの女の子のハンドルネームだ。
〔ありがとう!また遊ぼうね!〕
こうして僕は、彼女のことを本当に、心の底から大好きになったのだった。