とびっきりの自分勝手
白い色が周りの景観に溶け込み、緑も茶色もゆっくりと目を覚ましたように徐々にその姿を現す。レイも目を覚まし、上体起こす。自分の体が草を編んだ寝具のようなもので支えられているのに気づくと、同じような質でできた縄で縛られた頭目が目に入ってくる。昨日の悪夢が質の悪い現実だと思い知ってしまった。レイと共に移動してきた兵士たちはもういない。彼らは道中、自分に良くしてくれて、とても頼りがいがあった。彼らのことを胸に留めるとともに、自分は何としても辺境伯の所へいかなくてはならない。決意を新たに編んだ草の上に立ちあがる。
周りを見渡して明文を探すが見当たらない。ふと、既視感を感じ、空を見上げると彼がいた。レイの頭上で明文は睡眠をとっていた。どこから取り出したのか埴輪をまくら代わりに頭の下に置き、空中でぷかぷかと寝ている。服も水玉模様の寝巻に着替えており、ナイトキャップと目隠しも被り、鼻提灯も出して、どこから見ても熟睡している。
暢気なものだと、少し感情が泡立つが、そうも言ってられない。レイは明文を起こそうとするが躊躇してしまう。今、少しでも辺境伯にもとへたどり着く成功率はあげておきたいものの、この魔術師と名乗る、明文の機嫌を少しでも損ねることを恐れてしまった。レイが知る魔に通ずる実力者達はみな変わらず、変人だ。富にも権力にも興味を持たず、中には自分の身も家族の身も顧みず、ただ魔の神髄を求め行動する。例外もあるがほとんどがそういった存在だ。中でもあれほど異常な力を持ち、人里離れたところにいた明文はとびっきりのそれであると。実際に王女にも言葉遣いを改めなかったことから傍若無人な人柄がうかがえる。だからこそ迷ってしまう、どの行動が間違いなのか、自分の目的を達成できるか?
レイにはかれらのそういった利己的な気持ちがよく理解できなかった。人の幸せと平穏を願うレイにとって、わかるはずなかった。少しは自分にもあるがあそこまで突き抜けた我が儘さを理解できなかった。そのためにレイには明文の気分の落とし穴がどこにあるかわからない。この魔術師の気分次第でこのの旅路の成功が決まってしまうからだ。今回の旅で起きた襲撃は元々、織り込み済みだったのだ。なぜなら、明らかに護衛の兵士が少なく、自分を蔑ろにした旅路だった。間違いなく自分を殺害する手引きをしたものが国の中枢にいる。ウスリム辺境伯は辺境にいる貴族達の束ね役で、今回の旅を拒否することは王家の不信に繋がるので行かざるおえなかった。つまり、これは辺境伯の所への旅でもあり、誰かとレイとの勝負でもあったのだ。
そうして、悶々としていると、明文が目を覚ました。大きく口を開けてあくびを行う、腕と足をググッと伸ばし、体をほぐす。自分のまくらになっていた埴輪にお礼と魔石を上げると、埴輪はそれを受け取りどこかに消える。レイは突っ込みたくなるのを我慢した。
「おはようございます。お目覚めですか?」
「おはよ、もう起きてたの?・・・・・ああそうそう、めんどくさいから、飛んでいくね。」
「はい?」
すると、頭目とレイの下にあった地面ごと、浮かびあがる。どんどんと高度を上げ、自分達がいた森を見渡せるぐらいまで浮かび上がった。レイは周りの景色が変わっていくのに驚愕し、何が起きているのか分からず慌てる。明文はまだかわらず、寝巻のまま南の方角を見つめている。まだ眠いのか大きなあくびをまたした。
「何が!どうなって!」
「うーん、地面ごと結界で閉じ込めて結界を動かしているだけなんだけど。」
「ほえっ!せめて、説明してくしてください!!」
「だって、どうせやるし、それまでの説明なんて時間の無駄だよ。」
うっすらと笑みを浮かべた明文、レイのその反応を楽しんでいるかのように見える。
「ほらほら、あともうちょっとで辺境伯領だよ。」
「うわあああああ!!!」
レイは明文の話が聞けないほど慌てていた。高速で景色が変わっていく、その疾走感を味わえるように結界に工夫を施したのだが、幸いしたのか、レイに有り余るスリルを与えていた。
(うーんと、高所恐怖症とかかな?これだったら転移魔法のほうがよかったかな?でも力をわかりやすく見せつけるにはこういったほういいと思うんだよなー。しかし、うふふ、コロコロと色を変わる子だなー。やっぱり外に出てよかった。人は面白い。)
明文は世の中には通常いることにがない1万年という悠久の時間を過ごした魔術師である。そこらの変人よりもわがまま加減が違う。完全に自分の都合でしか動いていない。
そうして、辺境伯領についたころには満足しきった顔の明文と呆然としている頭目と気絶したレイであった。
お読みいただきありがとうございます。
自分勝手な人って殺意が沸くぐらいむかつくタイプと
思わず笑っちまうタイプに別れますよね。
感想やおかしいと思った点などどしどし受け付けております。
望みを言えば、おもしろい、その一言が欲しゅうございます。